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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2023年6月の記事一覧

【超短編小説】 タイミングの悪い男

【超短編小説】 タイミングの悪い男

私はいつもタイミングが悪い。

バスが発車した後にバス停に着いたり、

傘を持ち忘れた日に限って雨が降ったりする。

自分だけで済むなら構わない。

問題は、他者が関わる時である。

例えば、レストランで注文に迷った挙句、ようやく選んだメニューが品切れであったりする。

上司の機嫌が悪い時に限って、ミスの報告をしなければいけなかったりもする。

たいてい、相手には嫌そうな顔をされてしまう。

私に

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【超短編小説】 その言葉

【超短編小説】 その言葉

ある偉大な人物は亡くなる前にこう言ったらしい。

『その言葉は、人間に最も悪影響を及ぼすであろう。

ある人にとっては非常に残酷で、ある人にとっては人生を狂わせ、ある人にとっては死に値する。

一度、その言葉を聞けば耳から離れず、呪縛のように付き纏う恐ろしい言葉である。

引いては我々が生涯において絶対に口にしてはならない言葉である』

少年は静かに本を閉じた。

「その言葉とは、何だろう?」

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【超短編小説】 静寂に包まれた月明かりの下で

【超短編小説】 静寂に包まれた月明かりの下で

あれは俺が酒に酔って夜道を歩いていた時の話だ。

向こうから歩いてくる一人の男が俺の肩にぶつかった。

振り返って男の顔を見ると、幼い頃に母と離婚して家を出て行った父親だった。

「良樹、良樹なのか」と男は言った。

「何にしてたんだよ、今まで。俺や母さんのこと、放っておいて」

「済まない、本当に済まなかった。許してくれ。父さんはもうすぐ死ぬんだ」

「何、言ってんだよ!わけ分かんねぇこと、言う

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