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岡部えつ|小説|Stories

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著書の紹介や、加筆修正した過去作品を掲載しています。
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記事一覧

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岡部えつ著『怖いトモダチ』第3章【中井ルミンのエッセイ「オンラインサロンで幸せになろう】より。朗読:岡部えつ

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岡部えつ著『怖いトモダチ』 第1章 【隆くんママの話】 より 朗読:岡部えつ

掌編小説 『嫁入り人形』 (アンソロジー収録作品)

 仲のよい姉妹がおりました。二人には、末子の妹のように可愛がっている、市松人形がありました。  家は貧しく、姉妹は着物もお菓子もおもちゃも、分けあって使います。人形も、姉が髪を梳いてやれば、妹がおべべを着替えさす。妹が歌を歌ってやれば、姉が絵本を読んでやる。そうやって、仲良く世話をしておりました。二人には、人形が笑ったり泣いたりする声が、ちゃんと聞こえていたのです。  あるとき、母親が二人を呼んで、市松人形を売らねばならなくなったと告げました。古いものですが、たいそう値打ち

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短編小説・怪談 『奇木の森』 (アンソロジー収録作品)

 呆れ返る部屋だった。天井近くにお札や御幣が乱雑に乗った神棚があるかと思えば、その下の白壁には風呂敷大の曼荼羅図が掛かり、部屋に置かれた唯一の家具である飴色の水屋の上には、瀬戸物のマリア像とサイババのフォトフレームが仲良く並んでいるのだ。そのひきだしを開ければ、コーランが出てくるに違いない。  そしてそれらすべてを凌駕するのが、目の前にいるここの主だった。  霊媒師だというから、白い着物に緋色の長袴、首から大きな数珠でも下げて呪いのひとつも唱えるのかと思ったら、破れ襖から足踏

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掌編小説(雑誌掲載作品)『夜光泉』

「この島、夜光虫がいるんですって。見に行きませんか」  そう言い出したのは、北海道から来たという女子大生のアミだった。断ろうとしたが、その前に彰が「いいね」と返事をしてしまった。  宿の中庭で、たまたま同宿した客たちで始めた宴会は、夜半を過ぎ酒も尽きて、解散の頃合いだった。わたしは早く部屋に戻って二人きりになりたいのに、彰はいつもこうだ。若い女に色目を使われると、恋人のことなど忘れてしまう。むっとして黙っていると、 「俺も行くわ」  先ほどまで鼾をかいていた小太りの男が、ベン

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短編小説(雑誌掲載作品)『紅筋の宿』

1 過ち 梅雨明けの炎天下、寂しい田舎道を男が歩いている。薄紫のポロシャツにジーンズ、黒革のショルダーバッグを斜にかけた姿は颯爽としているが、山に囲まれ一向に変わらぬ景色の中を、数歩行っては立ち止まり、黒いキャップをかぶった頭をきょろきょろとさせているのは、道を誤ったのである。  男は集落のとっかかりにある神社の境内まで来ると、由来板をざっと読んでから、その脇にある大石に腰を下ろした。胸ポケットから携帯電話を取り出して、午後4時を回っていることを知るが、予約した旅館に電話をし

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短編小説(雑誌掲載作品)『アカシアの血』

1 山犬「野焼きのときには犬を放すな。焼け死んだ蛇を食らうと、狂って山犬になる」  わたしが十五の歳まで暮らした故郷の村には、そんな言い伝えがあった。だからなのか、ちょっと頭のネジが緩んだ者などが「蛇食い」「山犬」と呼ばれ、蔑まれた。  わたしの叔母もその一人で、村の女たちから、山犬、犬畜生と陰で呼ばれて嫌われていた。賢くてしっかりした女だったので、なぜそんなふうに言われるのか、幼い頃のわたしにはわからなかったが、あるとき、近所に住む後家の志野が「あの女は、おシモのネジが緩ん

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