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電子の集団振動プラズモンとは~ステンドグラスの赤色の理由~

プラズモンというとポケモンとかデジモンに出てきそうな名前ですが、重要な科学用語の1つです。

プラズモン(英語: plasmon)とは、金属中の自由電子による集団的な振動(プラズマ振動)の量子である。 by Wikipedia

といってもわかりにくいと思うので、もう少し簡単に説明したいと思います。


プラズモンとは

金属中には自由電子と呼ばれる自由に動き回れる電子が存在します。この自由に動ける電子があるから電気が流れやすくなります。
ここに光のような電磁場が当たると、電場の振動が生じます。電場は自由な電子に影響を与えて、反対方向に動かします。

金属中で電磁波の振動に伴って自由電子は図のように振動します。この電磁波の影響によって、電子(図中の黄色の粒)が一緒そろってに上下に振動している現象をプラズモンといいます。

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さらに面白いのは、プラズモンは電子の集団振動ですが、あたかも1つの粒子のように扱うことができます。

このような実在する粒子ではないのに、粒子のようにふるまう現象を準粒子といいます。有名な例では電子が不足していことを表す正孔や、格子振動を表すフォノンなどが準粒子の一種になります。


プラズモンの例

おそらく私たちの普段の生活にプラズモンはあまり関係がないように感じます。
しかし、ステンドグラスのきれいな色を見たことがある人は多いのではないでしょうか。実物を見たことがなくても写真を見たことがある人は多いはずです。

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このステンドグラスに使われる赤色は実は金によるものです。
金といっても黄金に輝く金とは少し異なり、非常に小さな金の粒子(金コロイド)です。しかし素材は全く同じ金(Au)です。

コロイドとは▼

金塊(金箔)のような大きな塊ではメタリックな黄色ですが、光学顕微鏡でも見えないぐらい小さな粒子になると、プラズモンの効果が表れます。

その結果、微小な金粒子は緑の光を吸収するため、赤く見えます。またプラズモンの効果は粒子のサイズによって変わるので、より小さくなると赤から黄色へ、少し大きくなると赤から青に変化します。


何に使えるのか?

色落ちしない安全な発色材料
このプラズモンが何に使えるかというと、染料や顔料とは異なる原理で発色する材料に期待されています。一般的に染料は色落ちしたり(光退色)、顔料は毒性があったりします。しかし、無害かつ退色しないプラズモン材料を用いれば、この2つの課題を1度にクリアすることができます。

これまでは微細構造を正確に作製するのが困難でしたが、最近の微細加工技術の進歩が目覚ましく、様々な色を選択的に作り出す発色材料が作られています。

微量分子の検出
また、1対の金属粒子間に生じる表面プラズモン共鳴を使うと、その粒子間に局在する光を桁違いに増強することができます。
この粒子間に分子が入り込むと、ある分子から発せられるとても微弱な光を増強し、検出することができます。これまで簡単には検出できなかった信号(散乱光)を得ることで分子の情報を知ることができます(表面増強ラマン散乱, SERS)。

プラズモン共鳴を使えば、ウイルスやタンパク質の高感度な検出が可能になるといわれており、現在の流行り病の検出なども原理的には実現できるはずです。


光の局在化
多くの人が小さい頃に虫眼鏡で光を絞ったことはあるかと思いますが、理論的にこの絞れるサイズには限界があります。
一般に目に見える光は波長よりもずっと小さな数ナノメートルに絞ることはできません。ここで金属ナノ粒子に局在化する光を使えば、数ナノメートルの領域に光を集めることができます。

この技術を使えば、光を用いてもっと小さなものが繊細に見える光学顕微鏡ができるかもしれません。


最後に

プラズモンに関しては、非常に奥が深く、私自身もその一端をかじっている程度の知識しかありません。
このプラズモンに関する分野はプラズモニクスと呼ばれ光学技術を発展させる可能性を持っています。最近あまり流行ってる感じのないフォトニクスと組み合わせて利用されようとしています。

さらに、その応用先は工学のみならず、バイオや医療といった分野にも期待されているので、今後の研究も楽しみですね。

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