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血も凍る

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怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」で放送された怖いお話を、色々な方が文章に“リライト”しています。それを独自の基準により勝手にまとめたものです。
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2019年10月の記事一覧

禍話リライト「待っていた女」

 お見舞いに行ったときに聞いた話だ。  A君という大学生が、B君から頼まれたのだそうだ。サークルの先輩のお見舞いにいっしょに行ってくれないか、と。一人では気まずいらしい。 「Aは会ったことがない人で申し訳ないんだけど、来てくれないか。会って様子を見てくるだけだからさ」 「え、やだよ。サークルの話ならサークルの連中で行きゃいいじゃん」 「みんな気味悪がって行かないんだ。それで近所だからって押し付けられちゃったんだよ」 「気味悪がって?」 「殺人事件があった廃屋に一人で半日くら

【怖い話】 写真を売る男 【「禍話」リライト⑬】

 子供の頃、道端であやしいものを売ったり配ったりするおじさんに会ったことはないだろうか。  一昔前までは、校門の前でマジックを見せてそのタネを売ったり、劇場ではなく公民館でやるという謎の映画のチケットを配る人がよくいたものである。  治安の問題や世相の移り変わりから、昭和の終わりか平成のはじめまでにはそういう人はすっかりいなくなってしまったのだが。  これは、そんな昭和の終わり頃。子供たちに変なものを売っていたおじさんの話だ。  そのおじさんが売っていたものは、「心霊

禍話リライト「歩」

 通行人に向かって「オイ!」などと威嚇して遊ぶ若者がいるが、ああいうのは良くない。そういう話だ。  ちょっとヤンチャなA君が当時つるんでいたB君が、そういった手合いだった。道端ですれ違い様にやっていたのが段々エスカレートしていって、車道を挟んだ向こう側の歩道に向かって「オイ!」とやるようになったらしい。そこまで距離があいてしまうと、威嚇された側も気づかないことがある。  それは、未成年でありながら酒を嗜みいい気分で道を歩いていたときのことだった。  二車線挟んだ向こう側の

【怖い話】 バス停の女 【「禍話」リライト 23】

 ある県のあるバス停には、夜19時以降、バスが停まらないそうである。  「えっ、それっていいの?」「問題にならないの?」と思われる方もいるだろうが、そこの町の人たちは停まらなくていいですよ、と公認している。  むしろ町の人の要請で、バスの側も意識的に停まらないようにしているフシすらある。  遠くに働きに出ていて夜に帰ってくる住人も、ひとつ前か後のバス停で降りる。田舎となればひとつ飛ばすと結構な距離になるのだが、仕方なく歩いて対応している。  田畑ばかりが広がる中にぽつん

【怖い話】 扇風機の家─後編 【「禍話」リライト⑳】

~前編~ https://note.mu/dontbetruenote/n/n2a9da8cac7d5 〈3日目〉  昨日と比べれば、2人共に朝は遅かった。それでも7時には目が覚めていた。  友達はベッドの位置を変えたおかげかゆっくり眠れたようだが、まだ表情に暗さがある。  2人で扇風機を止めに行ったものの、友達はあまり部屋に入りたくないようだった。Tさんには断らずに、入口に近い扇風機を止めて、あとは適当に落ちている物を数個手に取って近場に戻すだけだ。  ……よほ

【怖い話】 扇風機の家─前編 【「禍話」リライト⑳】

 大学生の夏休みは長い。  Tさんは実家から大学に通う地元組だった。  ある年の夏休みのこと。  引っ越してきて通学している友達はあらかた実家に帰ってしまい、地元の学友はみんなよそへ遊びに行き、高校以前の同級生は大学のある地域から帰ってこない。  そんなことが重なって、Tさんはしばらくの間、一人ぼっちになってしまったそうである。  ヒマ潰しがてら短期のバイトでもしようか。そう思ったが、 「なんか親がいい顔しなくて。俺たちが稼いでやってるんだから働かなくていいだろ、

【怖い話】 蔵の箱 【「禍話」リライト⑯】

 戦後しばらくして、と言うから、今から五十年ほど前になるのだろうか。  Aさんは、「あなたにしかできないことをやってもらいたい」と、ある屋敷に呼び出された。  相手方はその町の、ひと昔前は庄屋とか名主とか言われていた大きな家である。 「あなたにしかできないこと」とはいかにも大仰で、Aさんが特別な存在であるかのようだが、そうではない。  Aさんはここから離れた地域にひっそりと住んでいる、ただの女性である。神通力も霊能力もない。  ただ、この家とは関わりがあった。強いよ

