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胆汁酸塩の螺旋は未来の医療を変えられるか

脂肪の消化吸収を促進する役割を持つ胆汁酸塩という物質は体の中で非常に重要な役割を持ちます。

そして、この胆汁酸塩が持つ不思議な幾何学構造がもしかすると未来の医療を変えてくれるかもしれないという話があるようです。

今回は、胆汁酸塩にブロックコポリマーという高分子を 混ぜることで、形成される不思議ならせん構造とそれが織りなす新たなさらに変わった幾何学構造について紹介します。

それではとてもニッチな胆汁酸塩のらせんの世界を見て生きましょう

高分子のらせんの世界

高分子物質でらせんというと最も有名なものはDNAだと思います。適切に設計した2種類のDNAを混ぜると、DNAは互いににくっついて 二重らせんを形成します。(DNAの相補性)

Wikipediaより参照

これは結構有名な話だと思いますが、今回対象になる物質はDNAではなくて、胆汁酸塩の一種であるデオキシコール酸ナトリウムという物質です。いきなり難しそうな物質が出てきたな~と思われたそこのあなた、私も同じです。

とりあえずデオキシコール酸ナトリウムが何なのか、簡単に紹介しておきましょう。

デオキシコール酸ナトリウムの構造式(和光HPより引用)

この物質は脂質の吸収やコレステロールの代謝などに重要な役割を果たす陰イオン性界面活性剤の一種です。

そしてこの物質は生物実験によく利用され、肺炎球菌などの検出に使われるようです。細かい作用等は難しいですが、なにやら生物において重要な物質である様子がうかがえますね。

しかし、今回特に注目したいの生体に影響を及ぼす性質ではなく、高分子を加えることで作り上げる不思議ならせん構造です。

もともとデオキシコール酸ナトリウムは粒上の分子として存在しており、螺旋とは無関係の物質です。一方でとある高分子を一緒に混ぜることで、粒だったデオキシコール酸ナトリウムはらせん状に並んでいくようです。

オレンジの粒がデオキシコール酸ナトリウム、ひものような物質がブロックコポリマー
(参考文献より引用)

この現象だけでも個人的には驚きの性質に感じられますが、この物質は螺旋を作るだけでは終わりません。

らせんは束になりドーナッツ状にもなる

以前、高塩濃度下でDNA二重らせんは互いに近づくことができるようになり束になるというDNAのバンドル化について紹介しました。

今回の胆汁酸塩によるらせん構造もDNAと同様に互いに近づくことができるようになり束になります。この胆汁酸塩のバンドル化は非常にきれいに観察されており、結晶で言う2次元六方最密充填構造であることがわかります。

簡単に言えば同じサイズの筒を並べたときに最もぎっしり詰まっている状態になるってことですね。

参考文献より引用

もともと粒であった胆汁酸塩はブロックコポリマーの一種を添加することで、螺旋構造を形成し、その螺旋がさらに束となったわけです。

加えて、この胆汁酸塩のらせん構造はトロイド構造というドーナッツ状の形になることが発見されました。つまり束になったらせんが輪っかを作るイメージです。

参考文献より引用
上がトロイド、下がバンドル(参考文献より引用)


らせん構造は医療につながるか

今回作製された胆汁酸塩はバンドル(束)構造やトロイド(ドーナッツ)構造になることにより高い安定性を示したようです。具体的には室温で少なくとも数か月間溶液中で安定だったそうです。

冒頭で簡単に紹介したように胆汁酸塩は私たちの体に生理的な影響を与えます。

この胆汁酸塩にポリマーを加えることで、新しい構造を作るとともに安定性を上げることができるため、胆汁酸塩を体の所定の位置に送り届けるためのドラッグデリバリーシステムとして期待されます。

今回紹介した論文ではデオキシコール酸ナトリウムという胆汁酸塩についての研究でしたが、同じような特性が他の胆汁酸塩にもあれば、この新しい手法を持って新たな薬が誕生するかもしれませんね。

最後に

今回は、胆汁酸塩の一種であるデオキシコール酸ナトリウムのらせん構造について紹介しました。らせん構造はバンドル(束)やトロイド(ドーナッツ状)といった特殊な構造を作り出し、それにより胆汁酸塩の安定性が向上するとのことでした。

本編の論文には厳密にどのような化学組成のブロックコポリマーを利用するといった情報や濃度の条件など詳細が記載されています。

参考文献

Condensed Supramolecular Helices: The Twisted Sisters of DNA

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/anie.202113279


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