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雪解けの大地が映し出す「心」のほぐれ⑧

雪解けが進みはじめる、4月の北の大地。
この地に足を踏み入れるのは、前職の出張以来となる6年ぶりだった。
今年の札幌は記録的積雪で、道や線路の脇に名残と、風の冷たさが頬に触れる。
もうすぐ芽吹き始めるだろう木々たちを眺めながら、旅の目的地まで心が先へ先へと急いでいるのを感じる。

待ち受けていたのは、期待を遥かに超える、気づきと変容だった。

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22.即興アレンジ

今日は、この旅3日目、最終日だ。
朝は、ゆっくりめの集合なので、ホテルに併設される温泉に行く。

旅の時は、必ず温泉宿に泊まる。なるべく天然温泉。
ビジネスホテルでも温泉付きが増えてきていて嬉しい。
今回は、すすきのにあるホテル。露天風呂もついていて空気が気持ち良い。

昨夜もついつい飲みすぎてしまったようだ。
迎え酒。
旅の時は、制限をかけずに食べたいもの、飲みたいものを優先する。
今回は家族がいないから、ついつい羽目を外して、身体に負担がかかってしまったみたい。20代の頃とは違うのに、気持ちはいつでも28歳だ。

露天風呂に入るながら、ぼーっと過ごす。
昨夜の余韻に浸りながら。この二人とも、一緒にホースコーチングを体験したいな、なんてことも妄想していた。

ホースコーチングは、いろいろなアクティビティがあるなかで、その時々の参加者に応じてプログラムをアレンジしてくれる。
別のメンバーで来たら、全く異なる視点での気づきだったかもしれない。
だからこそ、別の仲間とも来てみたくなる。

チェックアウトの支度をして集合場所に向かう。
今日は、みんな元気そうだ。

愛さんは、二日酔いのため昨日は早めに就寝、早朝からお散歩に出掛けていたそうだ。昨日と打って変わって、顔色も良くて声もハリがある。
れいちゃんとあきぽんは、二人でジンギスカンを食べ、2軒目にBARに行ったらしい。すすきのにあるBARは、今の時代に珍しく、愛煙家が集うよう。
禁煙のお店がなかったそうだ。なんだか懐かしい感じ。

それぞれの過ごし方や、持ち帰ったモヤモヤを語り合っていたら、あっという間に牧場に着いた。

いよいよ、最終日が始まる。

「さあ、じゃあ話し始めましょうか。みんな堅いから適当に、どうぞ。」

Amiiさんのファシリテーションもカッチリすることはない。
私たちの真面目な性格に沿って、ゆるい雑談形式に話が始まる。
いつものように、あきぽんが最初に口を開く。

「課題図書にあった”生きる技法”を読んだんです。最初に読んだ時は、上辺を撫でたような読み方で、ふーんっていうくらいだったんですが。ホテルに帰って読んだら、全部私のことやんって。」

うん、うん。みんな、優しく相槌を打つ。

「それで、気がついたんです・・・私が悩んでいたことって、相手の問題じゃなくて、全部私自身の問題だったんだって。何も貢献しなくても、存在するだけでいいって自分に言いたい。」

純粋で、素直で、まっすぐ進んでいく、あきぽん。
彼女をまた、抱きしめたくなった。嬉しくて、泣きそうになる。
気がついてあげられた、自分の気持ちに。
そして、自分が、自分を、赦し愛してあげられた。感動で言葉が出なかった。

続けて、れいちゃんが話す。

「私、馬が怖いって思っていたけど、それは人にも同じだったんだなって。コーチだから、みんなを受け入れ、どんな時も”こうあらねば”って。でもそれを持っていたのは自分だったなあって。」

すごい。
みんな、この会わなかった数時間で何があったんだろうと、驚かせてくれる。全部自分に矢印を向けて、本当に自分と向き合っている。
その姿に、刺激を受けるし、感動を覚える。

そして、愛さん。
過去の話をしてくれた。

「あの時は本当に苦しかったし、もう2度とそんな体験はしたくないって思ってきた。でも、それはある意味、過去に囚われていたのかもしれない。同じ事象が起こったとしても、感情までネガティブになるのか、今もそうなってしまうのか、それは関係ないって思って。そう考えているのは自分の思考だけだって気がついた。」

