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はじまりは大連の日本語学校(中国語翻訳・通訳者 谢 沛睿さん:その1)


谢 沛睿(しゃ ぺいるい)さん プロフィール
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中華人民共和国山西省太原市出身。大連外国語大学で日本語を学んだ後来日。神戸にある流通科学大学で観光学を学ぶ。神戸のコミュニティFM局で中国語番組のDJを担当したのが縁となり翻訳・通訳者としてのキャリアをスタートさせる。 現在は貿易関連の会社を経営。

「就職に有利かな……」
日本語を学び始めたきっかけ

25年前に、中国の地元で日本語を勉強し始めました。
そのときは単純に、「日本語ができれば仕事が見つけやすい」と思っていたのです。
はじめてみると、もっと勉強したいと考えました。

出身は、山西省太原市(さんせいしょうたいげんし)です。(注:太原市は中華人民共和国山西省の省都)

地元は田舎なので都会に行きたいと思い、日本語を勉強できる学校を調べました。
大連外国語学院で日本語を勉強して、日本に行きたくなりました。
周りにも日本に行く人が多かったので、自分も行ってみたいなと思ったのです。

その当時、外国に行くことが、中国でも自由になってきたように感じました。

(外国に行けば)親が近くにいないですし、干渉されることもなく、やりたいことがあれば何でも自分で決められる。
近くにいたら、親から「こうしたほうがいい」とか「ああしたほうがいい」と言われるので、外国に行って自由になりたいという気持ちもありました。

それで日本留学を考えました。

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中国でも外国との行き来が少しずつ一般的になった時代
谢さんもその時代の風を感じて日本留学を決めた

日本へ留学

テストを受けて決まったのが、金沢にある大学でした。
日本語と日本文化を学ぶ1年間のコース。
そのまま日本に残ってもいいし、中国に帰って就職してもいい。
そのコースが終わった後、関西に来たのです。

何を学びたいのか、悩んだ末に出した答え

1年間だけでは、まだ日本のことをわかっていなかったので、もっと落ち着いて大学で勉強しようと思い、どの大学がいいか考えました。

そのころ、世界中でどんどん人の交流が増えていたので、将来は旅行関係の仕事に就くのがよいかと思いました。

昔は衣食住が大事で、今も大事ですが、生活が豊かになってきてから、人々の意識も高くなり、いろいろなところを見てみたい、行ってみたいということにお金を使うようになってきました。

そんな時代背景もあり、これからは旅行や観光の分野がよいのではないかと考え、勉強してみたくなりました。

神戸に住んで「観光」を学びたい!

当時、観光が学べる大学として関東と神戸にある大学2つが候補に挙がりました。
神戸のほうは新しく観光学科ができたばかりで、面接を受けるために神戸に来ました。
そのとき泊ったのはポートタワーホテルで、目の前にポートタワーが建っていました。当時のハーバーランド(注:兵庫県神戸市中央区にある再開発地区)は今のように整備されていませんでしたが、それでもとてもキレイでした。
そして南京町(中華街)もぶらぶらしているうちに神戸がすごく好きになりました。親近感が自然に湧き上がってきたのです。

神戸に魅了されて、ほかの学校のことは一切考えられなくなりました。
そして大学への入学が決まり、晴れて神戸に来ました。

教科書中心の勉強だけでは、言語習得に限界!

F: 来日当初の日本語能力は?

レベルとしてはN2くらいだったと思います。(注:日本語能力試験の認定レベル。N2は上から2番目のレベル)

でも「教科書で勉強した日本語」だったんですよ。

北陸地方の人と話すと訛りや方言があって、違和感がありました。
アルバイトをすると生活用語のような言葉を習うこともできて勉強にもなるかなと仕事を探しました。

金沢に着いて5日目くらいに料理屋さんの仕事が見つかりましたが、やっぱりあんまり聞き取れないんですよ。
話すスピードが早いのと、教科書で勉強した言葉とは違うので、聞き取れないことが多く、慣れるまでに2か月ぐらいかかりました。

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インタビューに流暢な日本語で丁寧に答えてくださる谢さん
来日当初は「実生活の日本語」と「教科書の日本語」とのギャップを痛感していた

神戸でコミュニティFM局のラジオパーソナリティや翻訳ボランティアも経験

神戸に来たときには日本に住んで1年経っていましたから、話していることはだいたいわかるようになっていました。
大学の授業も聞いてわかりました。

F: 初めて翻訳や通訳をしたときのことを覚えていますか? 

