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ウイルスを使ってものづくり

今回紹介するのはウイルスを用いて”ものづくり”をしてやろうという話です。

先週、ウイルスが結晶になるという話を紹介しましたが、最近ではウイルスを使って新素材を作って私たちの生活に役立てようという試みがあります。

今回は、そんなウイルスを用いた”ものづくり”を紹介したいと思います。


殻状のウイルス

今回使うのはササゲクロロティックモットルウイルス(CCMV)という何とも噛みそうな名前のウイルスです。以下、CCMVとします

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参考文献1より引用

ちょっと気持ち悪い感じがしますね~

ウイルスのこと嫌いになる気持ちもわかります、が科学者はこいつを使って役立つものを作ろうというわけです。

どうやって?と思いますよね

この殻状のウイルスCCMVはよく見ると幾何学的に対称的な形を持っており、決まった位置に吸着パッチを持っています。

つまり、このウイルスは決まった位置にくっつく吸着パッチを上手に使うことで、ウイルスを規則正しく整列させることができるようになります。

そうです。このウイルスは結晶になります。


ウイルスでものづくり

ウイルスの結晶は先週紹介しましたが、この結晶を新しい新素材として使うわけです。

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参考文献2より引用

上の図はアビジンといタンパク質にウイルスを混ぜることで、規則正しく並んだ結晶を作っている様子です。

このアビジン(緑)はビオチンという物質をくっつく性質を持っています。一方、ビオチンは⊗で示された位置に機能を示す酵素やナノ粒子をくっつけることができます。

とにかく、ウイルスを使って結晶を作ったら、結晶の中に⊗マークの物質を内包するような素材が出来上がります。

それが何の役に立つの?って思いますよね。私もそう思いました。

何の役に立つの?

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⊗マークの位置に酵素を付けて、ウイルス(紫)、アビジン(緑)と混ぜるとほとんどの酵素が結晶内に取り込まれます。さらに、結晶内にきちんと酵素が入っていると、その性能が向上するようです

別にウイルス使ってきれいに並べなくても、いいんじゃないの?って思いますよね。実は、それについても調べられており、規則的に並んでいないと洗ったときにその性能(Activity)が落ちてしまうそうです。

下の図を見ると分かるようにウイルス(CCMV:紫)によってアビジン(緑)とビオチン+酵素(オレンジ)が規則正しく並んでいるもの(右の図)が安定性が高いことがわかります。

結晶にすると4回洗っても性能が変わらないようですね。

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参考文献2より引用

ただ、私自身これに近い研究をやっていると別にウイルスじゃなくても、結晶にできればよくないか?という反論が聞こえてきそうです。確かにウイルスを使わなくても似たようなものを作ることができます。

しかし、このウイルスを使ってナノ粒子を並べるというのは始まって、それほど経っていない研究分野なので、今後もっと面白いものがつくれるようになるかもしれません。

ちなみに、タンパク質はかなり研究されていて、人工的に一部改変することなどもできるそうです。つまり、吸着パッチの位置や吸着力を人間の手で変えることができるようになるかもしれないということですね。

模型の手をくっつけたり離したりするのは簡単ですが、ナノスケールとなると話は別です。とっても大掛かりな装置を使わなければできないようなことが、ウイルスを使えばいとも簡単に可能になるかもしれません。

最後に

ウイルスというよりは巨大なタンパク質を用いたものづくりという感覚が強いですが、このような生体材料を用いたナノテクは面白いですよね。

ウイルスは人の命を奪うこともあるので、恐ろしいイメージがありますが、正しく付き合えばいろんな意味で私たちの生活を豊かにしてくれるかもしれません。

数年前の学会では、AIブームの中、世界のトップ研究者たちは、「ウイルス賢くない?」、「タンパク質サイコー」みたいな感じで発表しているの聞きました。

もちろん、いろんな技術が組み合わされると面白くなりますが、流行りばかりにとらわれず、いろんな視点を持った方がもっと楽しくなりますね!


参考文献

[1] Mauri A. Kostiainen, Panu Hiekkataipale, Ari Laiho, Vincent Lemieux, Jani Seitsonen, Janne Ruokolainen and Pierpaolo Ceci, Electrostatic assembly of binary nanoparticle superlattices using protein cages, NATURE NANOTECHNOLOGY | VOL 8 | JANUARY 2013.
[2] Ville Liljestrom, Joona Mikkila & Mauri A. Kostiainen, Self-assembly and modular functionalization of three-dimensional crystals from oppositely charged proteins, NATURE COMMUNICATIONS | 5:4445 | DOI: 10.1038/ncomms5445



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