短編小説(雑誌掲載作品)『アカシアの血』
1 山犬「野焼きのときには犬を放すな。焼け死んだ蛇を食らうと、狂って山犬になる」
わたしが十五の歳まで暮らした故郷の村には、そんな言い伝えがあった。だからなのか、ちょっと頭のネジが緩んだ者などが「蛇食い」「山犬」と呼ばれ、蔑まれた。
わたしの叔母もその一人で、村の女たちから、山犬、犬畜生と陰で呼ばれて嫌われていた。賢くてしっかりした女だったので、なぜそんなふうに言われるのか、幼い頃のわたしにはわからなかったが、あるとき、近所に住む後家の志野が「あの女は、おシモのネジが緩ん