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手が震えるのでサインはご遠慮下さい。【ユーモアエッセイ】

 書痙(しょけい)
 字を書くときに手が震えてしまう症状のこと。
 
 
なんなら処刑と同じ読みではないかと思った。

 緊張しているとき、恐怖に戦いているとき、私は、人前でペンを持つと手が震えることが多々ある。


 極度のあがり症の私は、2年振りの、いつもの車検屋へ愛車を納車した際、署名する書類が数枚あったが、子ミミズがふらふら歩いた跡のような、しごくみっともない字が完成した。


 車検屋へ向かっているときから危うかった。
 緊張が向こうから微笑みながらやって来るのが見えた。


 車検屋が近づくにつれ、鼓動が高まり、着いたころには走ってもいないのに心拍数が踊り、時折、不整脈がフラメンコのオレー!と似たように手を叩く始末であった。

 今回で3度目の車検屋で、何をそんなに緊張しているのか、自分でも謎である。
 しかも私一人しか客がいなく、人当たりの良さそうな受付の女性と二人きりだったのに、戦闘の渦にすっかり溺れていた。


 なんやかんやと説明を受けて話している内に渦は弱まり、オレー!も治まってきたが、自律していた神経は余計なことをしてくれた。

 それが「書痙」だ。

 ペンを渡され、書類が目の前に出された。
 こちらの太枠部分の――と言われた途端、私の脳神経回路は暴れ出した。
 

 アンパンマンが来て頭を一口くれないか?
 などと思いながら、私はペンをギュッと握った。
 

 手も体も小刻みに震え、呼吸ができない。
 

 落ち着け、落ち着くんだジョー。
 ルンラルンラルン。と無理に明るく奮い立たせるが、余計に酷くなり、まるで心電図の針のような動きとなる。


 対面でジーッと見られているわけでもなかったのだ。
 受付の方はパソコン作業をしていて、誰にも監視されていないにも関わらず、コレだ。


 わざと「住所は何だったかな?ええと…」と考える素振りを間にはさみながら、やっと書けた太枠内の字は、ホラー傑作のアートのようだった。


「私はこのような字体を売りしておりまして」
 と、心中で言いながら、書類をご丁寧にくるりと相手へ向け、でも消極的にスッと渡した。
 どうしてか、書き終わると気持ちが落ち着いた。


 受付の女性は私のホラーアートに気にしている風はなく、とてもよく喋る気さくな方だった。

 その女性もまた、おぼつかない字体だったが、書痙ではない、ただの癖字だった。

 癖字でもなんでも震えないことに羨ましくて仕方なかった私。



 こんなことが何度もある。

 乳房にしこりがあり、乳がん検診で念のため細胞診したときの署名もアホ面していた。

 これは、しこりが悪いものだったらという恐怖心が誘ったものだ。
 
 嚢胞の良性しこりですね~と、超音波検査の最中も細胞採取中も、安心して良いですよと先生は優しく言ってくれたが、極度のあがり症の私の手には通用しなかった模様。
 結果は良性だった。



 前職場でもそうだ。
 私はパチンコ店の事務員をしていた。

 ホールスタッフの人手不足と重なり、心無い社長の息子の「事務員要らないでしょ宣言」から追い込まれた私は、苦手で慣れないカウンター業務を、半ば強引にやらされた。

 反発したが無駄だった。非常に身勝手なパワハラである。

 へっ!と思いながら私はカウンター業務をそれなりにこなして見せたが、当然のごとく緊張もイライラもMAXで、字を書くことがあれば、もうそれは言うまでもないのだった。

 



 大勢の飲み会、乾杯をしてグラスを口に持って行く際、顔がプルプルと小刻みに震えることもある。

 四方八方人の顔に緊張しているのだ。毎回ではないが。

 アイドルの食レポの頭が揺れるアレと違うが、私の方がよっぽど怪奇な動きであろうことは間違いないのであった。
 
 


最後までお読みいただきありがとうございました!
また来てね💖


~おまけ~
いつも書痙が発症するわけではないが、人前で書くことは恐怖となった。
メンタルクリニックの先生に話すと、そういう人は多いようでちょっと安心したものだ。
だったらどんどんアートを披露してやろうと思う。
ちなみに、あがり症も、頭やオデコや胸の凝りが強いこともあるようで、やはりルート治療は継続して鍼を刺してもらおうと思う。

ルート治療をしてからあがり症は楽になってきていて、なんなら、字が震えると思ったら「震えちゃうのですみませぇん」と先に断ってしまえ!と思うように成長しています。曝け出すことへの恐怖が改善されているようです⭐️

 


▼書痙の治療専門院があるらしい!中国鍼鍼灸

 

 


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