2002年ぐらいかな、神戸留学生会館に住んでいました。
当時、2階に国際交流センターがあり、留学生は暇なときはみんなセンターに行ってくつろいだり、職員と話したりしていました。
確か「協力してくれないか」と言われて、国際交流センターのイベントのポスターとかチラシの翻訳をしたと思います。

それから、ある日、FMわぃわぃ(注:神戸市長田区の多文化・多言語コミュニティメディア)のチラシがそこに置いてあって、「中国語のスタッフやボランティアを募集しているそうですよ」と聞いたんです。

おもしろそうだなと思って、FMわぃわぃに行きました。
それから番組をいろいろと手伝うようになりました。

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FMわぃわぃの中国語番組「華声」のパーソナリティとして活動していたころ

FMわぃわぃの金千秋さんから、「翻訳の仕事がありますけどやりますか?」と声を掛けられました。
それが多言語センターFACILの仕事でした。
最初はごみの分別の仕方の翻訳だったと思います。

あとはインフルエンザが流行していたときで、その関連の翻訳もあったと思います。けっこう昔ですね……。

FACILは医療通訳の事業もしていて、僕も通訳をしたことがあります。

そのときはもう大学を卒業して仕事に就いていたので、翻訳や通訳の依頼があるときは、仕事と並行してやるようになっていました。

中国から来た修学旅行の観光ガイドからVIPの通訳まで経験

昔はまだ中国人が日本にたくさん来られるような時代ではなかったんです。
だから来る人のほとんどは特別ビザとか、省などのリーダーとか高い地位の人ばっかりだったのですね。

そのときは旅行会社に勤めていたので、工場の視察などに同行して通訳しました。あとは観光関係者とか医療の関係者に同行することも多かったですね。日本の病院でどんなことができるかなど、先進医療に関する視察もありました。

その後は中国人がたくさん日本に来るようになって、それからは観光案内の需要が増えたんですね。

爆発的にたくさんの中国人が来るようになって、観光ガイドの数も足りなくなり、会社で手が足りないときにいろいろな通訳に行きました。

よくあったのは教育ツアーかな?
修学旅行みたいな教育旅行で7日間で日本をまわることもありました。

バスガイドや通訳みたいな役割で、日本のことを教えたりしました。
若い子たちばかりで、みんな、僕よりも日本のことを知っていたと思います。

マンガで覚えた日本(日本語や日本の文化)で、僕はほとんど知らないことばかりでした。そういう時代もありました。

より良い翻訳表現を求めて苦しむことも

F: 同じ日本語でも、
・自分が生活の中で言いたいことを伝える場合
・他の人が言いたいことを伝える場合(=翻訳・通訳)
これらはずいぶん違うものですよね。
翻訳や通訳をするとき、自分が言いたいことを言う場合とは違う、スキルが必要です。
それを経験を積むなかで自然と身につけたのですか?

そうですね。やっぱり翻訳になるともっといい表現があるんじゃないかということを求めて、苦しむときもよくあります。

だから、もっとよい、ぴったりくるような言葉はないのかどうかをいろいろな人に聞いたりね。

やっぱり自分が翻訳をしてきたなかで、いろいろな言い方、そのニュアンスなどがわかるようになってきました。

手軽になった翻訳。しかしクオリティは伴っているのだろうか?

最近、中国語の翻訳や通訳の仕事はたくさんあるし、翻訳・通訳者もたくさんいます。会社でやっているところもたくさんあって、競争が激しくなっています。
以前より悪くなっているのではないかと思うんですけど。

F: 悪くなっているというのは、料金が安くなっているということですか? それともレベルが下がっているということ?

料金も安くなっていると思います。
たぶん依頼者側は、「(中国人であれば)誰でも翻訳ができる」と思っているんですね。
料金の安さだけで選んで、実際にはそれほどできない(=翻訳スキルのない)人に頼んでしまっているのではないでしょうか。
いろいろな翻訳を見ると、けっこう間違っている。
観光地などに張られている翻訳を見たら、「これはおかしいな」と思うこともあるし、「これは機械翻訳だな」と感じることもあります。

「翻訳の正しさ」ということがあまり大事にされていません。中国人だから漢字を見れば大体の意味はわかりますけれども、でもやっぱり正しい翻訳にしてほしい。

「あ、ちょっと変」とみんな笑う。笑える程度ならいいかもしれないですけれど、やっぱり正しく翻訳されていたら「ちゃんとしているな」と感じてもらえるから印象がいいと思いますよ。

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神戸元町商店街のチラシの中国語翻訳も手がけた

東日本大震災後に手がけた翻訳

F: 一番印象に残ってる翻訳・通訳の仕事は何ですか?

印象に残ってるのは3.11の震災関連の翻訳です。
あの時は役に立ててうれしかった。内容も覚えてますよ。
「おにぎりはどこにあるか」
「お風呂がどこにあってどこで入れるか」
「ラジオを配布しています」
「余震があるかもしれないので十分気をつけてください」
それから阪神・淡路大震災に関連した翻訳も印象深いです。


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