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【映画】へレディタリー/継承【感想】

※この記事はネタバレを含みます※


●あらすじ


グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは夫・スティーブン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーと共に家族を亡くした哀しみを乗り越えようとする。自分たちがエレンから忌まわしい“何か”を受け継いでいたことに気づかぬまま・・・。

やがて奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする・・・。祖母に溺愛されていたチャーリーは、彼女が遺した“何か”を感じているのか、不気味な表情で虚空を見つめ、次第に異常な行動を取り始める。まるで狂ったかのように・・・。

そして最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が一家を襲う。
“受け継いだら死ぬ” 祖母が家族に遺したものは一体何なのか?


ヘレディタリー



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●『 ヘレディタリー/継承 』を観た感想(※ネタバレ注意)


本作に関して、映画に傾倒している方たちは様々な言われようをしているのをご存知であるのではないだろうか。

本作はサンダンス映画祭でプレミア上映された直後から絶賛されており、「直近50年のホラー映画の中の最高傑作」「21世紀最高のホラー映画」と評されている。
(Wikipediaより)


ホラー映画というものはハードルを高くされるほど実際に見た印象との差が特に激しい作品であると思う。ホラー映画は言ってしまえば人を怖らがせるために作成された物語であるので、怖いという予防線が予め張られてしまうと、見る側はある程度装備をして鑑賞することになるのである。
しかし本作に関しては、「重装備で地雷原に突入したら、突然地面にぽっかり穴が開いて落ちてしまった」といった印象を受けた。具体的に言うと、想像していたホラーに対してのダメージと、実際に受けたダメージの傾向が全く異なるのである。
ホラーというジャンルは、例えば幽霊や人間が突然現れて驚かせたり、グロテスクな行為をし始めたり……といったパターンが多い。そして観客は「びっくりするから怖い」「グロいから怖い」「加害側の容姿が怖い」というように、怖いと感じる対象は明確であるはずだ。
対して本作は、「何が怖いのかわからないけどとりあえず怖い」状態が終わるまで続くため、精神がゴリゴリ削られる。もしくは「登場人物も取り巻く環境も何もかも全部が怖い」のどちらかであろうと思う。安心できるシーンが全く無いのだ。

別の言い方をすれば「怖さが飽和されており、恐怖の強弱がない」。なので、魔神級の怖さを期待していた人や、怖さの飽和状態に慣れている人にとっては「こんなもん?」と拍子抜けするかもしれない。

かと言って、びっくりする怖さが無いとは言えない。

鳥が大きな音を立てて窓ガラスに激突したり、母親のアトリエの中で佇んでいるだけの祖母が突然現れたりなど、思わず驚いてしまうシーンもある。また、本作はストーリーの内容だけに着目すると普遍的なものである。しかし本作の魅力は話の構成よりも映像/演習が人を不安にさせるということに特化しているように感じた。

視覚で受け取る情報も、聴覚で受け取る情報も、移り変わりが多く不安定でパースが狂っているイラストを見ているような気持ちになる。
飽和された恐怖を感じる所以はこれだけではない。ストーリーや登場人物を見て視聴者が抱く“最適解”をことごとく潰しにかかってくるのである。そして悲しいことに、家族の誰もが自分が行うことが“最適解”だと思ったうえの行動であり、視聴者はそんな彼らに感情移入せざるを得ないのだ。
妹のチャーリーが事故によって首チョンパになってしまったとき、兄のピーターはあろうことか首のないチャーリーをそのまま車内に残し、自室のベッドへ向かう。
もうこの時点で、ピーターのこの行動が最悪な状況へ転がってしまうとわかる。しかし、チャーリーの悲惨な姿を見せず、激しく動揺するピーターの表情だけにフォーカスをあてるという演出により、とてもピーターを責めることはできなくなってしまうのである。ここの役者の演技は目を見張るものがあるので、そこもチェックしたい。
また、母親は夢遊病者でなおかつ精神を病んでいるため、降霊術に傾倒していく姿も、ピーターに強く当たってしまう姿も、本来ならやべー何やってんだコイツ…と思ってしまいそうなところだが、何故か同情や哀れみに似た感情を抱いてしまうのだ。
『ヘレディタリー/継承』はエッシャーの絵画や、夢野久作のドグラマグラに似ている。精神にデバフをかけるように作られた作品であり、慣れていないと頭がクラクラしそうになる作品である。


ストレートパンチで殴ってくるようなホラーを求めている人には、物足りなさを感じてしまうだろう。暗闇のようなじんわりとした恐怖を感じたい人や、精神的に不安になりたい人、もしくは幽霊よりただ佇んでいる全裸の人間に恐怖を覚える人にはオススメの作品だ。


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●今回レビューした映画の詳細


題名:へレディタリー/継承

監督:アリ・アスター

2018年公開

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