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欧州: 選挙と各欧州政党レビュー

2024年6月に実施予定の欧州議会選挙。欧州の今後の脱炭素戦略を決めると言っても過言ではなく、選挙結果によっては、脱炭素鈍化もあり得る。欧州レベルの各政党グループの主張やプライオリティーをノートにまとめてみた。

記事要約

  • 予想では、中道右派が第一党、中道左派が第二党と現在と同じだが、議席数は大きく下がり、一方で、非中道右派政党が大きく台頭する今回の欧州議会選挙。

  • 特に第三党が、中道リベラルのRenew Europeから極右のIDとなる。そしてグリーンは大きく票を落とすため、脱炭素の取組が鈍化、むしろ経済重視の方向に転換する可能性が高い。

  • 一時代を築いたEUグリーンディールを、再評価する必要性がありそう。




1. そもそも欧州議会選挙とは?

下記を参照。今回の選挙では、非中道右派政党の台頭が著しい。

2. 各政党グループの主張

欧州人民党/European People's Party(EPP)

欧州諸国中40か国の保守主義政党およびキリスト教民主主義政党のうち、70以上の政党が加盟するほか、中道右派やキリスト教民主主義系の無所属議員も所属する会派。現欧州委員長のフォン・デア・ライエンも所属。

欧州人民党のロゴ
欧州人民党のロゴ

基本的な立ち位置として、まずは経済が第一、そのうえで脱炭素・環境とのバランスを図る。Euractiveの最新の世論調査によると、EPPは選挙後も欧州議会でトップの座を維持(得票率23.5%、議席数182=>178議席)、次期欧州委員長もEPPから輩出される可能性が高い。

リークしたEPP のマニフェスト草案は、主に、中国や米国などとの競争にさらされる欧州経済が焦点で「欧州経済が世界的な成功を収めて初めて、経済的繁栄、野心的な環境保護、社会平和が可能となる。だから競争力が非常に重要」とEPPマニフェストに記載。

環境については、気候変動を環境保護の最優先課題として掲げ、国際場裏での欧州のリーダーシップの重要性や気候保護と経済のバランス、EUの環境政策決定における「官僚主義の削減」、そしてクリーンエネルギーへの安価で安定的なアクセスを強調。

なお特筆に値するのは原子力と自動車内燃機関。原子力に関してEPPは原則支持、内燃機関車両の販売禁止を規定した自動車CO2規制については見直しを掲げている。

※欧州の自動車CO2規制については以下

社会民主進歩同盟/Progressive Alliance of Socialists and Democrats(S&D)

社会民主主義系の各国政党議員から構成される欧州政治会派で、EPPとともに中道と呼ばれる(EPPは中道右派、S&Dは中道左派)。1999年の欧州議会選挙までは、欧州議会における最大会派で、その歴史は欧州議会が設立された1953年にまで遡る。日本では社会主義といえばもうマイノリティのマイノリティだが、欧州では社会主義系思想がまだ根強く残っている。

欧州社会民主進歩同盟のロゴ
欧州社会民主進歩同盟のロゴ

基本的な立ち位置として、EUグリーンディール with a red heartということで、EU脱炭素は引き続き推し進めるが、より社会的側面をケアしていくとしている。Euractiveの最新の世論調査によると、S&Dは選挙後も欧州議会第2位のグループの座を維持(得票率18.3%、議席数154=>143議席)。

リークしたS&Dのマニフェスト草案は、主に、社会政策と労働者の権利を脱炭素の取組の中心に据える「Green Social Deal」の概念。「気候中立性を達成するための競争において、誰も見捨てられてはならず、立ち止まることはできない」とのこと。

EPPと異なるのは脱炭素を巡る財政・予算。とくにS&Dは脱炭素を進めるうえで積極的な拡大財政・予算を主張欧州各国による共同借入により欧州の再産業化/Europe's reindustrialisationを支援する「グリーン・デジタル移行のための投資計画」を重要視している。

もう一つの重要な優先事項は、グリーンディールの外的側面であり、「グローバル・サウスとの新たな対等パートナーシップ」と、「経済、グリーンエネルギー、気候変動、移民、民主主義」に焦点を当てたアフリカとEUの新たなパートナーシップの推進である。 。 マックス・グリエラが詳細を語っています。

アイデンティティと民主主義/Identity and Democracy (ID) 

