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アナと世界の終わり

イギリスのコメディ映画でゾンビ物と言えば、まず(というか確実に)、「ショーン・オブ・ザ・デッド」を思い出しますが、それに学園青春物とミュージカルをプラスしたのがこの映画で、ああ、なるほど、そりゃ相性良さそうじゃんとちょっと上からのノリで観に行ったら、めちゃくちゃ好きな映画になりました。(2010年に公開されたライアン・マックヘンリー監督の「Zombie Musiacl」という短編を、癌で亡くなった監督の意思を継いで長編映画化した)「アナと世界の終わり」の感想です。

サイモン・ペッグとニック・フロスト主演でエドガー・ライトが監督(今やみんな有名どころですが。)した「ショーン・オブ・ザ・デッド」が映画好きの間で愛されているのは、ダメ男ふたりのゆるい日常の愛おしさとか、細かいカット割でスピーディーに見せるギャグとか、とにかく主演ふたりのキャラクターがいいとか、いろいろありますが、何と言ってもその映画愛、ゾンビ愛に尽きると思うんですね(ゾンビをコメディとして描いてるけど、「コイツらちゃんと分かってるじゃん」感と言いますか。要するに面倒臭いマニアックな映画ファンをその愛情の深さで黙らせたってことです。)。で、今回の「アナと世界の終わり」の方が、女子高生が主人公だったり、ミュージカルだったり、クリスマスが舞台になってるなんて分(「ショーン・オブ・ザ・デッド」がオタクのクズ男が主人公という、いわゆる"俺たちの映画"だったのに比べて)ハードルは上がってると思うんですよ(マニアックな映画ファンに対してね。)。なんですけど、これ、見事にクリアしてるんじゃないですかね。単純に「ああ、映画って楽しい〜。」っていうのが満載だったんですよね。

ただ、まぁ、手放しで傑作というわけでもなくて。いろいろ詰めが甘いというか、ここ、こうした方が良かったんじゃってところが、ある映画ではあるんです。だけど、初々しさというか瑞々しさというか、とにかくキュートな映画だったんです(映画それ自体が青春してると言いますかね。)。つまり、青春映画として凄く良くて。これ、たぶん「何映画?」って言われたら青春映画なんですよ。そこにミュージカルとゾンビを絡めたってバランスになっていて。その根幹の部分が良かったらそれでいいじゃんて感じなんですけど。出て来る人たち(アナのお父さんまで含めて)みんなかわいいし、みんな悩んでるし、その悩みを持った上で卒業を間近に控えたクリスマスの時期っていう設定もいいし(しかも、イギリスなんで常にどんよりと曇ってるんですよね。空が。そういう中でも青春を謳歌してるアナたちがよりかわいく見えるというか。)。で、そのそれぞれの高校生たち(主人公のアナ、その幼馴染のジョン、ふたりの共通の友達カップルのクリスとリサ、アナの元カレのニック、周りに心を開いてない一匹狼的な女子のステフ。)の心の叫びというか、悩みやこれからの人生に対する不安なんかを歌うことでミュージカルにしてるんですけど。人生のキラキラした季節を(曇り空の下で)、めちゃくちゃキラキラした曲(曲も良かったです。伝統的なUKポップスというか、高校生が好きそうな感じで。)に乗せるっていう、それだけで充分観る価値あると思うんですよね。青春+ミュージカルの相乗効果で(歌で繊細な心情を表現することで彼女たちのキャラクターを多面的に見せられる様になっているんです。)。で、そこに更にゾンビをぶち込んだらというのがこの「アナと世界の終わり」なんですが、ぶっちゃけ、ゾンビが出て来たら、もう、ゾンビ映画なんですよ。キラキラした青春にゾンビがどう絡んで来るかとか、どんな相乗効果を見せてくれるのかってことを無視して、ゾンビはゾンビ以外の何者でもないんです。で、僕は、じつはそこが良かったなと思ってるんです。

映画序盤の青春ミュージカルのノリのままゾンビと対峙して、その青春パワーでゾンビを倒し、結果大人としても成長して、最後は歌って踊って大団円みたいなのを(青春ゾンビミュージカルという煽りから)僕も期待していたんですけど、そうはいかないのがゾンビ映画と言いますか。映画はゾンビを倒す度にトーンダウンして行くんですけど、それは、ゾンビと対峙することでアナたちが現実を知ることになるからなんですね。つまり、この映画にとってのゾンビは、アナたちが学校から出て行った時に向き合うことになる現実社会のメタファーなんです。で、そもそもゾンビ映画というのはその時の社会環境を反映させた現象を描くものなので、この映画はそれを踏襲してるってことなんですね(つまり、ロメロ直径のゾンビ映画ってことです。)。映画のラスト、とても余韻を感じる良いラストなんですけど、急にトーンが変わって違う映画になった様に感じるんです。けどそれは、じつはゾンビが現れた時なから徐々にシフトチェンジされていたことで。そこから、これぞゾンビ映画のラストっていうところに行き着いたってことなんだと思うんですね。つまり、映画の前半で不満や不安を歌いたい放題吐き出していたアナたちが、現実を知ることによって大人へと成長して行くのを描いていて。それって青春映画としてももの凄く真っ当な終わり方になっていると思うんですよね。ゾンビとミュージカルの相乗効果が薄いと思っていたんですけど、思っていたのとは全く逆方向からの青春映画とゾンビの融合がなされていたんじゃないかと思うんです(ただ、もともと原題が「Anna and the Apocalypse」で「アナと黙示録」って意味なので、何かの終わりを描くというのは最初から示唆されていたことだったんですけどね。)。

とにかくイギリスの片田舎の高校生たちの青春がかわいいのと、ゾンビをキャラクターではなく現象として描いているとこが、さすが、ロメロのオリジナル・ゾンビ「ドーン・オブ・ザ・リビングデッド」へのリスペクトで作られた「ショーン・オブ・ザ・デッド」に影響された映画だということ(ミュージカルでありながら、ゾンビに踊ったり歌ったりさせなかったのはゾンビをキャラクターとしてではなく、あくまで現象として描いているからなんだと思ってます。)、そして、あの、ゾンビ映画としても青春映画としても解釈出来る素晴らしいラスト(+クリスマス映画としても新たなマスターピースになりえると思いました。)。これ、やっぱり最高なんじゃないですかね。

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