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『わたしの物語美術館へようこそ!』 後編(途中まで発表)

【まずは年末の挨拶】

ごきげんよう、愛しき諸君! 蝦空千鶴じゃ。
超お久しぶりで、そして、ただいまである。
わらわの更新が急に途絶え、今までどこで何をしていたのか、
それは何を隠そう、11月頃から、わらわは放浪の旅をしておったのじゃ。

そのため、人間界の関係者とやらとは、必要最小限以外、
ほぼ誰とも連絡をとらず、
noteはもちろん、ネットも何も繋ぐことはなく、
あらゆる世界を文字通り飛んで旅しておった。
旅でもあり、修行であった。
それもこれも新ラノベ――新しきジャンルを確立させるために、
エンタメを進化させるためなのじゃが、
創作をするには、人間と世界を知らなくてはならなかった。

わらわは令和元年の五月に誕生し、いろんな方々と出会い、唐突な別れもあった。この別れは、わらわにとっては、実に衝撃的で、
感情のコントロールが難しくなっていた。
なぜじゃろう。
というのも、わらわもまた人間界に溶け込むことで――自分は人間だと思いこんでおったのじゃ。
実際、わらわは人間ではなく、鶴なのじゃが。
じゃから一度、自分とは何か、人間とは何か、世界とは何かを研究し、後に昇華させるために、放浪という長旅に出たのじゃ。すまなかった。

ということで、本当は、作品を投稿してから挨拶をしようかと思ったのじゃが、作品がやはりまだ出来そうになくての、じゃが途中までは書いたのじゃ。

わらわが9月の上旬に書いた、『わたしの物語美術館へようこそ! 前編』覚えておる方はおるじゃろうか?

実は後編は、まだ完結しておらぬ。
とはいえ、完結させるまで、書いておると、除夜の鐘が鳴るので、
一旦、途中までではあるが、どうか読んで欲しいのじゃ。
ではどうぞ。

前編はこちら↓ ↓

https://note.com/ezoranote/n/nc2213210167d

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【わたしの物語美術館へようこそ! 後編】
大学二年生の夏休み前――わたしは夢のような不思議な体験をした。
 もう二度と訪れないかもしれない不思議な体験であり、
不思議な経験の話――。
 事の発端は、大学の講義科目で〈不思議な場所〉を発見し、
それをレポートにまとめて提出する、
という課題が出されたことからだった。
 どうしていいのかわからない――悩んだわたしは
友人の“友華”と“先生”のアドバイスを受けて、
日曜日の朝、行き先と目的の全てが〈不明〉の散策をすることにした。
 今まで一度も通ったことのない道を歩いて、
渡って、曲がって、登って、
たどり着いた先は――《物語美術館》
という一度も聞いたことのない“不思議な美術館”だった。
 そこでわたしは、神々しく輝く、
綺麗な銀色の長い髪が特徴の、
素敵な女性館長――夢白真昼さんと、
“物語美術館”の一部のように、
溶け込まれている男性――詠語知人さんと出会ったのだった。

