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働き手不足1100万人!?~ワーキッシュ・アクトという解決策

「働き手不足1100万人の衝撃(2024年リクルートワークス研究所プレジデント社)」という本を読んだので、その紹介と、日常生活と照らし合わせて感じたことを書きたいと思います。

概要

この本の前段で説明されている内容は概ね以下のようなものです。

・これまでの日本企業の人手不足は景況感や企業業績に左右されていた。
つまり、企業が儲かっているときは、製品の製造量が増えたり、商品の販売数も増えたりするため、その分大量の人手が必要になって(労働需要の増)、それが働き手不足の主な原因だった。

・一方、現在の人手不足は景況感や企業業績に左右されず、働き手の絶対数の減少による労働供給量の減少がボトルネックになって働き手不足が発生している。

・人は労働力の提供側であると同時に労働力を消費する(=他者から労働サービスの提供を受ける)側でもある。
何歳になっても労働力を消費する一方、加齢によって人は労働力の提供者ではなくなっていく。
 そのため、超高齢社会は労働需要に労働供給が追い付かず、人手不足が加速する社会でもある。

・現在の傾向から著者であるリクルートワークス研究所が推計したところ、2040年に全産業で1100万人の働き手が足りなくなる

・これは、単に企業の生産活動に影響を与えるのみならず、介護サービスやスーパー・コンビニなどへの商品の配送といった、私たち一人一人の生活の維持のために最低限必要とする労働力を日本社会が提供できなくなり、これらのサービスのこれまで通りの継続が難しくなるかもしれないという問題である。

・仮に介護サービスが受けられなくなれば、働き盛りの人が親の介護などで仕事を休まなければいけなくなるし、スーパーで買いたいものがすぐに買えないという生活の質の低下が生じるかもしれない。

以上がこの本の問題提起です。

問題解決のための打ち手~ワーキッシュ・アクト

本書では「人手不足で店をたたまざるを得ない」「閑散期のはずなのに毎日仕事を断っている」など、働き手不足を背景に窮状を訴える企業の実例も記載されています。

また、将来1100万人の働き手不足が生じるという推計について、算出方法もけっこう細かく記述されていました。
私は統計については素人ですが、産業別に統計を取り、かなりしっかりとしたシミュレーションをしている印象でした。

いずれにしても、1100万人の働き手不足という推計は衝撃的です。

これらの問題を解決するために本書では以下の4つの打ち手を提案しています。

・徹底的な機械化・自動化
ワーキッシュ・アクトという選択肢
・シニアの小さな活動
・企業のムダ改革とサポート

この中でも特に「ワーキッシュ・アクト」という聞きなれないフレーズに関心を持ちました。
ワーキッシュ・アクトを本書では以下の通り定義づけています。

コミュニティ活動や趣味、娯楽といった本業の仕事以外の活動のうち、「誰かの何かを助けているかもしれない活動」を指す。

「働き手不足1,100万人の衝撃」古屋星斗+リクルートワークス研究所

著者であるリクルートワークス研究所が名付けた概念のようで、このなかでは一人ひとりの人間が本業以外でも活躍する場面が想定されています。

例えば、
・スマホのアプリゲームを活用して、地域のマンホールや電柱などを撮影して位置情報に紐づける行動
(その結果、アプリを介して地域のインフラの状態が網羅・一覧化される)
・ランニングやウォーキングをしながら地域を見守る「パトラン」

などが紹介されています。

ポイントとしては3点です。
①「結果的」に誰かの何かを助けること
 →「結果的」になので意識高く始める必要は無い

②何らかの「報酬」があること
 →ここでの報酬とは金銭的報酬だけではなく、誰かから感謝される心理的な対価も含まれるようです。

③片手間でできること
→片手間でないと継続できない

本書で紹介しているワーキッシュ・アクトの事例としては、町内会などの地域活動や、副業・兼業、子供の教育活動の手伝いなどもあげられていました。

こう書くと、ボランティアやプロボノ活動など、既存の社会貢献活動の焼き直しにすぎないのではないかという疑問もありますが。

ボランティアとの違いは「結果的」に誰かの何かを助けること。
ボランティアのように誰かを助けることを主な目的とした行動ではなく、個人の趣味などの延長の活動が結果として誰かの役に立つこと。
また、プロボノと違うのは報酬があることだと自分なりに解釈しました。
(私自身はプロボノ活動をやったことはありませんしボランティア経験が豊富というわけでもありませんので、適切な解釈かは自信がありませんが)

そうはいっても若干の既視感は覚えますが、本書で「ワーキッシュ・アクト」という新しいフレーズを用いている意図としては、
・一部の意識の高い人や善意や義務感の強い人だけの閉じた活動にしてはいけない
・単なる善意ややりがいの搾取になってはいけない
という思いがあるように感じました。

既存の社会貢献活動も、新しいフレーズで捉えなおされてその裾野が広がるのだとしたら、このような概念の提唱には意義があると感じます。

おそらく以前から一定の人が行っていたであろう社会参加の活動に対して「ワーキッシュ・アクト」と命名することで、意識してそのような活動にかかわろうとする人が増えてくれば良いと思います。

身近なところにワーキッシュ・アクトが・・・!