右翼・極右に位置する欧州議会の政治会派。 2019年欧州議会選挙の時に結成された民族主義、国家主義、右派ポピュリズム、欧州懐疑主義、反移民の各国政党により構成される(ドイツのAfDもメンバー)。Euractiv世論調査によると、IDは票の 12.5% (73=>93議席)を獲得すると予想されている。

アイデンティティと民主主義/Identity and Democracyのロゴ
アイデンティティと民主主義/Identity and Democracyのロゴ

マニフェストはないが、立ち位置としては、エネルギーと環境などを含むEU主導政治を国家に引き戻すこと。そして、環境に関しては保護主義的なアプローチを取ることが予想される(マリーヌ・ルペン氏のフランス国民党の影響)なお、ID議員は議会を欠席することが多いらしく、そうなると議会審議への影響力も限られてくる可能性有り。

※ドイツAfDについてはこちらから

欧州保守改革派グループ/European Conservatives and Reformists/(ECR)

保守的で穏健な欧州懐疑主義、反連邦主義を志向する欧州議会の政治会派で、2009年の欧州議会議員選挙後に結成。当時、旧欧州人民党・欧州民主主義グループ内のグループであった「欧州民主主義グループ」から参加。現在は、特に人数の多い政党はポーランドの法と正義である。2020年1月のイギリスの欧州連合離脱までは、イギリスの保守党も主要な参加政党であった。

欧州保守改革派グループ
欧州保守改革派グループ

Euractiv世論調査によると、次期選挙では10.9%(62議席から80議席増)となると見込まれている。マニフェストは今のところないが、おそらく鉱業地帯など脱炭素・エネルギー転換政策の大きな影響を受ける地域・国(例:ポーランドなど中東欧)へのEU資金の移転に焦点を当て、グリーン移行を「公平かつ包括的」にする主張をすると見込まれる。

欧州刷新/Renew Europe

前回議会選挙で発足した自由主義・リベラル・欧州連合支持の欧州議会の政治会派(母体は欧州自由民主党同盟/ALDE)。現在108議席を獲得し議会で3番目に大きな政党だが、次期選挙では、得票率10.3%で84議席まで縮小すると予想されている。

欧州刷新/Renew Europeのロゴ
欧州刷新/Renew Europeのロゴ

マニフェストは現段階でなし。基本的な立場として、EU 単一市場に重点を置いた自由主義/リベラリズムへの回帰。EU単一市場の創設が、欧州の競争力強化と雇用創出(1つの市場、1つのルール、企業の負担軽減など)につながるとする。

脱炭素政策に関しては、新たなルールを採用するのではなく、「採用されたエネルギーと気候に関するルールの実施」を最優先事項に。脱炭素規制の作りの一時停止を求めるエマニュエル・マクロン仏大統領の呼びかけに同調する形、欧州グリーンディールの継続には反対

※Renew Europeの掲げる自由主義とは何かがわかる本は以下

欧州緑グループ・欧州自由連盟/The Greens/European Free Alliance (Greens/EFA)

欧州緑の党と欧州自由同盟という2つの欧州規模の政党を中心に結成(1999年に設立)。このうち欧州自由同盟は国家を持たない民族や少数派民族の政党、地域主義政党で構成、いずれも急進的(2009年にはスウェーデンの海賊党が加入)。次回選挙では、得票率6.8%、現議会の74議席から50議席まで議席を下げると予測されている。

欧州緑グループ・欧州自由連盟のロゴ

マニフェストは既に公表済み。基本的立ち位置としては、化石燃料の廃止や再エネ全振り、気候保護が優先事項。ガスと原子力についても、持続可能なクリーンエネルギーとカウントすることに反対。一方、脱炭素の取組による市民の生活への影響も考慮しており、住宅や水、移動手段、医療サービスがすべての人にアクセシブルであることを強調。

次期欧州議会議席配分(予想)

最後、Euractivによる世論調査結果

次期欧州議会議席配分(予想)
次期欧州議会議席配分(予想)

3. コメント

特に第三党が、中道リベラルのRenew Europeから極右のIDとなるのが懸念事項か。そしてグリーンは大きく票を落とすため、脱炭素の取組が鈍化、むしろ経済重視の方向に転換する可能性が高い。しかもIDの場合は貿易保護主義的な意味での経済重視。EPPとの兼ね合いでどこまでラディカル度合いが緩和されるか。そして欧州界隈ではフォン・デア・ライエン現行欧州委員長が再任を狙っているという噂も。いずれにせよ、一時代を築いたEUグリーンディールを再評価するタイミングがきている気がする。


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