【怖い話】 燃やすバイト 【「禍話」リライト⑧】

ある夜。  すげー簡単なバイトがあるんだけど、人手か足りないんだってさ、お前やんねぇか、と友達に誘われたという。  へぇ、どんなバイトなの、とNさんが聞くと、「山奥で家財道具を燃やすバイト」らしい。 「まぁ無許可で焼くんだけどな。金払いはいいんだよコレが……」  オメーそれ犯罪じゃん、誰がンことやるかよ、と言ったが、バイト料を聞いて驚いた。けっこう、いやかなりイイ金額である。  ちょうど新しいバイクを買おうと金を貯めはじめた頃だった。頭金くらいにはなる。  詳しく聞けば

【怖い話】 喪服の奴ら 【「禍話」リライト⑥】

彼には、定期的に見る夢があるそうだ。 毎年ではないが、決まってお盆の時期。 喪服を着た知らない男が家にやって来る夢なのだという。  最初に見たのは、中学生の時だった。  夢の中では、家で一人で留守番をしている。すると、ドアチャイムが鳴る。  彼がスコープを覗くと、知らない男が立っている。黒いスーツ。どうやら喪服のようだ。  親の知り合いかな、別に最近不幸があったわけじゃないし、面倒だからいないフリをしとこう、と居留守を決めこむ。何度かチャイムが鳴る。粘るなぁあの人、と眉をひ

【怖い話】 集合体マンション 【「禍話」リライト⑤】

「僕が大学時代の話なんです」  Aさんはそう話し始めた。 「このへんの話じゃないんです。実家を出て、大学のある地域に住んで、実家に戻ってきて就職したんで。  だからもうあの地域には行くことはないです。絶対に近づきもしません」  Aさんは学生生活の傍ら、短期でポスティングのバイトをやっていた。  家やマンションのポストに入っている、うざったいチラシやダイレクトメール。あれを投函していく仕事だ。 「ポコポコ入れていくだけなんで、結構楽な仕事で」  給料も悪くなかった。  ある

【怖い話】 アイスの森 【「禍話」リライト ①】

 森、ではないかもしれない。 「アイスの……森、っていう話なんですけど」  話してくれたM君は最初、そう言いよどんだ。  地域や事件を特定されたくないため、名称を変えることは怖い話ではよくあることだ。   なので本当は、「アイスの山」や「アイスの家」なのかもしれない。  本当の名称がわからない以上、どこの話なのかもわからない。  あなたの家の近所にあるのかもしれない。   それをお含みいただいた上で、お読みいただきたい。  その「アイスの森」は、かわいらしい呼び名に反

【禍話リライト】記録されていく死

イトウさんには、ある嫌な思い出があった。 それというのも、大学のサークルで飲み会をしている際にオラオラ系の先輩がデスファイルのような実際の死体が映っているような作品を持ってきて見せてくる。皆で楽しく鍋を囲んでいるときにも面白がって見せてくる。昔は現在よりそういった規制も緩く、ネットを漁ればそこかしこに転がっているグロテスクな画像もスプラッターな動画もダウンロードすることが出来たもので、やれテロリストの処刑映像だの麻薬カルテルの拷問画像などを見せられてはやめるよう窘めるも素直

禍話リライト「トントントンの家」

 〝クズな幼馴染み〟とは、とA子さんの評である。  十数年前、A子さんが大学生の夏休みのことだったという。  幼馴染みのB子さんから、バイトをしないかと持ちかけられたそうだ。お盆のあいだ、親戚の家に二、三日泊まるだけで五万円貰えるという話だった。 「本当?」 「ほんとほんと。あんたに五万あげるから来なよ」  B子さんがA子さんに五万円くれるということは、B子さんはもっと貰う約束なのだろう。容易に推察できたが、五万円だって嬉しい。A子さんは引き受けることにした。  当日、待

【禍話リライト】Ⅳ階の娘

「Aくんと君って同期だったよね?」 ある日、上司からそう話しかけられたのが事の発端だった。Aとは入社してからの同期ではあり仲は良かったものの、大企業で働いていれば配置替えで部署異動はザラだ。そうなれば忙しさの違いや残業などで疎遠になってしまうことも珍しくなく、会って話す機会も減っていった。風の噂でなにやら今の部署で頑張っていると聞いていたから、ひょっとしてけっこう出世でもしたのだろうか。そろそろ内示も決まる時期でもあるし冗談半分で「あいつ次の人事異動で良いところに行くんです