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結晶の形をナノスケールで制御する


概要

今回紹介するのは、愚者の黄金とも呼ばれるパイライトの形を制御した結晶成長についての論文です。

パイライトといえば、立方体の金色に光る鉱物なのに金に比べると非常に安価に手に入る鉱物です。
その特徴的な色と形、そして安価ということもあり鉱物好きは結構持っている人も多いのではないでしょうか

このパイライトは産業的には電池の電極材料として期待されているそうです。しかしながら、実際にパイライトを使うためにはその結晶形状を精密に制御しなくてはならないようです。

今回はちょっと変わった手法を調査して、ナノスケールで結晶形状を制御してパイライト結晶を成長させています。

今回の論文▼
Symmetry-Defying Iron Pyrite (FeS2) Nanocrystals through Oriented Attachment,
Maogang Gong, Alec Kirkeminde & Shenqiang Ren, SCIENTIFIC REPORTS, 3 : 2092


オストワルド熟成とオリエンテッドアタッチメント(ORとOA)

ここでは基本的な結晶成長過程である、オストワルド熟成とオリエンテッドアタッチメントについて簡単に紹介します。

まず一般的な結晶成長ではオストワルト熟成(ライプニング)と呼ばれる現象が起こります。これは溶液中に大きな結晶と小さな結晶が存在しているとき、小さな結晶はより小さくなり、大きな結晶はより大きくなる現象です。

一方で、結晶成長でもあまり聞きなれないオリエンテッドアタッチメントとはその名の通り結晶の向きを合わせて接触し一体化する成長です。これは非常に小さなナノ粒子で見られる現象です。

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L. Bahrig et al., CrystEngComm, 2014, 16, 9408–9424より引用

オストワルド熟成では上図の丸で表されている原子が一つずつくっついて成長していきますが、OA成長では原子が集まったナノ粒子(直方体の絵)が組み合わさって1つの大きな結晶ができます。


何がわかったのか?

この研究では、パイライトのナノ粒子を作製し、上述のオリエンテッドアタッチメント(OA)成長によって少し大きな結晶を作製しています。最初のナノ粒子を作製するときの温度の違いにより、若干形の異なるナノ粒子が誕生します。

この形の違いが、最終的なパイライトの結晶形状に影響を及ぼします。
低温で調整したナノ粒子は{100}面が多く、これが互いに接触して合体すると1つの大きな立方体状の結晶になります。
反対に高温で調整したナノ粒子は{110}面が多く、これが互いに接触して合体すると1枚のシート状の結晶になります。

{100}面とか{110}面というのは結晶面のことを意味しています。

この論文では、最初のナノ粒子の形を制御することで、最終的な結晶の形状を決定できる可能性を示しました。
この研究が進めば、欲しい形の結晶をナノスケールで作製でき、電極材料のみならず様々な分野に応用されるでしょう。


感想

OA成長は現在でも最先端の研究がされている不思議な現象です。
さらに、このOA成長はコロイド粒子が規則的に並んだコロイド結晶でも起こることが示されており、結晶成長全体においてみられる現象かもしれません。

原子やコロイドが規則正しく並びたいのはわかりますが、実際に粒子同士がくっつくところを動画で見るとなにか不思議な力が働いているようにも感じられます。

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