その話を聞いて、朝から泣く。
愛さんは、過去のトラウマに向き合ったんだなって。
過去感じた恐れは、事実と強く結びついていたけど、事実と主観を分離して考えることができていた。
すごい。

みんな、それぞれに、持ち帰った感情とモヤモヤを言葉として紡いでいく。
私は・・・

「自分の良い部分に気が付くことができた。新しい方法を気軽に試して変えられる。相手を受け入れる懐があること。変わることができる自分、素直な自分に気がつくことができました。」

本当にそう感じた。
これまでは、できなかった部分や、自分の嫌な特性ばかりに目を向けてしまいがちだった。今回は、自分の良い特性にも目を向けることができた。
そして、せっかち・目的優位・思考優位、そんな自分の特性だって責めることなく、認めて受け入れることができた。

4人全員の言葉を聞いて、Amiiさんが考える。
前日に、最終日のアクティビティ候補をいくつか渡してくれていた。

「よし!昨日、色々な選択肢を伝えていたけど、辞めます。みんなで角馬場に入ります。昨日は触れ合わなかった、歌舞伎も含めた3頭と4人全員で。」

えーーー!
昨日の選択肢では「歌舞伎と触れ合う」とあったので、それを選ぶ気満々できたのに。でも、この瞬間に即興でアレンジしてくれた意味があるんだろう。

続けて、Amiiさんからお題が出た。

「二つだけ考えましょう。心地よい自分とは?他者とどう向き合いたいか?そしてそれを先に4人でシェアしてから入りましょう。」

10分、考える時間をもらった。
その間、みんな自由に過ごした。置いてある書籍に手を伸ばしたり、クラブハウスの中を歩いてみたり。
みんな、何を考えているんだろうな・・・

クラブハウスの一角

23.心地良さ

「では、シェアしましょうか。」

それぞれが、心地良さと他者との向き合い方について語り始める。
珍しく私から話し出す。

「心地良さは、自分を感じられるとき、何かと繋がっている時。歌をうあったり、温泉に溶け込んだり、息子とハグする時が心地良いんです。
他者とは、干渉し合わないで尊重し合える。一人一人と程よい距離感で。」

続けて、愛さんが話す。

「私は、のびのびと圧がない時が心地良いかな。他の人とは、好きなようにしているけど、助け合うことができる関係性が良い。」

この2日間で触れ合ってきたから、この言葉に愛さんらしさが満載なのが分かる。
次に、あきぽんが話し出す。

「何もしなくても存在して良い感覚でいたい。それでいて、想定外を楽しみたい。他の人とは、肩書きも奉仕もなくても受け入れてくれるような・・・人間であることに意味を見出す感じ。」

昨日の自己開示から一番変化が起こったのは、間違いなく、あきぽんだろう。
ただ、居るだけで良い。それを楽しみたい。大切な感覚。
最後に、れいちゃん。

「全力で楽しい〜!と言えること。素直に言いたいし、直感を信じたい。他者とは。傷をつけあわずに居られる、白でも黒でもなくグレーを楽しみたい。お互いに擦り合わせるように。」

れいちゃんの葛藤から見出した光を感じた。
自分が自分らしくあること。そしてそれを尊重し合い、多様性を受け入れ合う優しい世界観。きっと居心地が良いだろうな。

それぞれの良さをシェアして、それ以上は詮索せず、角馬場に向かう。
これから、どんなことが待ち受けているのか、そんなことは想定もできないし、今回も目的はないから。
起こった出来事を、とにかく楽しもう。その気概で、一歩ずつ、歩みを進める。

3頭が入った、角馬場に到着した。
鼓動が少し速くなるけど、もう馬への恐れもない。
未知に対しての希望が、心拍数に表れているのだ。

「私は、最初だけ入ります。何かあれば、私も介入しますが、みんなだけだと思ってね。」

いよいよ、7人の時間が始まる。

3頭のいる角馬場

次回に続く・・・


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