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血も凍る

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怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」で放送された怖いお話を、色々な方が文章に“リライト”しています。それを独自の基準により勝手にまとめたものです。
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#怪談

禍話リライト「予告の家」

 妻子ある男性が不倫相手とともに姿を消した、ということがあった。残された家族は捜索願を出して行方を探したが、ひと月経っても居所がわからない。レンタカーを乗り捨てたようだという情報が入った程度だ。クレジットカードは止めている。現金もいずれ尽きるだろう。どっかで死んでるかもしれないわーなんて妻が笑い飛ばした、その翌日。男性と不倫相手は、男性宅の庭の木で首を吊った。  遺族はすぐに引っ越したそうだ。葬式は出さなかったそうだ。妻と子を捨て不倫相手と心中した男性は、無縁仏として葬られた

禍話リライト「たのしい禍家」

 こういう親戚がいれば冠婚葬祭は助かるだろうなという印象の、明るい男だった。 「……怖い話があるんです、聞いてもらってもいいですか」  男はそう口火を切り、とある家にまつわる話を始めた。 ●  私、妻と小学生の娘と三人暮らしなんですけれどね。家を買ったんですよ、それが職場からは通える範囲で、娘も校区を変えなくて済みそうな場所にすっごく安い一戸建ての物件を見つけちゃって。中古とはいえほとんど新築と思えるくらい新しくて、それでこの値段なら全然買えるぞって勢い付いちゃいましてね

禍話リライト「鬼婆神社」

 人が見てはならないものがある、という話。 ●  仲間内で「肝試しに行こうぜ!」ということになったそうだ。だがあまり怖過ぎるところには行きたくない。そこまで怖くなくて、けれど雰囲気はほどほどに味わえる。そういう都合のいい場所はないかと話し合ったところ、一人が「あそこはいいんじゃね? 鬼婆神社」と言い出した。  鬼婆神社。正式には神社かどうかも怪しいらしく、鳥居も鈴もないが本堂らしき場所は残っている。地元の者は一様に「鬼婆神社」と呼ぶ――そういう場所があるそうだ。 「それ

禍話リライト「喜か怒か哀か楽か」

 とある姉弟の、お姉さんのほうから聞いた話だ。  お姉さんは大学生で弟さんは高校生。たまに親御さんが家を空けることがあると、弟さんは夜遅くまで友達と遊びに行ってしまうのだそうだ。  ある夏の、親御さんが不在の夜のこと。連絡があったら自分の所在は上手く誤魔化してくれ、と弟さんから頼まれたらしい。 「いいけど、どこ行くの?」 「今日はねー、肝試し」 「肝試し? バカなことやって補導なんかされないようにしなさいよ」 「大丈夫、トンネルとかダムとかじゃなくて家のなかだから」 「え

[禍話リライト]深夜のファミレス[燈魂百物語 第零夜]

これで机を拭いて回るのも何周目になるだろうか。 布巾をたたみつつ店内を見渡しても男子大学生らしきグループが窓際の席でダル気に話しているだけだ。今日も特に仕事はなさそうだな、と独り言ちながらボックス席に挟まれた通路を歩く。 一応24時間経営ファミレスの系列店ではあるが、交通の便などの事情で昼にさえ客があまり来ないような店である。深夜二時ともなればなおさらで一組の客がいるだけでも相当な珍事だった。 24時間営業など辞めてしまえばいいのにとも思うが、深夜だけに時給も高く楽な仕

禍話リライト「待っていた女」

 お見舞いに行ったときに聞いた話だ。  A君という大学生が、B君から頼まれたのだそうだ。サークルの先輩のお見舞いにいっしょに行ってくれないか、と。一人では気まずいらしい。 「Aは会ったことがない人で申し訳ないんだけど、来てくれないか。会って様子を見てくるだけだからさ」 「え、やだよ。サークルの話ならサークルの連中で行きゃいいじゃん」 「みんな気味悪がって行かないんだ。それで近所だからって押し付けられちゃったんだよ」 「気味悪がって?」 「殺人事件があった廃屋に一人で半日くら

禍話リライト「血を吐く弟」

 大学生たちがサークルの部室に集まって怖い話をしていたときのこと。早々にネタが切れてネットで調べた怖い話を朗読し合っていたのだが、怖くないだの何だのと批評する者があった。  仮にAくんとしておくが、彼は浪人したとかでほかの部員よりいくらか歳上で、誰も言い返せない。はじめのうちは的を射た内容だったけれど、リアリティが無いからダメだと言い出し、段々と難癖に変わり、場の雰囲気も悪くなっていった。  そこに現れたのが、牢名主のごとく部員たちを取りまとめるOBの先輩だ。分け隔てなく接し

