見出し画像

全ての光を吸収する黒い金

金といえば黄金色といわれる通り、茶色と黄色の間のメタリックカラーですよね。

しかし世の中には私たちの知っている黄金色ではない金も存在するんです。

以前、金をとっても小さなナノスケールの粒にすると赤く見えるというお話もしたと思いますが、今回は光を吸収する黒い金のお話です。

黒い金

そもそも色というのは可視光と呼ばれる目に見える光の内、 私たちの目に飛び込んできた光の波長によって決まります。

つまり、リンゴが赤いのは、リンゴという物質の表面が赤以外の光を吸収したりして、赤い光だけ反射し目に届いた結果、私たちには赤く見えるわけですね。

これは金が黄金色に見えるのも同様で、金は黄色っぽい光のみを反射するため、みんなが知っている金色になるわけです。

金塊(バルクの金)

それでは、黒はどんな色でしょうか。黒というのは全ての光を吸収した時に私たちが感知する色ですね。

そうです。今回開発された黒い金というのは、すべての可視光を吸収する金なんです。

どうして黒くなるのか

金が黒くなるということは、誰もが知っている普通の金ではないはずです。

これは、金を電解析出した時に生じる特殊な結晶形状によって実現しています。

多くの人が想像する金をはじめとした金属というのは金塊のような塊でしょうか。あのような塊はバルクという呼び方がされてとても一般的な状態です。想像しやすいように表面はつるつるしたような状態です。

一方、冒頭でも紹介した赤く見えるナノサイズの粒(ナノ粒子)は金塊のようなバルクとは異なります。

金ナノ粒子(wikipediaより引用)

そして今回登場する黒い金もまたバルクとは少し異なった状態の金なんです。

それが、電池やめっきなど電解析出の際に出てくるデンドライト構造です。難しい言葉が続いてしまいますが、もう少し簡単にかみ砕きましょう。

金属をはじめとする結晶ができるのにはいろいろな理由があるわけですが、その中で電気の力で結晶が生み出されることがあるんです。

これは電池やめっきといった産業ではなじみのある現象なんですが、その中でも嫌われているのが、デンドライトと呼ばれる樹枝状結晶です。

樹木の化石のようだが、実は結晶(デンドライト)

デンドライトに関してはこちらから

このデンドライトはある意味きれいな樹枝のような形を作り上げるんですが、つるつるっとしたきれいなめっきを作りたかったり、表面に制御して結晶を作りたいときには、ランダムな樹枝状構造は嫌われます。

そんな嫌われもののデンドライトですが、これが今回の黒い金には重要なんです。つまり、電池分野では忌避されるデンドライト(樹枝状結晶)を逆に利用することで、特殊な黒い金を作り上げたってわけですね。

参考文献より引用(c,hは確かに黒い!)

それではどうして樹枝状になると黒くなるのでしょうか?

ナノサイズの金はそのサイズにより赤色だったり青色だったりします。これは科学の領域ではよく知られたことなんですが、サイズによって吸収できる色が変わるんです。

どうやら、このナノスケールの樹枝はとても複雑にランダムなサイズの構造がたくさんあるため、いろんなところでそのサイズに応じた光が効率よく吸収されるようです。正確には吸収というよりはプラズモンと呼ばれる状態で捕捉されているといった方が良いかもしれません。

まあ、難しいことは置いておいて、要はランダムな樹枝状構造がいろんな色の光を吸収した結果、私たちの目にはほとんど光が届かず黒くなって見えるということですね。

黒い金は何に使える?

黒いことで最も重要なポイントは何度も出てきましたが光を吸収するというところです。例えば、ナノ構造で光を捕捉する技術は、光を当てただけで温度が上がるという現象が起きます。(プラズモニックホットスポット)

いやいや日差しにあたったらあったかくなるよね、と思われるかもしれませんが、ナノ構造を使った温度上昇はけた違いなんです。つまりわずかな光で一気に温度を上げることができるという面白い特性を持っています。

参考文献より引用

例えば熱はそのままエネルギーになるので、自然の光からエネルギーを効率的に集める素材として期待できます。

また、光を効率よく集めるだけでなく、微弱な光を強力にすることもできるんです。むしろこっちの方がよくある使い方ともいえるでしょう。

微弱な光を強くして何になるの?ってなりますよね。

これは物質が発する微弱な光を強くして検出することで、その物質が何なのか調べることができるんです。例えば有害物質がほんの少しだけあった時、普通のセンサーでは検出することができませんが、微弱な光を強力にできれば発見しやすくなるでしょう。

専門的な話は避けますが、もう少し真面目な表現をしておくと表面増強ラマン散乱という方法に期待できるということです。

高効率とされている金ナノアレイ(左)よりも黒い金(右)の方が
ラマンスペクトルが上昇している。それだけ高い検出力が期待できる。


最後に

今回は摩訶不思議な黒い色の金について紹介しました。

科学の世界を深掘ってみると、現実とは思えないような面白い現象や物質がたくさんあります。

ちなみに私は大学を離れてから論文を自由に読めなくなってしまったので、誰でも読めるオープンアクセスの論文を紹介しています。是非、興味がある方は自分の目で確かめてもらった方が良いと思います。

私のnoteでは一個人の理解力の及ぶ範囲で解釈し、なおかつかなり簡単な表現を心掛けていますので

参考資料

Overcurrent Electrodeposition of Fractal Plasmonic Black Gold with Broad-Band Absorption Properties for Excitation-Immune SERS

関係あるかも


この記事が参加している募集

最近の学び

物理がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?