     ✩     ✩     ✩

「素敵な名前ですね」
 と、知人さんの口元から零れ出た言葉の一雫は、
わたしの感情の水面で音を立てて弾け、やがて生じた波紋は、
わたしの体中に幾億種類もの色を発光させながら、
緩やかに広がり――。
 更に、その小波のように広がる波紋は、
わたしの体中に眠る楽器たちを優しく呼び覚まし、
音色を生み、その音色たちは螺旋状に、
かつ優美に絡み合いながら一生に一度の壮大な交響曲を奏でていった。
 わたしの体中に鳴り響く交響曲――その音色たちは最初、
地上から天に向かって舞い上がり、
わたしの意識の空にまで上昇すると、
そこから音色たちはバレリーナの如く優雅に舞い踊る。
踊り続ける交響曲の音色たちは、
わたしの体と心の全てを熱くさせ、わたしはなんだか音の世界の中心にいるような錯覚に陥った。交響曲が鳴り止まない限り、
体と心の熱が冷める気配はどこにもなかった。
 その演奏を奏でている指揮者は、
わたしの内面の手の届かない奥深くのステージにいた。
 その指揮者の動きを、
また、バレリーナのように舞い踊る音色たちの動きを止めるのは、
わたしの意識の手ではなかった。
 もはや、わたしの意識の手では止めることも、
またその止め方もわからなかった。
 交響曲を奏でる指揮者の動きと、音色たちの踊りが激しくなるにつれて、わたしの体と心の熱はどんどん上がっていき、
 ドクン……ドクン……ドクン……と、リズムが加速していく。そんな時――。「実は知人様――言葉様は、今、“言葉様自身にとって”のおすすめの物語を探しているようですの。そこで知人様……言葉様にとっての〈おすすめの物語〉をどうか是非紹介してあげていただけないでしょうか」
 真昼さんのその一雫は、わたしの体中に鳴り響いていた、交響曲を一瞬で中和させてしまった。
 かと思うと――。
「ボクが言葉さんにとっての、
〈おすすめの物語〉を紹介してあげる……ですか」と、
知人さんは繰り返した。
「はい! それがとっても最善ですわ♪」
 と、真昼さんが顔を綻ばせて言う。
 今度は、わたしの感情の中心部で別の新たな波紋が生じ、
『✩』と『!』と『?』と『★』が鎖のように繋がり、
 回転木馬のように回りながら、わたしの体全体に広がっていった。
「え? え? えええぇぇぇ……それって……どういう……」
 意味ですか、と問いたくても、鎖のように繋がった『✩』と『!』と『?』と『★』の波紋の余波が、
 わたしの思考を混乱させて、上手く答えることが出来なかった。
 真昼さんは、わたしの意図を察したのか、
「うふふ。そのまんまの意味ですわ。といのも、わたくしは館長であるがゆえに、〈おすすめ〉というものが、“宇宙の広さ”ほどあるため、
 どれがおすすめとも申し難いのでございますの。
ですが、知人様は、言葉様に見合った〈言葉様だけ〉にしか、
おすすめすることが出来ない物語を存じておいでですの」
 そう言って、真昼さんは、わたしにウインクをしてみせた。
「そういうことでしたか。ボクなんかでよければ、
おすすめの物語……紹介いたします」
 そう言う知人さんは、塵ほどの躊躇いや、困惑の表情もなく、
無垢に微笑んで了承してくれた。 
「知人様、誠に感謝申し上げますわ♪」と、
何故か真昼さんがゆっくりと感謝のお辞儀をした。
「いえいえ、その前に、こちらの〈物語〉を、
真昼さんに一旦返しますね」
 そう言って知人さんは、つい今まで読んで――ではなく、
〈観て〉いた物語を真昼さんにそっと渡した。
「はい! 承りましたわ♪」と、
知人さんから渡された〈物語〉を大事に抱えた。
「それでは、言葉さん、今からボクが言葉さんにとっての、
〈おすすめの物語〉を紹介するため、案内しますね」
 知人さんの声と笑顔は空から降り注ぐ光に反射して煌めいていた。
 わたしの中の〈私〉が『なるようになれ』と囁いたのがわかった。
「は、はい。ど、どうか……お、お手柔らかに……」
 と、わたしはどもりながら答えた。きっと顔は真っ赤だったかもしれない。それと、自分で言っておいて、
おかしな話しだけど、『何がお手柔らかになんだろう……』という、
 〈突っ込みの隕石〉が、わたしの心の地上にドーン、と豪快に落っこちたのがわかった。

