ありがとうの強要ってキモイ │端役の徒然 7
ありがとう
その言葉って、強要されて言うものではないですよね?
言われると嬉しいのは確かだけれど。
そしてその〈ありがとう〉を言われたからってへりくだって
「いえいえ」
とかって言う必要も無いと思う。
「ちょっと、これってまだ在庫ある?」
開店直後のこの時間、開店待ちをしていた客の対応と入荷してきた商品を陳列するのに大忙し。
話しかけてこないでほしい。店内はそう広くないので、自分で探してほしい。
少しイライラしながら仕事をしていると、タメ口で話しかけられた。イライラしている時にタメ口はもっとイライラしてくる。誰なんお前って思う。
制服を着た店員は下に見ていいと思ってんのかな。ダメに決まってるだろ。
イライラを心のなかにとどめながら、笑顔の仮面を貼り付けて
「確認いたします」
そう言い、その客が持っているマスクの在庫を探す。
まだ某流行り病が猛威を振るっていたこの頃、マスクや除菌関連を馬鹿みたいに大量に買っていく客が多かった。
初期は個数制限をかけていたものの、現在は在庫が確保できているので特に制限はない。しかしだ、やっぱり大量に買っていく様子を見ると「キモ」って思ってしまう。
しかもそういった輩は売り場をぐしゃぐしゃにしていく。まぁ、このオバサンは荒らさないだけマシか。
棚や引き出しを開けて見ていると、オバサンが覗き込んでくる。あー、きも。
他人の家の冷蔵庫の中を勝手に見るタイプタイプか?
「申し訳ありませんが、在庫を切らしています」
そう言うと、
「次はいつ入ってくるの」
あーーーーめんどくさ。入荷する日が分かっても確定ではないので伝えないルールになっている。その日届いた物の中にある場合のみ、教えられるので聞いても無駄だ。
「確認してまいります」
バックヤードに戻り、一応確認すると欠品だった。
「お客さま申し訳ありません。欠品になっているため、入荷の予定がございません」
「他の店舗に在庫があるかわかる?」
「申し訳ございませんが、他店の在庫は確認できかねます」
「そ。ならいいわ」
「ごゆっくりご覧ください」
これ以上何も聞いてくるなーと思いながら、急いで切り上げて入荷を捌く。
本当、終わるまで誰も話しかけてくんな。
従業員が少ない中、効率を考えてひたすら並べる、並べる、並べる。全集中─していると、
「ありがとう」
さっきのタメ口オバサンだ。不意すぎて、
「あ、ハイ」
としか反応できなくて、また作業に戻ったら
「アンタ、対応悪いわね。名前なんて言うの?教えなさいよ」
えーーー何?何なの急に??
別に〈ありがとう〉なんていらないんですけど。話しかけられて時間をとられる方が嫌なんですけど。言うなら案内したときにしてくれよー
「申し訳ないですが、個人情報なので」
首からかけている社員証を引っ張って見ようとする。
「やめてください」
と言いながら、店内を競歩で逃げ惑う私。そしてそれを追うオバサン。カオス。というか地獄。
流石に若さには勝てなかったようで、諦めて帰ってくれたオバサン。私はバックヤードに逃げ込み、気持ち悪くて仕方がなかった。
ヤバイ客ばっかりで困る。少しは慣れているけれど、慣れたくもないしキモチワルイのには変わりない。ストレス、やば。
「─ってことがあったの」
一連の出来事を、仲の良い友達Aに愚痴った。
「ありがとう繋がりなら、私もヤバイエピソードあるよ」
「えー聞きたい」
─Aちゃんのヤバイ上司のお話
私の職場には、ヤバイ上司がいる。まぁ、色々やばくて説明するのも面倒くさいので割愛。
その激ヤバ上司、頻繁に物をくれる。私だけじゃなく、同じ部署のみんなに。
冬、乾燥がやばかった頃、ハンドクリームをくれた。有名ブランドのハンドクリーム。正直言って、ハンドクリームは自分で買ってる。プレゼントで貰っても嬉しくない。
某ブランドの物は良いって知ってはいるけれど、ニオイが強烈。好きでもなければ、この香りをまとって働くわけにもいかない。取引先に会う時には不適切だ。香りの好みもあるけれど、ハンドクリームは効能が重要で。私は無香料かつ手荒れに特化したちょっと良いやつを使っている。カッサカサを改善するために見つけた、選りすぐりのやつ。これしか無理。他は全然意味をなさない。
とりあえず面倒くさいから、
「ありがとうございます」
と言いながら受け取った。
激ヤバ上司は満足そうに
「使ってね」
といって笑っている。使わないけどな。
また別の日、遠方へ遊びに行ったらしく
「これお土産。みんな1つずつどうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきます」
同僚たちが口々に言うが、1人反応していない人がいた。
「Bさんも」
圧を感じる。ありがとうと言え、という。
「あ、いただきます」
そう言って興味なさそうに仕事に戻るBさん。私は好きだよ。
よくお土産を買ってきてくれるのはいいんだけど、毎回チョイスが微妙で。あんまり美味しくなくて。
「どうだった?」
と感想を聞かれるのも面倒くさい。よく毎度毎度美味しくないものを選べるよなぁと関心はする。
「おいしかったです」
面倒なので、毎回そう答える
誰もほしいと言っていないのに、毎回色々買ってくる。普通にいらない。ありがとうと言わせようとするのもキモイ。
─
「ヤバいね」
「普通にキモイでしょ」
「ありがとうの強要ってキモイ」
「「あーもう、転職しよっかな〜」」
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完結済長編小説
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