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MAROU
鶺鴒鳴
9月某日。引き続きチョコレート工場では焙煎時間、砂糖の種類、テンパリングの温度違いの試作と試食が続きます。けれどどれもしっくりこない。使用するカカオはベトナム産の一択です。この半年間ずっと向き合ってきたから、扱いや風味の特徴は分かっているつもり、なのですが…。なんだか、悪くはないのだけど、そう、不器用に作り始めたころに食べた新鮮な閃きがないのです。
タッパーに入ったチョコを囲んで、みんな何か言って欲しそうに私の顔を見ます。ここはワインのテイスティングで覚えた知識や経験を総動員してアドバイスを…というまでもなく、これはもう豆自体の問題だとは思っていました。そして私を見るみんなの表情にも同じ意見が透けて見えています。
「時間がないのはわかるけど、別のカカオ豆で試してみたい」
私にできるのはこんな後押しだけです。反対意見もなく、産地違い、そして鮮度や状態の良い豆を取り寄せようということになり、すぐに手配へ進みました。潔い。積み上げてきた経験だけを引き継いで「10月にお披露目するチョコレート」の制作は振り出しに戻ります。
どうしてこの日までベトナム産にこだわっていたのか、理由ははっきりわからないけれど、ベトナム産のカカオを使用し始めたときに「こういう感じが良いな」というお手本で食べてもらおうと思っていたのがMAROUです。数年前、私がBean to Barチョコレートを食べ始めた頃はあまり美味しいと思っていなかったのに(好みの問題?)、それからしばらくの間に、二度三度食べてゆくにつれてようやくこのメゾンのユニークさが分かったのでした。
そんな私の想いも込めて、先日買ってきたティエンジャン70%をメンバーとシェアしました。雨上がりのようなテクスチャとフルーティーさ。それからスパイシーで、花蜜のような軽い華やかさ。MAROUの良いところは味の変化が鮮やかなところかなと思います。
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FILM
その後ティエンジャンは西岳さんの冷蔵庫の中で無造作に放置されていたのですが、3日くらい経って食べたときイチゴジャムの風味がして、その健康的なキュートさに泣きたくなるほど感動しました。こういう変化が欲しい。やっぱりベトナムのカカオも捨てがたいよう…
CHOCOLATE
https://marouchocolate.jp/story/about-us/
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