この本を読んでいるときに、ちょうど妻から聞いたchocoZAPのある仕組みのことが頭をよぎりました。

ご存じの方も多いと思いますが、chocoZAPは「1日たった5分からでOK」「着替不要、シューズの履き替えも不要」などの手軽さをうたったスポーツジムです。

最近とても店舗が増えているようですね。
そんなに店舗を増やして施設の維持管理が大変だろうなと思っていたのですが、そこに、前述のワーキッシュアクトに繋がる工夫がありました。

妻は数か月前からchocoZAPに加入しているのですが、そこには「フレンドリー会員」なるものがあるらしいのです。

「フレンドリー会員」はchocoZAPのHPで以下のように紹介されています。

chocoZAP店舗の清掃等のお手伝いをしていただく代わりに月額料金の割引を受けられる制度です。
ぜひchocoZAPを一緒に盛り上げて頂けますと幸いです。

chocoZAP  HPより

なるほど。

スポーツジムの器具は利用者の汗などで汚れやすいわけですが、スタッフではなく利用者が清掃をすることで、器具の清潔は保たれ、スタッフを巡回させる必要もないので人件費を抑えられるということのようです。
妻によれば、清掃以外にもマシンの使い方をほかの利用者さんにレクチャーするコースもあるようです。

「一緒に盛り上げていこう」というフレーズからは、利用者も一緒に支えているのだという雰囲気をうまく出そうとしているなと感じます。

もちろんそんな善意に頼るだけの仕組みではなく、フレンドリー会員として清掃活動などを行うと、月々の利用料が割り引かれる仕組みになっています。

割引額は週1回の清掃(月4回)で、1,000円オフ。
chocoZAPの月額利用料は2,980円(税抜)だから、約3割引。これは大きい!

このフレンドリー会員は先ほど出てきたワーキッシュアクトの3つの条件に当てはまっていそうです。

・「結果的」に誰かの何かを助けること
 →ほかの利用者やchocoZAPの運営会社が助かる

・何らかの「報酬」があること
 →利用料の減という形で本人にメリット

・片手間でできること
 →まぁ片手間でできるだろう

面白いのは、運営会社が単にボランティアとして清掃をお願いするのではなく「フレンドリー会員」という名目で割引制度を設け、利用者が清掃活動したくなる仕組みを作っていること。

単なる善意のボランティアとはここが違うんでしょうね。

そして名前。

「フレンドリー会員」

お金のためもあるけど、chocoZAPに愛着がわいて、他の利用者の役に立てることが嬉しいと思えるようなネーミングなのかなと思います。

人手不足の中で、施設の清掃のためだけに外部委託したりスタッフを巡回させるのはなかなか大変。
それを利用者さんにやってもらおうという面白い発想だと思いました。

「雇用」という捉え方だけでは働き手不足は解決しなさそう・・・

本書の紹介に戻ります。
ワーキッシュアクト以外にも、働き手不足を解決するための打ち手で興味深い記載がありました。

たとえば、
・企業のムダ改革とサポート

同社の調査では、企業の役員のうち7割の人が自社に何らかの無駄な業務があると感じているということ・・・!
これにはちょっと衝撃を受けましたが(気づいてるならなんとかしろと)、あながち笑い事ではないなと感じます。

人手不足解消には、人材をどこかから獲得していくという視点はもう限界で、それよりも

「本当に人手が必要なのか?」
「その仕事は絶対にやらなければいけないのか」

という根本的な問いかけが必要であろうと思いました。
これは私自身も管理職として意識しておかなければいけない視点です。

そのほか、機械化・自動化に関する事例やシニアの活動についての考察も興味深かったです。

以上、私の読解力や表現力が足りないために上手に表現できていないところもありますが、非常に示唆に富んだ本だと思います。

これからの人口減少、働き手不足のトレンドは明らかなので、単に「雇用」という括りの話として見るのではなく、消費者としても企業に過度なサービスを求めないなど、自分たち自身が出来る事を考えていくのも必要なアプローチだと思います。
それが巡り巡って自身や自分の子供世代に返ってくるはずですから・・・

最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m


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