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モノが語る説得力―『城から見た信長』

「織田信長」という人物について知りたいとき、まず見るべきは太田牛一著『信長公記』です。信長の傍らで、彼の事績をつぶさに見て書かれた書物ですから、信用できる度合いでいえば相当に高いでしょう。

ただし、たとえば太田自身の手によって清書されたときに、話が盛られたり、時代の権力者に忖度した記述になったりという部分が『信長公記』にも確かにあります。また、幾つも写本の代を重ねるうちに写し間違いや、あるいは、意図的な書き直しがある可能性も否定できません。

つまり、ことばによって書かれたものであるかぎりは、一次史料であろうとほんのりした改変や物語化からは逃れることはできないわけです。それは、同時代史料である『言継卿記』や『兼見卿記』などにも同じことが言えます。

もちろん、だからと言って、それらの歴史的な価値が貶められるわけでは決してありません。やはり、信長の生きた時代の言葉で信長について書かれたという事実のもたらす威力は果てしなく強いです。

でも、この時代にはもう一つ強みがあります。それは「城」などを含めた、信長が生きていた時代に在った「モノ」たちがかなり多く残っていることです。

確かに、それらは遺構という形で土の下に埋まっていたり、あるいはすでに壊されてしまっていたりするものもあります。ですが、言葉で残る文献たちに、現存する「モノ」たちの力を加えたら。その説得力は弥増すことは容易に予想できます。

今回ご紹介する本は、そういった文献史学、考古学、歴史地理学など歴史に関わる学問を横断するカタチで「織田信長」を語ります。

そこから見えてくる姿は、きっと私たちの「織田信長」という人物に対して持つイメージに明らかな輪郭を与え、また、新たな見方を与えてくれると思います。


■『城から見た信長』について

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