岡部えつ

小説家 / 作家  最新刊『気がつけば地獄』(KADOKAWA)、他に『残花繚乱』(双葉社)、『嘘を愛する女』(徳間書店)など。過去に雑誌掲載された怪談短編もアップしてます。 著書一覧はこちらから→ https://e-okb.com/

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小説家 / 作家  最新刊『気がつけば地獄』(KADOKAWA)、他に『残花繚乱』(双葉社)、『嘘を愛する女』(徳間書店)など。過去に雑誌掲載された怪談短編もアップしてます。 著書一覧はこちらから→ https://e-okb.com/

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    • 岡部えつ|小説|Stories

      過去に雑誌や作品集などに掲載された短編を、加筆修正して掲載しています。 既刊の単行本一覧はこちら→ https://e-okb.com/

    • 岡部えつ|エッセイ|Essay

      岡部えつ(小説家)のエッセイです。不定期に更新中。

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    GIベビー、ベルさんの戦争が終わるときー天涯孤独に生きてきた“混血孤児”が、73歳にして最後の肉親探しの旅に出る……

    孤児院での約束ベルさんは、物心ついたときには横浜の児童養護施設にいた。 1949年生まれの彼女は、連合国軍占領下の日本でアメリカ軍兵士と日本人女性の間に生まれた、いわゆるGIベビーだ。中でも、こうして施設に預けられた子供たちは「混血孤児」とも呼ばれた。 彼女の最初の強い記憶は、横浜から北海道へ移動する、列車での長旅だ。 施設のシスターが1人と、自分を含めて3人の白人系の混血女児が、二人掛けの椅子が向かい合ったボックス席に座り、20時間近く揺られて北に向かった。 着いた先は

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      • 掌編小説 『嫁入り人形』 (アンソロジー収録作品)

         仲のよい姉妹がおりました。二人には、末子の妹のように可愛がっている、市松人形がありました。  家は貧しく、姉妹は着物もお菓子もおもちゃも、分けあって使います。人形も、姉が髪を梳いてやれば、妹がおべべを着替えさす。妹が歌を歌ってやれば、姉が絵本を読んでやる。そうやって、仲良く世話をしておりました。二人には、人形が笑ったり泣いたりする声が、ちゃんと聞こえていたのです。  あるとき、母親が二人を呼んで、市松人形を売らねばならなくなったと告げました。古いものですが、たいそう値打ち

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        • 短編小説・怪談 『奇木の森』 (アンソロジー収録作品)

           呆れ返る部屋だった。天井近くにお札や御幣が乱雑に乗った神棚があるかと思えば、その下の白壁には風呂敷大の曼荼羅図が掛かり、部屋に置かれた唯一の家具である飴色の水屋の上には、瀬戸物のマリア像とサイババのフォトフレームが仲良く並んでいるのだ。そのひきだしを開ければ、コーランが出てくるに違いない。  そしてそれらすべてを凌駕するのが、目の前にいるここの主だった。  霊媒師だというから、白い着物に緋色の長袴、首から大きな数珠でも下げて呪いのひとつも唱えるのかと思ったら、破れ襖から足踏

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          • 掌編小説(雑誌掲載作品)『夜光泉』

            「この島、夜光虫がいるんですって。見に行きませんか」  そう言い出したのは、北海道から来たという女子大生のアミだった。断ろうとしたが、その前に彰が「いいね」と返事をしてしまった。  宿の中庭で、たまたま同宿した客たちで始めた宴会は、夜半を過ぎ酒も尽きて、解散の頃合いだった。わたしは早く部屋に戻って二人きりになりたいのに、彰はいつもこうだ。若い女に色目を使われると、恋人のことなど忘れてしまう。むっとして黙っていると、 「俺も行くわ」  先ほどまで鼾をかいていた小太りの男が、ベン

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            岡部えつ

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            妖怪"誤解"。口癖は「誤解させてすみません」

            先日、小学校3年生の姪を連れて、『水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 』に行ってきた。幼い頃から鬼や閻魔大王が大好きな彼女は、最近妖怪にも興味を持ち始めているのだ。 わたし自身はその年の頃、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の第2シリーズをリアルタイムで観ていた世代で、アッコちゃんやサリーちゃんと同列に捉えていた妖怪を、好きか嫌いかで考えたことはなかった。 妖怪にあらためて興味を持ったのは、おそらく1991年にNHKで放送されたドラマ『のんのんばあとオレ』だと思う。この年の誕生日、友人にね

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            アンビエントな夜

            荻窪ベルベットサンの、火曜日BARへ行く。 あっついあっついと言いながら入ると、先に来ていた友人二人と店長H氏が迎え入れてくれる。 この日はベーシストO氏が月に一度催している企画の日で、ステージには難しそうな機材とエレキベースが置かれ、抑え気味に氏の音楽が流れていた。 心地よいその音楽はアンビエント・ミュージックというもので、わたしはまったく詳しくないのだが、辞書を引くとブライアン・イーノが始めた環境音楽とある。 音楽知識の浅いわたしがブライアン・イーノの名を知ったのは確か

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            短編小説(雑誌掲載作品)『紅筋の宿』

            1 過ち 梅雨明けの炎天下、寂しい田舎道を男が歩いている。薄紫のポロシャツにジーンズ、黒革のショルダーバッグを斜にかけた姿は颯爽としているが、山に囲まれ一向に変わらぬ景色の中を、数歩行っては立ち止まり、黒いキャップをかぶった頭をきょろきょろとさせているのは、道を誤ったのである。  男は集落のとっかかりにある神社の境内まで来ると、由来板をざっと読んでから、その脇にある大石に腰を下ろした。胸ポケットから携帯電話を取り出して、午後4時を回っていることを知るが、予約した旅館に電話をし