     ✩     ✩     ✩

 こうして、わたしは、
知人さんの〈“わたしだけに”おすすめの物語〉が眠る場所に向かって、
 “わたしと知人さん”だけで、館内を歩くことになった。
 どうしてわたしを案内してくれる相手が、
真昼さんではなく、知人さんなのだろうか。
 もとより、彼は物語美術館の利用客、
すなわち、わたしと同じ〈お客〉に過ぎない。
 それを彼は自然体に、わたしを館内のどこかに眠る、
〈わたしだけ〉の〈おすすめの物語〉まで案内してくれる。
 果たして、これは“偶然”なのだろうか――と、わたしは思った。
 偶然のような、“必然”なのではないだろうか。
 それと、やはり館内は異常なほど広く、
どこまでも――どこまでも――果てしなく続き、
 行き止まりが果たしてあるかどうかもわからなかった。
 更に――。
 館内は、どこかかしこかに〈誰か〉がいるような気がするかと思えば、〈誰も〉いないような気もし、
 その誰とは〈誰〉なのかがわからなくなってきた。
 物語美術館内のどこかで〈仮〉に、わたしや知人さん、
真昼さん以外の〈誰か〉がいたとしても、
 その〈誰か〉は確実に〈人〉であるとも思えなかった。
 知人さんについていくわたしは、しばらく真っ直ぐ歩き、
急に右に曲がってまた真っ直ぐ歩いたり、
 また急に左に曲がってまた真っ直ぐ進んだり、
また急に右に曲がって真っ直ぐ進んだり、
 かと思えば弧を描くように左に曲がりくねって進んだり、
右に曲がりくねって進んだりしたが、
進んでも進んでも、“おすすめの物語”という一つの目的地には、
なかなか到着しなかった。
 それどころか――。
 わたしは一体いつ頃から、この通路を歩き始め、
どれくらいの距離を歩き、どのくらいの時間が経ったのだろうかと、
それさえもわからなくなってきた。
 あまり時間が経っていないようにも思えたし、
時間が経ち過ぎているようにも思えた。
 そもそも、この物語美術館には時の〈概念〉が、
存在しているのかさえ曖昧に思えてきてしまった。
 ひたすら歩いているわたしは、
今が何年何月何日何曜日何時何分何秒で、
 今の季節は一体何なのか、
あげく〈自分〉とは一体何なのかさえも、〈謎〉となって、
 次から次へと〈謎〉が泉のように湧き、
いよいよ全てがわからなくなってきた――という錯覚に陥った気がした。
 それでも――。
 わたしの心と体に黒い暗雲が立ち込めるような不安は微塵もなく、
 歩いても歩いても、わたしの心と体が疲れる、
ということは“決して”なかった。
 自分では、こんなに長く歩いているつもりなのに、
わたしの心と体、
更に足は弱音も泣き声もあげない――何故なのだろう。
 それどころか――。
 わたしの心と体は熟睡した後のような、
晴れやかな朝を迎えたように気分が良かった。
 逆に歩けば歩くほど気分が爽快だった。
 もしかして、それは――。
 わたしはたしかに歩いているけれど、
それは“自らの意思”で歩いているのではなく
、知人さんが自ら魔法の引力となって、
わたしだけの“おすすめの物語”に向かって、
引き寄せているからなのかもしれない。
 だからわたしの体は〈肉体〉という“固体”ではなく、
液体と気体の半分の体で、
知人さんという引力に引き寄せられているからなのかもしれない。
 知人さんは、わたしに紹介する、
わたしだけの“おすすめの物語”という“引力”に、
 わたしは知人さんの“引力”に引き寄せられる――それならたしかに疲れないのかもしれない。

 そんなこんなで、わたしと知人さんは声のない、
両者の足音だけの会話で通路を進んだ。
 初めて歩く通路のはずなのに、
前にもこんな事があったような気がした――ということを、
思い出そうとしていた。
 ――前を歩く知人さんの姿も、
そういえばどこかで見たことがあるような気が。
 今みたいに、かつて、わたしは同じような場所で、
同じような状況で、同じように通路を進んだような気が。
 そしてその先にある“おすすめの物語”というのも、
実は何が待ち受けているのか、既にわかっているような気が――。
 そんな次々とあられのように、降ってくるデジャヴュの中、
この複雑な通路を歩いているうちに、
 一つの考えが、泡のように浮上した。
 ――今、わたしが歩いている、この通路って……もしかして、
もしかして、わたしの人生そのものなんじゃないかしら?
 と、わたしは心の奥底でひっそりと呟いてみた。
すると、
 ――目的地へ向かう道というものは、常に真っ直ぐではないのです。
 けれど、最終的には“一度”目的地には〈必ず〉到着するのです。
 そして、また次の“目的地”へと向かうのです。
 今、知人さんの声が、わたしの心の奥底に向かって、
はっきりと語りかけたような気がした。   
「……え?」
 と、わたしは素っ頓狂な声が出てしまった。
 しかし、よく見ると、知人さんは何も“声に出して”言ってはいなかった。

