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あなたの声のする方へ

あいいろのうさぎ

 現実と夢の間を彷徨っている。目を閉じているはずなのに、いろんな人の顔が浮かんでは消えていくから、これはきっと夢なのだろう。でも自分が寝転がっている感覚もあって、なんだか不思議な感じだ。

 会社で同じ部署の人たち、高校時代のクラスメイト、中学時代の部活仲間、小学生の頃からの幼馴染。普段は思い出さないような顔ぶれまで姿を現していて、これじゃまるで走馬灯だ。

 あぁ、でも確かに楽しかったな。会社の打ち上げでバーベキューをした時も、高校時代にやんちゃして先生に怒られた時も、中学生の時に県大会で優勝した時も、小学生の頃の初恋も。

 全部生きてないとできないことだもんな……って、死にそうなこと言うなよ、俺。

 ……いや、そうだ。

 彼女の姿が目の前に現れて、俺は思い出す。

 ついさっきまで彼女とデートしていたような。

 段々記憶が蘇ってくる。彼女に買い物に付き合ってほしいと言われて、荷物持ちとして出かけたはずだ。彼女と駅で合流して、ひとしきり服装についていじられて、じゃあ行こうかと彼女が手を差し伸べてきて──。

 それで、どうしたんだっけ。

 そこから後のことがぽっかりと抜けている。

 でも、そうだ。俺は寝ている場合なんかじゃないだろう。というか、どうして寝ているんだ。ここはどこなんだ。

 やっと現状を理解しようとした時、遠くから声が聞こえた。

 俺の名前を呼んでいる。しかも声は二つ聞こえる。

 一つは俺のことをとびきり優しく呼んでいる。ここに来ればもう安心だというように。そこに幸せが約束されているかのように。

 もう一つの声からは強い切迫感を感じる。この世の絶望を込めて泣き叫んでいるかのようだ。

 俺は俺を呼ぶ声の方に向けて意識を集中させた。声が段々大きくなっていく。水の中から水面に顔を出すときのように鮮明になっていく。


「──と、けんとっ! けんとぉぉおおお!!」

 俺の名を叫ぶ声が耳元で聞こえる。誰かが息をのむ音も聞こえる。ゆっくりと目を開けると白い天井が見える。

「けんと……?」

 彼女の声だと思った方に賭けてみたけれど、間違いはなかったようだ。ここは病院だろう。お医者さんらしき人が死人が生き返ったところでも見たような顔をしている。

 そうだ。俺は突っ込んできた車から彼女をかばって──。

 どうやら俺は満身創痍のようだけれど、良かった。

 二人とも生きている。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 今回のお題が分かる方はいらっしゃるでしょうか。今回は「まどろむ視界」です。主人公はとんでもないところでまどろんでいました。作中で出てきた主人公を呼ぶ声。1つは正体が明かせないままになってしまいました。でもここは皆様の想像力にお任せしようかと思います。

 この作品がお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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