機内にて……
目的の飛行機に搭乗し、席で寝ていた。
目を覚ましたとき、すでに機内はざわついていた。
ひとりの狂った男のせいで。
「この中に、患者様はいませんか?」
白衣を身にまとった男が、そんなセリフを吐いて通路をどたどた歩いていたのである。
寝ていた人は目を覚まし、映画を見ていた人はイヤホンを外し、誰もが男に注目していた。
「患者、おい患者ども、いねえのか? 出て来いよ」
しだいに口調が荒くなる。
「重病人いねえのか?」
「治療させろオラ!」
「俺が完璧に直してやるよ!!」
大人は男を不審がり、子どもは怯え、誰も彼の味方はいなかった。
そもそも、言動を理解できないのだ。
「患者! 患者! 出て来い! 患者!」
変なリズムで煽り続ける男。
最悪だ。
緊急着陸でもすることになったら、仕事ができない。
プロジェクトが水の泡だ。
「まったく、何往復してると思ってんだ!」
そのとき、わめき散らす男に勇気あるCAが駆け寄った。
「お客様どうなさいましたか?」
「俺は医者だ! 今すぐ患者を出せ!」
「そう言われましても……」
「『誰か助けて!この中にお医者様いませんか?』ってあるだろ?」
「え?」
「俺はそれに憧れて医者になったんだ! なのに全然患者が出ねえ! こちとら高い金払って、私立の医学部行ったんだぞ!」
本物の阿呆だ……。
「ロサンゼルス8往復して現れたの、歯痛のオッサンと、内出血の子供だけじゃねえか。治せねえよ!」
知らねえよ、お前の専門は……。
男はそれからも騒ぎ続けた。
こんなのに出くわすなんて、本当に運が悪い。
「またハズレ便じゃねえか、ボケ!!」
やれやれ……。
アタリだよ……。
俺はそう思いながら、席を立った。
計画よりちょっと早いけれど、やるしかない。
「おい、お前、患者に会いたいのか?」
「ああ、そうだ」
「どんな患者だ? 風邪か?」
「バカなことを言うな、緊急手術が必要な患者だ」
男はそう言って、白衣の内側からメスを取り出した。
「なら、ちょうどいい」
「は?」
「今すぐ会わせてやるよ」
俺は計画どおりピストルを取り出し、呟いた。
「重病人がたくさん出ると思うぜ」
面白いもの書きます!