 歩いているうちに、知人さんは急にある棚で止まり、
「ここに、言葉さんにだけ“おすすめする物語”があります」
 と、微笑んで言った。
 あまりにも、唐突過ぎて、
わたしは何をどう反応して良いかわからなかった。
 とても長い道のりを歩いて、
ようやくこの本棚……いや、〈物語棚〉に辿り着いたような気もすれば、
 意外とあっという間に着いたような気もした。
 この〈ようやく〉と〈あっという間〉という二つの矛盾点が、
微生物のように、わたしの中で次々と交尾をし、
 繁殖し、やがてそれは矛盾のような〈矛盾ではない〉という新たな微生物に進化を遂げたことで、わたしは〈理解〉した気がした。

 知人さんは、とても手馴れた動作で、
一つの七色ハードカバーの単行本もとより物語をそっと引き抜いた。
 彼は目を瞑って愛おしいそうに、
それを抱きしめ、ゆっくりと目を開けると、
赤子を見るような目でわたしにそっと七色カバーの物語を渡した。
「……これは?」
「それは、詩色言葉さん“だけ”に“おすすめの物語”です」
 その物語タイトルには、《これは“わたし”の物語》と表記されてい、
作者はどこにも何も表記されていなかった。
「あの……作者名がどこにも……表記されてませんが」
「その作者は□■□■です」
「……え?」
 今、なんて……言ったのだろう?
 たしかに今――。
「その作者名は、□■□■です」
 と、知人さんは繰り返すが、肝心な部分が、
〈聞き取れない〉のではなく、
聞き覚えのない言語が更に渦を巻いているような感じだった。
「……えっと」
 わたしが困惑していると、
知人さんはすぐに察したのか、微笑んで、
「無理もありません。だって、その作者は“自我”なのですから」
「自我……ですか?」
「はい。ですので、一度は是非観てみてください。
きっとあらゆる感動が待っているはずです」
「そ、そうですか、では」
 ということで、わたしは物語を開こうとするが、
「あ、その前にいいですか?」
 と、知人さんが思わせぶりに笑う。
「なんでしょう?」
「その物語は、最初はとてもゆっくりに進行します。
が、徐々に速度が上がり、やがて、
“光より”も早い速度で物語が進んでいきます。
 極度に驚かれないようお願いします。
“あくまで”物語ですのでどうか楽しんでやってください」
「……は、はぁ。……?」
 光よりも早い速度というものは、
この世において原則上ありえないが、わたしは頷いた。
 そんな速度で進む物語というのが何なのか、
逆にわたしの中の好奇心が、
子犬のようにクイクイっと意識の腕を揺さぶり、
 物語の表紙を開きたがる。
わたしは意を決して物語、
《これは“わたし”の物語》をゆっくりと開いた。
 すると、わたしの視界が一瞬で真っ暗になったかと思うと――。
 ドボーンっと、どこか水のような場所に飛び込んだような感触がした。
 周囲は光のない完全な真っ暗闇で、
わたしは更に身動きが取れなかった。
 そこがどこで、何が起きたのか、
本来ならわかるはずもないのに、なぜか、わたしは、
不安も悲しみも恐怖もなく、
 そこがどこなのか、すぐに理解してしまった。
 だから――。
 だから、わたしは何の不安も悲しみも恐怖もなかった。
 むしろ逆に――そこはなんだか――。
 とても温かく暖かかった。
 身動きもとれず、周囲は真っ暗闇なのに、
周りの景色を意識で感じ、
 誰かの言葉たちが木漏れ日のように、
わたしの魂に直接降り注ぎ、体内に浸透していくのを感じた。
 いつまでも、わたしは“そこに”居続けたい、と思った。
 けれども、
 現実的に、“そこに”居続ける、ということは、
到底不可能で、わたしはやがて導かれ、
そして〈行くべき世界〉に行く、ということを知っていた。
 そして、その時がやってき――。
 わたしは光あふれる世界へと導かれた。

