自然を真似して世界を変える:カメレオンの色が変わる理由
はじめに
カメレオンといえば、皮膚の色を変えてカモフラージュする動物の代表格ですね。ここでは、カメレオンの色が変わる理由をなるべくわかりやすく解説していきたいと思います。
動物の話となると生物学かなと思うかもしれませんが、私は物理しかわかりません...そうカメレオンのカモフラージュの原理は物理で説明できるのです。
この”色が変わる理由”はいろいろあるのかもしれませんが、
今回紹介するのは、主に次の論文内容を参考にしています。
Photonic crystals cause active colour change in chameleons
この論文で紹介されているパンサーカメレオンの皮膚には微細な粒々があり、これが最も重要なポイントになります。
これはカメレオンの皮膚の拡大写真です。
J. Teyssier et al., Photonic crystals cause active colour change in chameleons, Nat. Commun. 6:6368 (2015). より引用
細かいことを全部無視すると、要はこの粒々の微細構造が変わることで、カメレオンは色を変えることができるのです。
とはいえ、それでは解説にならないので、
ここでは、どうして微細構造が色を変えることができるのかという物理的な話をしてきたいと思います。
そこで、はじめに今回のテーマでもあるコロイド結晶の説明をする必要があります。
コロイド結晶とは?
コロイド粒子と呼ばれる目に見えないぐらいのサイズの粒子が規則正しく並んだものをコロイド結晶と呼びます。
粒子が規則的に並ぶという定義なので結晶とは言うものの、必ずしも原子が規則正しく並んでいるわけではありません。
カメレオンの例では、皮膚の表面に粒々が規則的に並んでいるので、広義にはコロイド結晶に含まれると思います。
もっと一般的なコロイド結晶の例を挙げると、オパールという鉱物(宝石)があります。
このオパールとは、目には見えない小さなガラス玉が規則的に並んだ構造を持っており、このガラス玉の大きさ(正確には間隔)が光の波長と同じぐらいであるため、きれいな色を示します。
可視光の回折
どうしてガラス玉が光の波長ぐらいの間隔で並んでいると、きれいな色を示すのでしょうか
これには目に見える光(可視光)の回折という現象が深くかかわってきます。
ガラス玉が規則正しく並んだところに、光が当たると波の強めあい・弱めあい(干渉/回折)が起こり、特定の方向に特定の波長(色)の光が強く届きます。
詳細は高校物理で習うブラッグの式で説明できます。
単純な式ですが、光の回折を示した最重要な概念です。
式の詳細は無視してもらっても大丈夫ですが、
要はガラス玉などの粒子の間隔が変わると、特定の波長(色)の見える方向が変わるということを知ってもらえれば大丈夫です。
このような理由から、オパールは方向によって色が変わって見えるわけです。
さて、ここで本題のカメレオンに戻りたいと思います。
実はカメレオンの皮膚の粒々もオパール同様に光の波長と同じぐらいの間隔で並んでおり、そのおかげで可視光の回折が生じます。
カモフラージュの原理
カメレオンの皮膚の上で粒々が規則正しく並んでいても、オパール同様きれいな虹色に輝くだけで、色を変えてカモフラージュすることはできません。
しかしカメレオンは意識して、粒々の間隔を変えることができるのです。
J. Teyssier et al., Photonic crystals cause active colour change in chameleons, Nat. Commun. 6:6368 (2015). より引用
皮膚の拡大写真を見ると、リラックスした状態(左)に比べて、興奮する(右)と粒子の間隔が広がっている様子がわかります。
この変化を自分の意志で起こせるため、自由に色を変えてカモフラージュすることができるわけです。
最新の研究
日本ではあまり一般的ではないですが、世界的には生体模倣(バイオミメティクス)という技術が大変注目されています。
生体模倣とは、人工的に生物の持つ構造を真似して新しい機能を持つ技術を作ることです。
当然、カメレオンの皮膚のように色を自在に変える人工コロイド結晶の研究も進められています。人工的に制御できるカモフラージュ素材を作ることができれば、新たな迷彩技術が実現するでしょう。
私もこの界隈の研究をしていますが、光を操る材料技術は今後も面白くなってきそうです。