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2020年6月、印象に残った音楽作品

2020年6月によく聴いた&印象に残った音楽作品について簡単な感想を書いていきます。順不同です。

※この月にリリースされたものではない作品もあります。

●Ryu Matsuyama『Borderland』

なんて美しいアルバムなんだ……。6月で一番聴いた作品でした。

Ryuさんはファルセットを主体に歌う人なんですが、高音を出すのに無理してる感じがまったくがないんですよね。まるで吐息のように高いピッチを出すし、それゆえに強弱も自由自在。かつビブラートもすごいし、ちょっと倍音が入っているのか声がストリングスのように豊かに響く。

またサウンド面は、前アルバム『Between Night and Day』の“力強さ”を引き継ぎつつも、生楽器の良さがより引き立てられ、明るく朗らかになった印象。前作はシリアスな曲調が多かったような気がするけど、今作は“楽園”や“桃源郷”をイメージさせるようなところがあります。一音一音が綺麗に粒立つエレピや、甘美な弦楽器がそう思わせるのかもしれません。

個人的には「愛して、愛され feat. 塩塚モエカ(羊文学)」が特に好き。俗世離れしたような極上の美麗サウンドもそうですが、二人の声の重なり合いがこの上なく素晴らしいんですよね。低音が若干ハスキーになるところなど、互いに似ている部分があるし、出会うべくして出会った声だなというか。サビのハーモニーを聴くと強くそう感じます。ぜひ一聴してみてほしいです(できればアルバムごと)。

ちなみに淡い色でデザインされたジャケットワークは、Ryuさんの父であり画家である松山修平さんが手掛けています。この色使いやでこぼこした立体感も好き!


●Lady GaGa『Chromatica』

もう非の打ちどころのない完璧なダンスポップというか、ダンスミュージックのお手本となるべき作品というか……とにかく隙のなさ、完成度の高さに息を呑みました。個人的には前作『Joanne』も思い入れのある大事な1枚なんですが、やっぱり今作のような振り切れたダンスポップの方がGaGaの無敵感が出てて好きかもしれません。

全曲が強いのでどれもキラーチューンみたいな感じですが、やはり素通りできないのは「Rain On Me with Ariana Grande」でしょう。フックの《I'd rather be dry〜》から始まるファルセット歌唱がまず気持ち良すぎるし、GaGaのとびっきりの最強低音ボイスによる《RAIN. ON. ME.》を挟んでからの、王道EDM的な弾むビート&カラフルなエレクトロサウンドにはテンションが爆上がりです。そしてそこにすっと入ってくるAriana Grandeのスイートなボーカルも最高。曲の色がガラッと変わるし、パワフルなGaGaのボーカルとの相性、というか“駆け引き”も見事です。

それから終始ロボットボイスで淡白気味に歌われる「911」も、インパクトのある1曲。人間味をできるだけ排除したような感じがしますが、抗精神病薬について歌った曲とのことなので、もしかしたら“自分じゃない自分が顔を出している”精神状態をこのボイス加工で表しているのかもしれません。一方リバーブがかかった《Ooh》というコーラスがめちゃめちゃ甘美なので、それが救いのようでもあります。

この「Rain On Me」や「911」も含め、今作にはGaGaが過去に抱いた苦しみと、そんな中でも音楽が癒しであったことを描いた楽曲が収録されているとのこと。「Free Woman」の《I'm still something if I don't got a man》など痛快なフレーズが時折出てきますが、サウンドは何度も言うようにアップテンポなダンスポップで、彼女が茨の道を乗り越えて前を向き歩み進める様子がうかがえるものに。めちゃめちゃ踊れるけど、踊れるサウンドになったことには意味がある、という奥深いテーマを持った渾身の1枚です。


●宇多田ヒカル「誰にも言わない」

これまでの作曲とは明らかに一線を画していますよね…。最初聴いた時かなり驚きました。

まるでコラージュアートみたいな本作。ビートにまったく合わせず、別の時間軸で歌っているようなフックのボーカル。逆にビートのリズムにぴったり合わせるコーラス。透明感がありちょっと爽やかさも漂うトラックに、突如として現れる年季の入ったようなサックスの渋い音。