禍話リライト「ドアスコープの向こう」

 A子さんが以前住んでいた部屋での出来事だ。  職場に近い素敵な部屋で新しい生活を始めるはずだったのだが、唯一困ったのが夜中に起きてしまうこと。喉がカラカラに渇いて、全身汗だくの状態で目が覚めるのだそうだ。  怖い夢でも見たのかもしれないと納得したらしい。A子さんはもともと夢の内容をすぐ忘れてしまうタイプだ。  一日二日なら大した影響もないだろう。しかし、まだ暗い部屋で目を覚ます日が続き、早く寝ているはずなのに疲れが溜まるようになった。  引っ越しから二ヶ月ほど経ったころ、と

[禍話リライト]トンネルの宴[禍話 第六夜]

個人で経営している塾が閑散期に入ってどうにも暇である。久々に実家のある北九州に帰省することにした。 あくまで個人でやっているので、世間一般の休みとは微妙にずれている。せっかくなので鈍行を利用してのんびり帰ってやろう。 ガタンゴトン ガタンゴトン 都会から徐々に田舎に移り変わっていく景色を楽しみながら、久しぶりにくつろいだ気持ちになれた。こういうゆったりとした時間は久しぶりである。乗客のスーツの割合も少なくなってきて、緩んだ田舎の空気の割合が増えてきた気がした。 そろ

[禍話リライト]人のいい佐藤君[禍話 第五夜]

大学を卒業してから、通勤の便のために故郷から都内に引っ越した。 父にも母にも、ものすごく心配された。 「お前は優しすぎるから、東京行って変な奴に騙されたりしないように気をつけろよ?世の中、良い人の方が珍しいんだから」 僕ははいはい、とか適当に返事しといたけど、そんなことはないと思う。どんな人だって、真心で接していれば、きっと心を開いてくれる。そのためには、きちんとコミュニケーションをとることが大事だ。 例えば、円満なご近所付き合いのための挨拶は大切だ。ちゃんと引っ越し

[禍話リライト]ザクザクのお祓い[禍話 第三夜]

私は辺り一面雪景色の中に一人ぽつんと立っていた。 ザクザク、と雪を踏みしだきながら歩くと、掘っ立て小屋が寄り集まった昔の村のような場所についた。 私は勝手知ったかのように村の中央に訪れる。 そこでは、白装束を着た全身ぐちゃぐちゃの女の人が、村人たちに農具で耕されるようにリンチされていた。 女の人は声一つ出さずに、ただただ耐えているようで、目を固くつむって、手足に力を入れていた。 その女は生きているのが不思議な状態だった。 女が来ている白装束は、すでにずたずたに切り

禍話リライト「歩」

 通行人に向かって「オイ!」などと威嚇して遊ぶ若者がいるが、ああいうのは良くない。そういう話だ。  ちょっとヤンチャなA君が当時つるんでいたB君が、そういった手合いだった。道端ですれ違い様にやっていたのが段々エスカレートしていって、車道を挟んだ向こう側の歩道に向かって「オイ!」とやるようになったらしい。そこまで距離があいてしまうと、威嚇された側も気づかないことがある。  それは、未成年でありながら酒を嗜みいい気分で道を歩いていたときのことだった。  二車線挟んだ向こう側の

禍話リライト「ノックとごあいさつ」

 Aさんが住む家は、何の変哲もないごく普通のマンションの一室だった。事故物件でもない。不吉な謂れもない。おかしなことも起こっていない。  その夜、コンビニ弁当を手に帰宅したのは二十二時頃だった。二十代男の一人暮らしである。  食事を済ませたAさんはトイレに入った。水を流してトイレを出ようとしたその瞬間、ドンドン、とトイレの壁を叩かれたそうだ。便器に腰掛けたとき左側に位置する壁だ。その向こうはクローゼットになっている。  Aさんは驚いたものの、クローゼットの中のハンガーがぶつか

禍話リライト「洗面器」

 人によって恐怖の対象は様々だ。  霊が怖い。  人の狂気が怖い。  まんじゅう怖い。  ……洗面器が怖い、という人がいる。  Aさんは就職を機に上京した女性だ。二か月くらい経った頃の飲み会でたまたま家賃の話になり、自宅の家賃がかなり安いことを知った。地元を基準に考えていたAさんは家賃が高いと感じていたが、都心に近い割には安いようだ。 「おトクだね、Aはいいとこ見つけたね」 「事故物件とかじゃないの~?」 「事故物件だったらもっと安いでしょ」 「でもさ、事故物件の隣でも安