#4 医療ド素人がコロナ陽性者の健康観察をするよう命じられた話
「すみません、パルスオキシメーターって何ですか?」
と、私は保健師である上司に質問した。
例の感染症の件で休日出勤をすることになった。
私が勤務する保健所の管轄エリアで、自宅療養をしている陽性患者が増えてきたからだ。
これまでは保健師が土日に出勤して、自宅療養中の患者の健康観察をしていた。
それに加え、土日に陽性になった患者の調査や、病院への送迎も行っていた。
保健師だけが毎週連続で休日出勤を続けており、体がもたなくなってきた。
ここは保健師だけでなく、職種問わずみんなで助け合おうというわけだ。
私は陽性者の健康観察を手伝うことになった。
上司から陽性者のカルテを渡され、全員に電話して体調を尋ねるようにと言われた。
確認する項目は
体温
症状
パルスオキシメーターが手元にある場合はその数値
そう指示されたとき、上司に冒頭の質問をした。
今でこそ通販で購入する人もいるくらい認知されているが、当時パルスオキシメーターの存在はあまり知られていなかった。
これだよ、と上司からパルスオキシメーターを渡された。
「これどうやって使うんですか?
数値がどのくらいだったら大丈夫なんすか?」
これまでも書いてきたが、私は保健師ではなくただの事務職員だ。見慣れない言葉を前に動揺し、つい質問を重ねてしまった。
そもそも、自分がこの仕事をして大丈夫なのだろうか。
保健師からは「体調が悪化していたら教えて」と言われたが、悪化ってどのくらい?
プレッシャーだった。
当時、自宅療養をしている人のほとんどは無症状、もしくは症状が軽い人が中心だった。だが、まれに症状が悪化してそのまま入院する人もいる。
医療ド素人の私は、悪化の兆候に気付けなかったらどうしようと怖かった。
電話をかける前も「この人は今日も元気かな、大丈夫かな」と緊張していた。
少しでも昨日と違うことがあったら保健師に相談し、指示を仰いでいた。
電話していた患者から症状のことや薬のことで相談を受けるが、判断できない。
またしても保健師に電話をつなぐ。
いくら素人だからって体調の聞き取りしかできないなんて、機械と同じじゃないか!
申し訳ないやら情けないやら。
知識がないなりに自分にできることを、と思い
「落ち着いてきて良かったですね!」とか、「順調にいけば明日までですよ!」と、一人ひとりに声を掛けていった。
最後に、考えさせられた出来事を一つ。
ある時、若い女性の患者さんから「パルスオキシメーターを使ってもエラーが出てしまう」との連絡を受けた。
パルスオキシメーターはクリップ状になっていて、親指に挟んで使う。
その方はネイルチップを装着していたため、それが障壁となりエラーが発生してしまっていた模様。
ネイルとは全く縁がなかったので想像もできなかった。
指摘されて初めてなるほど、となった。
当事者になってみないと気付けないこともあると痛感したものだ。