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ナノ粒子の不思議な性質

ナノというと、ナノテクとかで有名ですが、非常に小さいという意味です。

ナノの世界では、私たちの想像を超えた不思議な現象が起こっています。

今回はそんなナノの世界の代表でもあるナノ粒子の持つ不思議な性質を紹介していきます。


ナノ粒子とは

一般には、数ナノメートルから数百ナノメートルぐらいの大きさの粒子をナノ粒子と呼びます。厳密な大きさの決まりはないので、だいたいの目安ですね。

このナノ粒子のサイズ感は少し想像しにくいですが、地球を1mとすると、ナノ粒子はビー玉(1cm)ぐらいの大きさになります。

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あまりに小さいので、光学顕微鏡では見るのがほぼ無理で、一般的には電子顕微鏡を用いて観察します。

このスケールの粒子をナノ粒子というので、金属ナノ粒子や脂質(リポソーム)、一部の球状タンパク質、フラーレンも広い意味ではナノ粒子です。

今回、紹介するのは主に無機物(金属や半導体、セラミックス)のナノ粒子です。
これらの物質は基本的に結晶であるほうが安定であるため、ナノ結晶とも呼ばれたりします。

いろいろな形のナノ粒子の紹介はこちら▼


ナノ粒子の作り方

そもそも、そんなに小さな粒子をどうやって作るのでしょうか
これは大きく分けて2つあります。

大きな塊を切ったり削ったりして、小さくしていく方法(トップダウン)
原子から大きくしていく方法(ボトムアップ)

ここではナノ粒子の作り方のうち有名なものをいくつか紹介します。


粉砕法
その名の通り、ただひたすらに粉砕する方法です。塊を機械的に粉砕するボールミルと呼ばれる機械を使って、粉々に砕いていきます。

ただしこの方法は大きさをそろえてナノ粒子を作製するのが難しく収量もよくないので最近ではあまり主流な方法ではないと思います(主観)


還元法
簡単に言うと、水溶液中に溶けた金属を析出させることでナノ粒子を作製します。

もう少し正しく言うと、溶液中に溶けた状態の金属イオンの原料を還元することでナノ粒子を得る方法です。低いエネルギーで安全・簡便にできるため、おそらく最もよく使われる方法だと思います。


レーザーアブレーション
簡単に言うと、塊状の原料に強力なレーザーを当てて、粉々に粉砕する方法です。こちらは還元法で作れないナノ粒子も作ることができ、現在も研究が進められています。

それほど主流ではないようですが、時々この方法で作っている会社があります。

厳密には、液中でバルク(塊)状の試料にレーザーを当てて高温・高圧のプラズマ状態になったのち急激に冷やされて小さなナノ粒子になるようです。


私も研究で還元法を使って、金ナノ粒子を作製した経験がありますが、想像よりも大きさの違う粒子ができてしまいます。

売っているナノ粒子は10nmとか50nmとか大きさが決まっていますが、実際につくってみると大きさをそろえてナノ粒子を調整するというのがいかに難しいかわかりますね。


ナノ粒子の性質

多くの物質はナノスケールになるとその性質が変わることが知られています。
材料系でナノテクといわれると、多くはナノスケールに関する特殊な性質を使ったものづくりになります。

ここでは、ナノ粒子に顕れる少し変わった性質について紹介していきます。


融点が低い
一般的な金属の融点は数千度になりますが、ナノ粒子になると比較的低い温度で融けます。

ナノ粒子 融点


寺西利治、鳥本司、山田真実、ナノコロイド、第1章(近代科学社、2014年)より引用

図を見ると、金ナノ粒子は1nmぐらいになると、約400℃(700K)で融けます。一般的な金の融点を調べると1000℃ぐらいなので、ずいぶん低い温度で融けることがわかります。


活性が高い
ナノ粒子はその大きさ(体積)に対して、表面積が大きくなります。すると表面の活性が高くなり、ナノ粒子同士が衝突すると合体します。

これは融合したほうが表面エネルギーが低くなり、物質として安定なためです。

例えば、金属の塊を持ってきて衝突させても1つにはなりませんが、ナノの世界では起こります。

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J. M. Yuk, M. Jeong, S. Y. Kim, H. K. Seo, J. Kimab and J. Y. Lee, In situ atomic imaging of coalescence of Au nanoparticles on graphene: rotation and grain boundary migration, Chem. Commun, 49 (2013) 11479-11481.より引用

2つのナノ粒子が原子の向きをそろえて融合していく様子がわかります。ナノ粒子が融合するのを利用した結晶づくりなんかもあります。

また表面が多いということは、触媒作用にも効いてきます。
触媒の高機能化のために、ナノスケールに微細にした金や白金が使われています。


電気特性
物質の電気的な性質は電子の動きに影響を受けます。
私たちの身近に存在する金属や半導体には、その物質に特有の電子の流れ方があります。
(詳しくはバンド構造、バンドギャップで検索)

ところが、ナノ粒子になると電子が流れなくなり、粒子の位置に電子の閉じ込められます。半導体ナノ粒子で、電子の閉じ込めが起こるときれいな色を発することが知られています。
これは新しいディスプレイなどに応用されています。

これは電気特性のみならず光学材料にも期待されています。

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https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2002/pr20021217_3/pr20021217_3.htmlより引用

このようにサイズが小さくなることで電子特性が変わる現象を久保効果といいます。日本人研究者の名前が使われる数少ない現象の1つですね。


光学的性質
また、金属ナノ粒子が小さくなると、粒子内の電子が集団となって震える現象により、光学特性が変わります。これを表面プラズモンと呼びます。

簡単に紹介すると、ナノスケールの効果により、キラキラと輝く黄色の金がナノ粒子になると赤くなったり、銀ナノ粒子が黄色になったりします。


最後に

専門ど真ん中なのになぜかこのテーマを書いていませんでした。

ナノスケールになるといろいろな常識が変わります。
これはとても面白く、今後もナノの世界で新たな現象が次々見つかっていくことでしょう。


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