自然を真似して世界を変える:昆虫編
生体模倣シリーズ第3弾です。
私たちの身の回りには多くの昆虫がいますが、彼らの特殊な構造や能力は人間の想像を超えてきます。
今回はそんな昆虫の生体模倣でまとめてみました。
生体模倣の記事はこちらから▼
アブラムシの甘露
アブラムシが作る甘い蜜を蟻が食べに来るというのは有名な話ですが、この一部のアブラムシが作る蜜はちょっと不思議な特徴を持っています。
この蜜は液体であるにもかかわらず水滴のように互いにくっつきません。これは、液状の蜜の周りにワックスの小さな粉がまとわりついており、互いにくっつくことがありません。これをリキッドマーブルといいます。
この周りのワックスがなくなると中から液体が出てきます。この技術を応用して、力を加えると粘着力が出る接着剤などが開発されています。
高熱の砂漠に対応した蟻
サハラ砂漠に住む銀色の体毛を持つサハラギンアリは過酷な灼熱環境に適応した蟻です。
その特殊な銀色の体毛は三角形の断面を持っており、その構造により太陽光(主に赤外線)を効率的に反射することができます。
さらに自身からの輻射熱を効率的に放射することができる効果も持ち合わせています。
また高温の砂からの輻射熱を伝えないようにするため、この体毛は体の上部と側面にしか生えていないそうです。
N. N. Shi et al., Keeping cool: Enhanced optical reflection and radiative heat dissipation in Saharan silver ants, Science 349 (2015) 298-301.
ちなみに、酷暑の中で生活するサハラギンアリは外での活動時間を減らすためか超高速で移動できるようです。
将来、高温の現場で働く人たちは銀色毛むくじゃらの服を着ているかもしれませんね
シロアリの塚の自然空調システム
シロアリといえば家を食べる害虫として知られていますが、アフリカに住むシロアリが作る蟻塚は人間には成しえない天然の空調システムを持っているといわれています。
高温になる日中と0度近くまで温度が下がる夜間の寒暖差を利用することで、蟻塚の中に空気が循環するようにできています。蟻塚内部で発生した二酸化炭素が酸素と交換する様子はまるで、生き物の肺のようだといわれています。
シロアリの蟻塚(本当に巨大な建造物ですね)
最近では、シロアリの蟻塚を模倣した建造物を作り、空調に使うエネルギーを削減する研究が進められています。
つぶれても壊れないゴキブリ模倣ロボット
多くの人が嫌悪するゴキブリは叩かれてもなかなか死なない耐久性を持っています。クリティカルヒットさせないと確実に始末できないですよね。
このつぶれても死なない(壊れない)というところに着想を得たゴキブリロボットが作られています。
https://www.youtube.com/watch?v=UtjlbI_dIYI
動画を見るとわかりますが、このロボットはゴキブリを模った形をしているわけではないものの、非常に高い耐久性を持ち動き方はゴキブリそっくりです。
正直、気味悪いですが、このような軽量かつ壊れないロボットというのは被災地のみならず、様々な領域で使えそうですね。
フンコロガシのナビゲーションシステム
丸まった糞を転がして運ぶ変な昆虫ぐらいのイメージでしたが、実はフンコロガシには高度なナビゲーションシステムが内蔵されているようです。
フンコロガシはをまっすぐ転がすために太陽や月、時には天の川を使って位置を把握しています。しかも、途中で空が見えなくなっても、はじめに記憶した夜空の画像を用いてまっすぐ進むことができるそうです。
人工衛星もコンピューターも使わないフンコロガシの高度なナビゲーション技術は、私たち人間の生活にも役に立ちそうですね。
蛍の光
ホタルといえば夏の夜に光輝くきれいな風物詩というイメージですが、この発光現象はかなり奥が深いようです。
そもそも、発光の理由もかなり複雑です。X線を用いた大掛かりな装置を用いて、ルシフェラーゼと呼ばれる発光酵素の立体構造の変化によって色の変化や発光機構などが明らかになりました。このような発光酵素はバイオセンサーの試薬などに使われるそうです。
またホタルの腹にはギザギザ状の小さなウロコがついており、発光する際により明るく見せることができるそうです。このギザギザ構造を模倣してLEDの表面に応用することで、発光効率が上昇することがわかりました。
さらに、ホタルは点滅によりコミュニケーションをとっており、時にシンクロすることが知られています。この現象は光ネットワークの効率化などに使われるようです。
カイコガのフェロモン検知
蚕(カイコ)といえば、絹を作り出す昆虫として有名ですが、成長して蛾になっても違った点で人々の役に立ちそうです。
カイコガはその触覚でフェロモンを正確に嗅ぎ付けて、正確にフェロモンの発信源にたどり着くことができます。この特徴を模倣して、カイコガを操縦席に乗せたロボットを用意すると、正確にフェロモン発信源までたどり着いたようです。さらには、カイコガの脳と触覚だけをロボットに装着したものも作られています。
技術としてはSFみたいですごいんですが、脳をロボットに直接接続するあたりはちょっとグロい感じもしますね…
最後に
すべての動物の機能を人間が存分に使えるようになったら環境問題やエネルギーの課題の多くは解決しそうですね。
当然、そんなことはできないわけですが、これからも人類が存続するためには1つ1つ新しい技術を獲得していくしか手はないと思います。
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