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【超短編小説】 その言葉

ある偉大な人物は亡くなる前にこう言ったらしい。

その・・言葉は、人間に最も悪影響を及ぼすであろう。

ある人にとっては非常に残酷で、ある人にとっては人生を狂わせ、ある人にとっては死に値する。

一度、その・・言葉を聞けば耳から離れず、呪縛のように付き纏う恐ろしい言葉である。

引いては我々が生涯において絶対に口にしてはならない言葉である』

少年は静かに本を閉じた。

その・・言葉とは、何だろう?」

本にはこう書かれていた。

その・・言葉についてはこれまで様々な言語学者や心理学者達に研究が重ねられてきたが、未だ解明されていない。おそらく、その・・言葉の正体に辿り着ける者はいないであろう」

少年はノートに思いつくかぎりの言葉を書いた。

しかし、その言葉に該当すると考えられるものは見つからなかった。

少年は気付いていなかったが、本の最後のページにはこう書かれていた。

「如何だろうか、その・・言葉が分かるだろうか?読者諸君の中にはもしかすると既に発してしまった者もいるかもしれない。

ここで言いたいことはただ一つである。つまり、言葉をどう使い、どう表現するか、それが肝心ということだ」(完)