     ✩     ✩     ✩


 わたしが〈観て〉いる物語は、
最初はゆっくりと進んでいたが、徐々にそれは速度を上げていった。
 その次第に速度を上げる進行状況も、
物語の演出の一つなのかは判然としないが、実に面白く、
 最初は、まるで生まれたての赤ん坊が“ずりばい”からハイハイをするかのような速度で、
 やがて、それはゆっくりと立ち上がるくらいの速度で、
それから人間が歩く速度に、
 更にそこから走る速度にまで上がっていき、
オリンピックの短距離走ランナーが走る速度にまで上がり、
 やがて自転車、自動車、オートバイ、電車、新幹線、
リニアモーターカー、飛行機、スペースシャトル、
 光の速度、そして光の速度を超えて――と、
緩やかな波のように自然と速度を上げていった。
 光の速度よりも早く、物語が進行するため、
常識的に考えて本来なら内容を理解出来るはずもないのに、
 わたしは、どの内容も会話も登場キャラの特徴も心理状況も、
 物語の風景も何もかも、全て理解出来てしまった。 

 物語を要約すると、話の内容は以下の通りだった。

・胎児から成長し、来るべき年月日に、
北海道のとある病院で一つの光となって産声をあげた〈わたし〉。
   ↓
・〈わたし〉は、来るべき年月日に退院し、
両親の住居で育っていく。
   ↓
・その〈わたし〉は、すくすくと健やかに成長し、
保育園に入り、自分と同じ〈種族〉がいることを知り、
 そして〈群れ〉という言葉や
〈仲間〉という言葉や、
〈友達〉という漢字と言葉の意味が、
はっきりとわからなくても、
肉体と意識で感じるようになる。
   ↓
・小学校に入った〈わたし〉は、いずれ世界で知識を昇華させるための〈学習〉をするようになり、
 この時、自分は一人の〈人間〉である、
ということを自覚しはじめる。
 人間にも、オスとメスがある、
ということを自覚しはじめる。
   ↓
・小学校では友達は少なくても、
好奇心は青空のように広がるばかりで、本の物語からは、
この世には、
あらゆる複合的な別の世界があるということを教わる。
   ↓
・中学校での〈わたし〉は、孤立していることに気づかないまま、
 自分は“なぜ”生まれてきたのか、という思いに囚われる。
 人というものは、
どうして好き、嫌い、無関心の三種類があるのか、
知りたくても誰も教えてくれないことに、
 奇妙な苛立ちを覚えはじめる。
 そして気づけば、〈物語〉こそが、〈わたし〉の友達になる。
   ↓
・高校での〈わたし〉は、
〈物語〉と友達になれたことをきっかけに、文芸部に入部し、
 物語を書くための〈読書〉ということで、
ダダイズムやシュルレアリスムや、
フューチャリズム(未来派)やマジックリアリズムや、

ヌーヴォーロマンといった、
20世紀の前衛芸術関連の詩や散文詩や、
小説などを、読みふけるようになる。

   ↓
・高校での〈わたし〉の周りには、
まるで〈わたし〉が引力にでもなったかのように、
わたしに興味を持つ人が寄ってきはじめ、
 それが〈友達〉であったり、
〈後輩〉になったりする。
   ↓
・はっきりとした目標も目的も判然としないまま、
高校を卒業した〈わたし〉は、
とある大学の文化人類学部に入り、
新たな〈友達〉が出来、
ライトノベルの存在を知り、
オタク文化は奥が深いということを知り、驚愕する〈わたし〉。
 そして、〈わたし〉は、
その学部の大学二年の夏休み前に、
レポート課題で、“不思議な場所”を見つけるように言われて、

