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欧州&フランス:脱炭素と原発

脱炭素が盛り上がる中、欧州にて顕著になりつつある原発回帰の動き。欧州側の中心にいるのが、鬼気迫る感じで原発推進しまくるフランス。そこで世界原発潮流と昨今の欧州動向をサクッとおさらいしてみた。

記事要約

  • 今日時点で、欧州全体の電力需要の約25%を原発が担っている(なお、フランスは、国内電力需要の7割が原発)。

  • 原発の歴史を振り返ると、原発推進期と停滞期を右往左往してきた。福島原発事故で停滞フェーズに入るが、最近は再び原発回帰の動きが活発に。

  • その中心にいるのはフランスで、欧州の各政策に原発の役割をねじ込んできている。




1.揺れ動く原発事情

まずは現状を確認。

①今日時点でどこの誰が原発使ってるの?

EU加盟国28か国のうち、電力/エネルギー供給の手段として原発を使用しているのは13か国EU全体の発電量の約25%を占める。EU加盟国で原子力発電量でトップを行くのはフランス。仏国内に61基の原発が存在し、そのうち56基が稼働中。次が最近脱原発路線を閣議決定したスペインで10基中7基が稼働中。ドイツはフランスに次ぐ原子力国だったが、2023年4月に最後の原発がシャットダウンされている。

欧州地域における国ごとの原子力発電所数
欧州地域における国ごとの原子力発電所数(2023年8月時点。出典:Statistica)

②原発潮流

1953年国連総会におけるアイゼンハワー米国大統領(当時)の「Atoms for Peace」演説で原子力の平和利用への機運が高まり、1957年には国際原子力機関(IAEA)が設立。70年代のオイルショックにより、エネルギー保障の観点からも原発の積極的導入が世界的に進んだ。

1953年国連総会におけるアイゼンハワー米国大統領の「Atoms for Peace」演説
アイゼンハワー米国大統領(当時)の「Atoms for Peace」演説(出典:IAEA)

80年代前後に原発事故が発生(1979年米国ペンシルバニアのスリーマイル島および1986年旧ソビエト連邦/現ウクライナのチェルノブイリ)。脱原発を表明する国が現れ(例:イタリア、オーストリア等)、米国でも新規建設プロジェクトがなくなり、世界的に原発停滞期を迎える。

チェルノブイリ原発事故の様子
チェルノブイリ原発事故の様子(Photo:Jonny Wilkes)

90年代および2000年代、アジア地域を中心とした急速な経済成長によりエネルギー需給がひっ迫、さらに地球温暖化への問題意識が高まり、世界的に原発回帰のフェーズに入る。しかし、2011年に福島第一原発事故が発生、一気に原発停滞期に戻るものの、引き続き原発利用を表明した国もあった。

少し古いが、経産省が各国スタンスを下記にまとめている(2017年版だが、運転基数は除いて、スタンス的にはどこの政府もさほど変わってないはず)

2017年時点での主要各国の原発スタンス
2017年時点での主要各国の原発スタンス(出典:エネ庁)

2.フランスの動き

フランスは、電力供給の70%を原発で補っている。前政権下(フランソワ・オランド)で、2025年までに原発起源の電力供給は50%まで減らすとの方針が2014年に打ち出されたが、2023年に撤回。2022年に原発を新規で6基建設する旨発表したが、2024年1月に合計で14基の新規原発を視野に入れている旨発言あり。

フランスの原子力発電所の所在地
フランスの原子力発電所の所在地(出典:World Nuclear Org)

そんなフランスは23年2月、原発推進派アライアンスを発足させる。目的は、原子力サプライチェーン全体にわたってより緊密に協力し、次世代原発や小型原子炉などの新技術における「共通産業プロジェクト」の促進。ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ハンガリー、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニアの11か国が署名、ともに欧州ネットゼロ達成における原子力の役割を共同で守っていくことが狙い。なお、イギリスも今後次世代核燃料に積極投資(35億ユーロ相当)していくことを表明している。

3.思ったこと

ということで、悲劇的な事故が発生してしまった日本ではまだまだ機微なテーマの原発。欧州ではフランスを中心とした原発推進派がかなり前のめりになって、ロビー活動を展開。

原発は安くて安定している、再エネは高くて不安定とよく言われる。しかし、実際どうなのか。脱原発を進めてきたドイツやイタリアの一般家庭の電気代は高い。でも原発推進派のイギリスやオランダだって高いし、脱原発すると言って最近ヘジりだしたベルギーもかなり高額。結局電力コストはいろんな要因が絡まり合っているので、結局一概には言えない。

スペイン脱原発の際も触れたが、各国それぞれネット・ゼロへの道がある。原発産業が抱える雇用の問題、再エネ資源のAvailabilityの問題等々を考慮した上で、結局は各国国民が判断すべき政治的問題(エネルギー政策とか脱炭素とかいうとテクノロジーの話になりがちだが、実はがちがちの政治マター)。

ただ、一つ思うのは、ドイツが脱原発したってフランスがやる。仮にミラクルが起こってフランスがやめたとしても、東欧や世界の新興国が手を出す。ロシアはやめるわけがない。ということで、原発はなくならない。であれば、先進国がしっかりと原発テクノロジーにリソースをかけて技術を磨いていくのも一つの選択肢な気がしないでもない。大したノウハウのない国が適当に原子力に手を出されるのが一番怖い気がする。

とりあえず、今後も引き続き、欧州では原発回帰旋風が吹き荒れそうな予感。


併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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