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            短編小説(雑誌掲載作品)『アカシアの血』

            1 山犬「野焼きのときには犬を放すな。焼け死んだ蛇を食らうと、狂って山犬になる」  わたしが十五の歳まで暮らした故郷の村には、そんな言い伝えがあった。だからなのか、ちょっと頭のネジが緩んだ者などが「蛇食い」「山犬」と呼ばれ、蔑まれた。  わたしの叔母もその一人で、村の女たちから、山犬、犬畜生と陰で呼ばれて嫌われていた。賢くてしっかりした女だったので、なぜそんなふうに言われるのか、幼い頃のわたしにはわからなかったが、あるとき、近所に住む後家の志野が「あの女は、おシモのネジが緩ん

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            新宿午後八時

            新宿に、20年近いつき合いになる馴染みの店がある。 まん延防止とかのせいで、17時開店だというのでその時間に行ってみると、案の定、客はわたし一人だった。 「まったく、夜8時からウイルスが出てくるってわけじゃないのに、愚策だよねえ」 座るなり御上(おかみ)をくさすと、 「でもね、お客さんも歳をとってきたせいか、17時オープンのほうが嬉しいって人も結構いるから」 店主はにこにこしている。 しかし結局他に客は来ないまま、以前なら飲み始める頃に、そろそろ店じまいという時間になった。

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            Fire Waltz --- スガダイロートリオ+東保光 at アケタの店

             彼の演奏は、上澄みの清らかな水面を見せてしんとしているわたしの、底を叩いて水を濁らせる。その挑発に揺さぶられ、もがいて自ら溜まった泥を掘り返すうち、キラキラ舞い光る砂粒の中から、重要な宝物を見つけ出すことがある。  そんなスガダイローのライブは、わたしにとって、気軽に行って聴いて飲んで酔って陽気に楽しめばいい、というわけにはいかないものだ。へこたれて干涸らびた状態で底を叩かれたら、ひび割れて壊れてしまう。  だからここ最近、彼の演奏を聴けなかった。新型コロナウイルスも含めて

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             いつの頃からか、季節とは、これまでの時間を五感から想起させるノスタルジアのことではないかと思うようになった。  きっかけは、以前から夏になると現れる、心が過去の夏に紛れ込んでいく感覚、その、何万本という花の重石に圧迫されているがごとき息苦しさと官能を、何と表現すればいいのかと考えたことだ。ふと、それこそが季節というものではないかと思いついた。一旦思ったらもう、そうとしか考えられなくなった。  以来、風の匂い、空気の肌触り、風景、音、気配、そうしたものから過去を思い起こし、掻

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            闇の中のジュリエット

             読み返すたびに違う味がじゅわっと滲み出てくるのが名作というものであるわけだが、先般、訳あって古典の名作シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』(平井正穂訳)を久し振りに読み、またあらたな味わいに酔いしれるとともに、400年の時を経てなお現在に重く問いかけてくる問題に思いを馳せる機会があったので、読書感想文的に書き残しておこうと思う。      * * *  ロミオとジュリエットの恋は、暗闇の中で進んでいく。夜の舞踏会で出会い、その深夜にバルコニーで愛を告白し合い、ロレン

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            コロナと友達と世界とピンチ

            世界がコロナウイルスですったもんだしているこのとき、発熱してしまった。37.8℃。 まず、家族を含めて最近室内で長時間一緒に過ごした人たちに連絡をした。コロナ感染かどうかはわからないが、身近には高齢者もいるし、基礎疾患を患っている人もいる。感染を疑って行動するに越したことはないと、判断したのである。 幸い職業柄家にこもっていることが多い上に、ここのところ原稿の進みが悪く、ライブにも飲み屋にも出かけていなかったため、連絡すべき相手は数えるほどで済んだ。それにそもそも、友達も少

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            上を向いて歩こう、こんなときには。

            新型コロナウイルスの英語表記は『novel coronavirus』だが、決して『小説・コロナウイルス』ではない。”novel” には、形容詞で ”新しい” ”奇抜な(original)” ”新種の” といった意味があるのである。 ところが気になることに、わたしの電子辞書にはその意味の前にカッコで ”(しばしばほめて)” とついている。”ほめて”とは、“いい意味で” ということであろう。つまりこのコロナは、いい意味で新しく独創的(original)なウイルスなのである。 ど

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            ピアノのこと

            わたしがピアノを習い始めたのは、4歳のときである。 望んで習ったのではない。神戸から父の実家がある前橋に引っ越してきた丁度その頃、父の妹である叔母が、ピアノ教室を開いたのだ。 それでも父には、わたしにベートーベンの『エリーゼのために』を弾かせたい、という夢があったらしい。4年生か5年生でそれを暗譜したとき、感慨深げにそう言われた覚えがある。 一度暗譜した曲は、なかなか体から抜けていくものではない。わたしは『エリーゼのために』を、ずいぶん大人になるまで空で弾くことができた。

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            お弔い

            父方の従妹が死んだ。死因は心不全ということだが、長年の持病の服薬と、少なくはなかったという飲酒習慣が祟ったのではないかと思う。 理学修士の学位を持つ才女で、最後まで子供に数学を教えていた。 年下が亡くなると心がざわついて落ち着かないものだが、親戚となるとさらに色々と考えてしまう。何しろ、彼女が生まれたときのことを知っている。子守りもした。よちよち歩きで宵の窓際に立ち、小さな指を天に向けて「のんのんさま!」と呼びかけた唇の、端に溜まったよだれのきらめきまで覚えている。 父方の

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