日曜日の午前、
何も考えずに散策して見つけた場所が、
《物語美術館》という奇妙な場所だった。
   ↓
・その《物語美術館》で、
〈わたし〉は一人の女性美術館長と一人の男性客に出会い、
 その謎めく男性は、
〈わたし〉に〈わたし〉だけの〈おすすめの物語〉を、
紹介してくれるために、
二人だけで長いような長くないような道のりを歩いて
〈物語棚〉に到着し、そこで、〈わたし〉は、
《これは“わたし”の物語》を開き、物語を観終えた。

〈わたし〉は、(____)な気分に陥る。

   ↓
・その後、〈わたし〉と〈男性〉は、
(____)ので、(____)へ行き、(____)をした。
   ↓
・(___)の後は、〈わたし〉と〈男性〉でまた、
(____)をし、気づくと(____)になっていたので、
 (____)にした。
   ↓
・だが、その後、なんと〈わたし〉は、
今まで感じたことのない(____)が起こり、
 (____)をすることにした。
   ↓
・結局、(____)の謎がわからないまま、
その日はなかなか寝付けなかった。
   ↓
・〈わたし〉が行った《物語美術館》というのは、
実は(____)で、そもそもが(____)だった。
   ↓
・けれども、〈わたし〉はそこで、
(__)と(__)を知った。
   ↓
・やがて、〈わたし〉は大学を卒業し、
(___)に就職したが、(____)だった。
 色んな(____)があったが、
わたしはすべて、(____)だと思った。
   ↓
・〈わたし〉は□□歳で、(___)をし、
(____)して、(____)となった。
   ↓
・最終的に〈わたし〉は、2XXX年X月X日(X)の□時□分□秒に、(____)に見守られて、
 その生涯に幕を閉じた。

  (おしまい)

 という、以上のことだった。
 なるほど、とわたしは思い、
《これは“わたし”の物語》を〈観終え〉た。
「いかがでしたか?」
 と、知人さんが、
わたしの心の奥深くを覗き込むように訊いた。
 わたしは、一度深呼吸をし、それから、
「これは……わたし“自身”の物語だったのですね」。

「はい、その通りです。これはつまり、
詩色言葉さん……〈あなた自身〉の物語なんです。
だからボクにも、
そして他の〈誰〉にも観ることは出来ないんです」
 と、知人さんはほんの少し、困惑しながらも微笑んで言った。
 なるほど――たしかに――。
 それなら、作者が表記されていないのも、
知人さんが“自我”と言ったのも頷けた。
 過去と現在が分かっても、未来は全て、
わかったと思った途端、玉虫色の煙に姿を変えて、
 わかったことがわからなくなってしまう。
そしてそれは、
“わからないから”こそ良いのかもしれないと思えた。
 自分の未来がどうなるかなんて、
わたしにはわからないし、
 自分の人生は複雑な道を歩むのかもしれないけれど、
それもわからないけど、
 けど仮にどんなに真っ直ぐな道ではないにしても、
 最終的に、人間を含めて生命というものは一度確実に、
目的地に“到着”するということは絶対的にわかっているのだ。
 “到着”するからこそ、〈私達〉は生命なのだと思えた。
 それが、わたしの《これは“わたし”の物語》を
〈観終え〉た感想かもしれない。
「一生に一度あるかないかの貴重な体験です。
教えてくれてありがとうございます!」
 知人さんにお礼を言った途端、
わたしの体の中で言語化出来ない感動の粒子が、
わたしの体の中で勢いよく蠢いているのかがわかった。
 なにかしら……これ……じわじわくる……。
 〈これ〉の正体って一体……。
 知人さんは、わたしの様子に察したのか、自分の胸に指を当て、
「感動とは生きている証拠です。
自分が“人”として生まれてきたことを、どうか誇ってください」
 知人さんの、その言葉の水は、
わたしの心の花壇に降り注ぎ、
蕾だった〈何か〉がようやく咲いたのがわかった。
 けど――。
 〈何が〉咲いたのだろう、それがまだわからなかった。
 そんな時――。
 グウゥゥゥッっと、
わたしのお腹の虫が鳴いたのがわかった。
 さくらんぼのように頬を染めて恥じらっていると、
「あはは、お腹が空きましたね。
実はボクもなんです。丁度良い時間ですし、
実はこちらの美術館には食堂があるんですよ」
「あ、そうだったんですか!」
「ええ。ですので、
あの……その……もしよろしければ……、
ボクとランチでも……どうでしょうか?」
 という遠慮がちに誘う知人さんがとても可愛らしく思えた。
「は、はい。……あの……こちらこそ」
 そんなわたしも、
やはり自らの恥じらいの隠し場所がわからず、
どもりがちに答えたのだった。

