
【天然の宝石?】マガモから学ぶカラフルな糸づくり
あまり名前を気にしたことはないかもしれませんが、大きな公園の池などで見かけるマガモをご存じでしょうか?
一度、写真を見ればああ、あの鳥ね!となるかもしれませんが、今回はこのマガモから着想を得たカラフルな新材料についての研究を紹介します。
マガモのきれいな緑の体毛
マガモの頭を見ると鮮やかな緑色をしているのが良くわかると思います。このメタリックカラーの正体はこれまで何度か紹介している構造色と呼ばれるものです。

構造色とは、目には見えないぐらい微細な構造によって、特定の波長の光が反射されることで見える色のとこで、モルフォ蝶の羽やタマムシの殻やカメレオンの皮膚などがそれに当てはまります。
今回紹介する研究では、このマガモの体毛の構造を調べて、人工的に似た構造を作ることで、色鮮やかな材料を新しく作ってやろうというものです。
マガモの体毛を良く観察すると、非常に小さなロッド状の組織が最密に集まっている様子がわかりました。ちょっと見にくいですが、下の画像のように小さい円筒上のものが敷き詰められているように見えますね。

この最密に集まっている状態、正確に言えば規則正しく並んでいる状態というのは特定の波長(色)の光の反射に顕著に作用し、構造色を示す原因となります。
このような光を操る構造をフォトニック結晶と呼んだりします。フォトニック結晶の有名な例はオパールと呼ばれる宝石が挙げられますが、このマガモの毛というのは生き物が生み出す天然のフォトニック結晶だったということです。
人工的にマガモの毛を作る
このとても鮮やかに緑色を示す体毛を人工的に作るのがこの研究の主な目的です。加えて、発見した微細な構造を制御して、緑以外の色の糸を作ることも狙いの1つなんですね。
研究グループは次の3ステップでマガモの毛を高分子を用いて模倣することに成功しました。

まず最初にPVDFとPC(ポリカーボネート)という2種類の高分子を用いて層状の細いファイバーを作ります。PVDFがPCを包み込んだ芯と被膜があるイメージですね。(STEP1)
次に作ったファイバー状の高分子をたくさん束ねます。(STEP2)
最後に、その束を引き延ばすことで細いひとまとまりの紐を作り上げるわけですね。これにより微細な糸が規則正しく並んだいわゆるフォトニック結晶というものが出来上がります。(STEP3)
ここで重要なのは、最初に作ったファイバーが細くなり、規則正しく並んでいることです。光の波長スケール(数百ナノメートル)で規則正しく配列すると光の干渉が起きます。
これにより、紐自体に色がついているわけではないのに、キラキラと輝く構造色が生まれます。構造色はその名の通り微細な構造によって発色するので、サイズを制御できれば好きな色を作ることができるわけです。
研究グループは、このファイバーのサイズを変えることで、マガモの緑色だけでなく、様々な色の紐を作り上げることに成功しました。これは人間の叡智があってなせる業ですね。

ちなみに、この人工的に作られたマガモ模倣した紐は水をはじく性質(疎水性)を持っていたようです。これは発色の原因にもなっている微細な構造と、ファイバーの周りを覆っているフッ素化合物(PVDF)の効果によるものと考えられています。
今回作られたカラフルな高分子の紐は色素や顔料を使わない新しい繊維として重宝されるかもしれません。
最後に
今回はマガモというどこかで見たことあるような鳥に秘められた不思議な構造を人工的に作り上げる研究について紹介しました。
生物が持つ能力は人間が想像する以上に魅力的なものです。このような自然の面白さを科学して科学が発展したら楽しいですね。
参考文献
Biomimicry of multifunctional nanostructures in the neck feathers of mallard (Anas platyrhynchos L.) drakes