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余談。本を売る方法ってあるのか?についての僕の見解。

本はどうやって売るべきなのか?

ちょっと偉そうなキャッチにしてしまったけど、これは出版界はもとより、著者もこれから出版する方も、大変気になるテーマじゃないかと思う。

一番参考になるのは、ベストセラーになった本がどんな工程を経て、プロモーションを経てそうなったのかを当人である担当編集や営業に聞くことだと思うでしょう。

しかし、仮に聞いたとしても参考にはなるかもしれないが、全て後付けの説明に聞こえるとまでは言わないけれど、編集から聞く話しは再現性がない場合も多い。また、営業の話しを聞いても当たり前なことを当たり前にやっていただけで、何か驚きの仕掛けがあったり、特別な販促があったわけでもないのである。

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結局、コンテンツ次第ですか?

と簡単に結論づけられればまだ分かりやすいのかもしれないけど、それが全てとも言い切れない難しさもある。

正直20年以上、出版営業をしてきて「これだ!」ってものがあるかと言えばないのである。全くないわけじゃないけど。

なにせ、期待していなかった本が自然に売れだす場合もあるし、どんなに仕掛けても、書店で大展開しても売れないこともある。

ひとつだけ断言できることがあるとすれば、出版営業と書店が売る気になった本は売れる可能性が高くなるということだ。

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よく、売れないものを売ってこそ力ある営業マンだと、世間でまことしやかに信じられているが、出版にあってそれは嘘である。売れない本は何をやっても売れない場合が9割である。売れないと判断するタイミングはそれぞれだけど。

新刊の点数が多いし、書店の店頭陳列も回転が早いため、なかなか売れない本を何とかして売ろうとしても、そこにかける営業の労力はバカにならないし、粗利が少ない書店は何日もその本にしがみついて売ろうとはしない。

だから、一定の販売期間を見て、別の本に陳列を代えたり、次の新刊を営業した方が効率がいいってなる。

ということは、本が発売されてから2週間、3週間以内にどれだけ売れるのかという、業界では初速がいいとか悪いとかと言いますが、出だしに全てがかかってくるのである。

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本は、担当編集が著者と二人三脚で半年から一年をかけて製作していくもので、その結果が、書店に並べられて数週間に売れる、売れないの判断をされるという、厳しいものなのだ。売れなければ返品が2ヶ月後、3ヶ月後あたりからドッと増えて、それが断裁されて紙屑に変わるのだから。

編集には必ず流通倉庫に行き、自分の目で返品の山を見るべきだと伝えていますが、実際に見た人と見ていない人とでは、返品の寂しさ、辛さの認識がまるで違うのだから。

話を戻せば、本は初速が大事という点にある。

もちろん初速が悪く、数ヶ月経ってから売れだしてベストセラーになる本もなくはない。ただ、それには営業マンが複数きちんと書店をまわり、顔の見える販促をしているのが条件である。書店は出版営業の顔が見えない本を大事に扱ってはくれない。よほど売れた本は営業抜きでも売るけれど。

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では、初速をよくする方法があるのだろうか?
と簡単に方法論に飛びつくことはしないでほしい。

なぜなら、本の生命線は著者の熱量であり、編集者の熱量が土台になるからだ。営業は間違いなく編集者のやる気、本気に動かされる。その熱量が営業を通じて書店に伝わる。また、営業も、当たり外れはあるが、中身をきちんと読み、自分が売りたい!となれば尚更いい。

過去、数年前に発売され、動きが止まって誰も注目していないビジネス書があった。何か既刊で売り伸ばし可能な本はないかと探しまくる中、一冊の本に出会った。読んだらかなり面白く、これは間違いなくイケる!と判断した。

他の営業マンに確認したら、たしかに売れていないわけではなく、地道に増刷をかけていた過去があったそうだ。よくよく書店のデータを調べてみたら、予想通りの棚で展開していた。本当はその棚じゃないのに。中身を読めばわかる話だが、とくに書店は中身まで吟味して並べてはくれず、タイトルやコピーを見て判断する。

だからタイトルやコピーは大切なのだ。
どの棚に並べてほしいという製作側の意図を込めて考えないと、客層まで変わるのだから。

そして、その本を自分が思う棚に、改めて並べていただこうと書店に交渉し、実験的にそのジャンルに強い書店で並べたら、かなり売れた。
なんと発売から4年以上も経つ本が、仕掛け出したらあっという間に4度の連続増刷になったのだから。

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営業マンが本気になると想定外な売れ方をしたりする。

だから、初速をよくするための方法論に飛びつく前に、きちんとあなたの思いを編集者に伝えていく熱量と、可能ならばきちんと営業と接点をもち、直接伝える努力が大事になる。

また、書店での事例で、どこの書店でもたいして売れていないマニアックな本があった。ただ、ある店舗だけが突出して売れていた。果たしてどんな大きな展開をしているんだろう?と気になって取材したら、予想外に普通の展開であったのだ。ただ、書店員の直筆のPOPがあり、本当に面白くて、売りたいんですよ!と、目を爛々にして訴えてきたのだ。

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本というのは、間違いなくコンテンツ次第。コンテンツの質にある。これは誰も否定しないでしょう。ただ、そのコンテンツから伝わる熱量は測ることなどできないけど、読めば分かるものなのだ。その熱量に感銘を受けて営業や書店が売る気になるかどうかは、伝え方もあるし、見抜く目も必要。

これだけ膨大な新刊点数の中、編集が本気になり、営業も本気になり、書店も本気になるというチャンスは運もある。しかし、運とは結局人によって与えられ、もたらされると信じている。どれだけ人を巻き込めるか?この巻き込み力は著者に必要な資質である。

また、出版社選びは重要だ。

著者がいくら本気を出しても、本気で手掛け、売ってくれる出版社でなければならない。分かりやすく言えば、書店営業力があるかないかが判断のひとつになるでしょう。

細かいことを言うとキリがないですが、いまやSNSの力はすごいもので、著者もそれに強くなければならないことも付け加えておきます。

あと、蛇足かもしれませんが、担当編集に嫌われたり、面倒くさいと思われたら失敗する確率が極めて高くなります。

仮にあなたがどんな権威を持ち、有名であったとしても、編集はプロです。プロに預けたならプロに従うくらいの度量がないと、コンテンツはいいんだけど人として好きになれないと思われます。それはかなり致命傷です。編集は営業にもこの人、かなり面倒くさいんだよなって言いますから。

仕事全般に関わる問題でしょうけど、好かれる必要はないですが、嫌われたらお終いです。

あ、トップ画像の『続けない働き方』ですが、約2年前の本なんだけど、かなり熱量の高い著者が、仕事に行き詰まり、苦しむ方をなくしたいという思いで書き上げたもの。少し荒削りなところがあるけど推しの一冊です。



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