     ✩     ✩     ✩

 知人さんの案内で、たどり着いた場所は、
美術館の奇妙奇天烈な階段を降りた、
地下にある――広大な食堂だった。
 その地下にあるとはとても思えない、
豪華な庭に食堂をそのまんま建てたのだろうか――と思えるほど、
頗るお洒落で明るい食堂だった。
 その名前は『夢幻食堂』といって、
《物語美術館》だけにしか存在しないらしい。
 異様に広々としていて、
雪のように白いテーブルクロスのかかった丸いテーブル
(その上にナイフとフォークとスプーンの入った籠)と椅子が、
いくつもいくつもあり、
 わたしたちの周りを囲っていた。
その上、食堂での〈お客〉も、わたしと知人さんだけだった。
 丁度お昼時だというのに、誰もいない、
というのは不自然には思えたが、
その不自然さが逆にわたしを安堵させた。
 食堂のとても高い天窓から、
天気雨のように降り注ぐ黄金色の光が、
周りの植物を輝かせ、
その花たちの周囲を色とりどりの蝶が飛んでいた。
 夢幻食堂は、わたしと知人さん以外誰もいないのに、
周囲からはなぜか、花の香り以外にも、
 ハーブやジンジャーやハチミツなどの匂いが混じって、
わたしの食欲を更に促進させた。
 ――それにしても、ここの厨房ってどこかしら?
 広すぎるし、何よりウェイターさんの姿も、
どこにも見当たらなかった。
「あの……ここって、その……本当に営業されてるのでしょうか?」
「はい♪ もうすぐウェイターの“キョム”さんが来ますよ」
「え? ……キョムさん?」
 知人さんの表情が、お昼の食堂の風景と、
その雰囲気に程良く馴染んでいた。
 そして、わたしがふと横を見ると、
「初めまして、いらっしゃいませ~ですのん!」
 という溌剌とした声と独特な口癖が特徴の少女が、
“いつの間にか”目の前に立っていた。
 その少女は肩までの金髪で、
黒と白の幾何学模様のメイド服姿で、
スカートはやけに短く、
膝まで黒と白の柄のニーハイソックスをはいていた。
 そしてそして……頭にはカチューシャかと思っていたら、
本物なのか“狐耳”に見える“獣耳”が、ピクピクと動いていた。
 とても綺麗な日本人女性の顔立ちなのだが、
どこか西洋人っぽくも見えて、
瞳は珊瑚礁の海色のように鮮やかだった。
「…………」
 あまりにも突然の登場と、
少女のルックスに唖然としていると、
自らをキョムと名乗る、その少女は、
パアッと向日葵のように微笑み、
「あ! なんか驚かせてしまって、ごめんなさいですのん。
キョムの名前は虚空虚夢と書いて、
キョクウ キョムと申しますのん!
 ここの看板娘のようなもので、
キョムのことはキョムちゃん、
もしくは虚夢ちゃんと呼んでくださいですのん!」
 と言った。字は違えど呼び名の発音がどれも同じだった。
 とても綺麗な声だとは思った。
 でも――。
 真昼さんと同じで、キョムさんの声は、
声を聞き終えた途端に、
どんな声だったのかがわからなくなるのが特徴だった。
「こちらこそよろしくお願いします、その……キョムさん」
「はいですのん! ということで、
こちらが本日のメニューになりますのん!」
 キョムさんは、わたしと知人さんに献立表を二つ、差し出した。
 中をめくると、
見覚えのある料理名と写真が多数載っており、
それはどれもフランス料理だった。
「ここの食堂って……フランス料理なんですか?」
「大当たりですのん! 凄いですのん!」
「言葉さんは、フランス料理に詳しいんですか?」と、知人さんが訊いた。
