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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2022年9月の記事一覧

【超短編小説】 どこだ、アイツ

「クソ。どこ行ったんだ、アイツ」

後ろ姿を追いかけたが、見失ってしまった。

アイツの名は「情熱」。昨日まで俺の中にいた奴だ。

アイツとは随分と長い付き合いだが、こんなことは初めてだった。

「アイツが居ねぇと、やる気も起きねぇってのに。全く」

俺は仕方なく、辺りを走り回った。

「アイツが行きそうな場所と言えば・・・」

ふと、脳裏にある場所がよぎった。

俺はすぐさま、そこまで駆けていく

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【超短編小説】 あんパン、空に浮かぶ

【超短編小説】 あんパン、空に浮かぶ

「速報です。閑静な住宅街の空にあんパンが浮かんでいるということです」

ニュースキャスターが慌てた様子で原稿を読み上げる。

テレビの画面には空に浮かぶあんパンが映された。

「なんで、あんなところにあんパンが浮いているの」とお母さんは言う。

テレビを見ていると、あんパンが浮いている場所は私の家の近くだった。

「私、様子見てくる」と玄関の方へ走り出した。

「待ちなさい。あんパンが爆発したらど

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【超短編小説】  ダ・イ・ス・キ

【超短編小説】 ダ・イ・ス・キ

「カードには伝えたい言葉を書くの」

お姉ちゃんは私にカードを渡す。

「そのカードを後ろにある差し込み口に入れたら、代わりにロボットが喋ってくれるから。恥ずかしがり屋のユウコでも大丈夫だよ」

お姉ちゃんは5年前、このロボットを好きな人に見せて彼氏が出来た。

だから、私もそのロボットを借りて告白をすることにした。

私は「大好き」と書いたカードとロボットを持って、小野君を校庭に呼んだ。

小野

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【超短編小説】 タイムマシーン

【超短編小説】 タイムマシーン

「斎藤さんの家って、タイムマシーンあるらしいよ」

「マジで、ヤバー。私も欲しいなー」

「スゴイよね。うちもお金あったらなー、タイムマシーン買えるのに」

「タイムマシーンあったら、何するの?」

「うーん、昨日に戻りたいかな」

「昨日?」

「そう。こうやって、二人で話して。しょーもないこと、喋りたい」

「えー、もっと他にあるでしょ。使い方がもったいないよ」

「そうかな。過去なんて、あっ

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【超短編小説】  面会

【超短編小説】 面会

「ママ、来るかな」

3号室に入院する原さつきは、まだ小学生だ。

看護師の私は点滴の交換をしながら、彼女の話に耳を傾けた。

「昨日も面会に来なかった。もうママは来てくれないんだ」とさつきは急に泣き出した。

私は彼女の背中をさすりながら、なだめようとする。

「お母さんはお仕事で忙しいのよ。きっと、またさつきちゃんに会いに来てくれるから」

「だって、ママは来ないじゃん。私なんかよりお仕事の方

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