【読書】死を考える/「死の壁」から
日本人なら誰も?が知っている養老孟子先生。老年のさらに晩年に至った著者が向かい合う死というテーマ、それについての見解をサクッとまとめたのが本書「死の壁」。
記事要約
日本人や日本社会がいかに死というテーマについて思考停止に陥っているかを論じている。
著者のメンバーシップ論は面白い考え方。ウチとソトという概念にも通じるこの理論、何処の国でも大なり小なりあるだろうが、日本はことのほか強い気がする。
1.本の紹介
本のタイトルは「死の壁」(2004年刊行)。450万部も売れた「バカの壁」はあまりにも有名。
著者はもちろん養老孟子(1937-)。詳細は以下の記事参照。
2.本の概要
本書のテーマは、死。日本人や日本社会がいかに死というテーマについて思考停止に陥っているかを論じている。
これは日本社会だけに言えることではないかもしれないが、著者は、日本や日本の社会が死を遠ざけている、というか自分は死なない、という意識をもっているという。つまり建物の造りを見ても、住人が死ぬ前提では作られていない、その結果色々と苦労した旨死体解剖が専門の著者は語る。
その考えは、古来からある「魂」という根強い概念があるという。肉体は滅びるが魂は残る、と言った考え方だ。でもそれもよくよく考えれば矛盾のある考え方、結局著者に言わせれば、人は死に真面目に向き合っていない、むしろ避け続けている、それを「死とウンコ」問題という。
結果、死は「穢れ」という概念と結びつけられ、生者と死者ははっきりと区別されるようになる。というか、生者=人間から、死者=死体は仲間はずれにされる(p87)。すなわち日本社会は生者によるメンバーズクラブで、一旦死亡判定されるとその人は戒名が与えられヒトではなくなる。ヒトでないものに優劣や善悪はない、結果靖国問題が発生するという。
このメンバーシップ=村八分論は、死だけでなく他のテーマを分析する上でも有用。その一例が、アメリカの大学入学制度。試験に真っ向から挑んで合格するものからすれば、社会的マイノリティのためにテストスコアは比較的高くなかったにも関わらず入学できたものやそもそもお金や親の力で入学できたものはけしからんという話になり勝ち。しかしよく考えれば大学側としては成績だけでなく他の観点も重要視しているというだけで、なにも問題はないが、試験スコアが言い連中は、大学というのは正面から正門を潜ったメンバーのみに許されるべきという考えがある。
他にも色々な話をしているがすっ飛ばして最終章。ここには著者から読者に対する人生のアドバイス的な金言が数多く記されており、私の心に響いたものだけ抜粋:
自分の死について延々と悩んでもしょうがない。というか考えても無駄。
生きがいは何ですか?などと悩むのは当たり前、そう思ってれば気が楽になるし実際そう。そもそも悩むのも才能のうち。そもそも悩めない人もいる。
「生きてて何の意味がありますか」的な自殺したい人に対しては「ふざけんな、たいして生きてもないくせに意味なんか聞くな」とのこと。
そもそも自殺は二つの罪がある。ひとつは殺人の一種だから。もうひとつは周囲に大きな影響を与えてしまう。
筆者の結論は、人間どうせ死ぬんだから慌てんじゃねえ、だそう。
3.感想
死の穢れ概念は、結構よく耳にする概念でそれが戒名や靖国に繋がっていくというのも納得(細かく言えば色々あるのだろうけど)。
面白いなと思ったのは著者のメンバーシップ論。なるほど、ウチとソトという概念にも通じるこの理論、何処の国でも大なり小なりあるだろうが、日本はことのほか強い気がする。意識的にやっているわけではなく、そういう島国根性が染み付いているのだろう。
こないだ日本帰国したさいに空港係員として黒人の方とお話しする機会があったのだが、日本語を普通に話す彼女に違和感を覚えてしまった。恐らく違和感を覚える人は他にもいるし、中には変な行動や言動をとってくる輩もいるだろう。それにもめげずJPメンバーとしていきているのだから脱帽&リスペクトだ。
それ以上にためになったのは、先生の各種金言。特に生きがいや自殺というテーマに対象で、生きることに意味を見いだせない若者が多いことについて言及、著者の「慌てるな」の一言はシンプルかつ心に響くパワフルな言葉。人はいつか死ぬ、慌てて死ぬことなし(病気とかで苦しすぎるとか特殊事情は抜きにして)ということだが、10年前に失ってしまった高校の同級生のことが思い出され、あの時この本にであってて、彼と話できてたら変わっていたんだろうかと思ってしまう。
最後に一言
なお本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。
あわせて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。
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