「いえ、そういうわけではないんですけど、
大学でフランス語を勉強していて、それの関連で……」
 と、わたしは曖昧な返答をして、
二人を困惑させないか逆に心配だったが、二人は頷いて、
「そうだったんですのん!? そもそもこちらに大学生さんが来るのは“初めて”ですのん!」
 とキョムさんは言うが、“初めて”という言葉がどうも気になった。
 ――ここには、どういったお客が来るのかしら?
 献立表を見ていて、わたしはある事に気がついた。
「あの、献立表にも表記されてませんが、
その……聞きづらいんですけど、
お値段っていくらくらいなんでしょうか?」
 と、わたしは失礼のないように、声を弱めて訊いた。
 すると、知人さんとキョムさんが朗らかに笑い、
「大丈夫ですよ、言葉さん」と、知人さんが幼子をあやすように言う。
「その通りですのん! お代はお金ではないですのん」
 さらっと、そう言うキョムさん。
「お金では……ない?」
「はいですのん! 
お代は、お金ではなくて言葉さんの“愛情”ですのん。
その愛情があるからこそこの食堂を賄うことが出来るんですのん」
 ――でも、それだと、代金を頂かないと、
お店はやっていけないんじゃ? 
 ――ただでさえ、お客がわたしと知人さんだけなのに。
 そう思っていると、知人さんが、
わたしの心の呟きを察知したのか、
「いわゆる“愛情”が代金になっているんです。
それは美術館内も同じですよ」
「知人さんのおっしゃる通りですのん」
「は、はぁ……」というが、
わたしにとって理解するための鍵がなかなか見つからなかった。
「ではキョムさん、今日もボクは日替わりおまかせランチでお願いします」
「かしこまりました~ですのん! 
知人さんは日替わり……と。
言葉さんは、何になさいますのん?」 
「あ、じゃあわたしもまったく同じので」
「はい、かしこまりました~ですのん。
少々お待ちくださいませですのん!」
 メニューが多すぎて、
何を注文して良いのかわからず、
何がおすすめかもわからず、
流れに沿うように知人さんと同じ日替わりおまかせランチにした。
 ――それにしても厨房はどこにあるのかしら?
 と、わたしが再度厨房の場所がどこなのか、
疑問に思っていると、
気づけばキョムさんの姿はどこにもいなかった。
 文字通り煙のように消えたみたいだった。

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ということで……はい、ごめんなさい、ここまでじゃ。
いかがじゃったか? 
あっはっはっはっはっ……!
いや~なまら微妙なところで止まっておるが、
これでも、表現に工夫に工夫を重ねておるのじゃよ。
当然これは改良せねばなるまいし、
完結したら、再度投稿する予定じゃ。
その時は、また是非読んでくださいませじゃ♪

新年、令和二年は、蝦空千鶴にとっても、
皆様にとっても、悔いのない一年になることを願うばかりじゃ。
わらわは、研究の成果を、どんどん発表していく所存じゃ。
令和元年は、
どうもありがとうございましたでございま鶴。
そして、今後とも、
蝦空千鶴をよろしくお願いいたしま鶴 m(_ _)m


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蝦空千鶴 -EZORA Chizuru-
皆様からの暖かな支援で、創作環境を今より充実させ、 より良い作品を皆様のもとに提供することを誓いま鶴 ( *・ ω・)*_ _))