言い方がこれで良いのかわからないけど、この曲に抱くのはとにかく“違和感”です。でもその“違和感”にむず痒さは感じず、むしろ奥ゆかしさというか面白味を感じます。「これは少なくとも私が知っている宇多田ヒカルの音楽ではない」という認識に、良い意味でゾクゾクしてくるというか。

“違和感”といえば歌メロもそう。《今夜のことは》の《は》は、《過去から学ぶより》の《ぶより》と同じ音階だったら腰が据わる感じがするけど、実際は半音上がるようなメロを使っていて、ちょっと不気味な、浮ついた印象になっている。

《誰にも言わない》の《ない》も、他のアーティストだったらたぶん「言わな〜い」って歌うと思うんですけど、宇多田ヒカルは「ない〜っ」って「い」を強調していて、かつ短めに切っている。この歌い方も印象的に残るというか、耳に引っかかるんですよね。あくまで持論ですけど、宇多田ヒカルは今までの歌い方や“教科書通り”の歌唱法からいかに離れるか、ということに挑戦しているのではないかと思いました。

とにかく超好きな一曲だし、この方向性での作品をもっと聴いてみたいです。


●三浦大知「Yours」

ここ最近では、「COLORLESS」に代表されるようなアグレッシブなビートミュージックが目立っていましたが、今作もその流れを組む1曲。

フック部分はものすごい振動で鼓膜を揺るがす、ダブステップの重低音が鳴り響くサウンドに。ここまで低音が強烈な曲って、三浦大知の過去作にはあまりなかったような…?あと、この部分で彼がどんなダンスを見せてくれるのか、想像するだけでもめっちゃワクワクします!UTA×Daichi Miuraのコンビ最強。

また、三浦大知自身が手がけた歌詞とリンクする曲の仕掛けも面白い。この曲は《これは人生》という言葉から始まり、同じく《これは人生》で閉じるんだけど、これっておそらく歌詞中の《それでも Repeat 毎日》にかけているんじゃないかと思います。“人生は繰り返していくものだ”というのを、曲の頭と尾をつなげて環状にすることで表しているのではないかと。このような仕掛けは前アルバム『球体』にも通じるものだと思うし、三浦大知はずっとその“繰り返し”を描いていきたいのかな?と思いました。

まぁとにかく、早くライブで聴きたいですね!


●KID FRESINO「Cats & Dogs (feat. カネコアヤノ)」

KID FRESINOとカネコアヤノという組み合わせ、最初は意外だなと思っていたんですが、両者はライブで何度か共演していて、かつこの曲もリリース前に披露していたようですね。知らなかった。

フレシノはスピード感のあるフロウでめっちゃ言葉を詰め込んでくるタイプのラッパーですが、本曲のゆるゆるとしたテンポでもそれは健在。サビ前になるとトラップっぽいハイハットの音が聴こえてきて、さらにスリリングさが加わります。

そしてそこからカネコアヤノが歌うサビに入った時の開放感が半端ない!のんびりで伸びやかな彼女のボーカルが流れると一気に曲のテンポが遅くなったような感じがするし(実際は変動してないのに)、胸にふわ〜っと風が通り抜けたような心地になります。この両者のボーカルの対比というかギャップは見事です。

あとカネコアヤノが歌う《今日は絶対に頑張らない》っていうフレーズは超沁みますね。ここを聴くと「自分も絶対に頑張らないぞ!」って気持ちになります(笑)。頑張らない日特有の心情が生々しく伝わってくるのが良いなぁ。

それからちょっとアンビエントっぽい、音を入れすぎないサウンドも良い。生活感が程よく滲んでいます。


●ENDRECHERI「one more purple funk... -硬命 katana-」

ENDRECHERIサブスク解禁きたーーーーーー!!!!!!前からちょこちょこCDで聴いていたのですが、如何せん形態によっては聴けない曲もあり、今回完全配信されることになって本当に嬉しいです。

サブスク解禁後一番聴いたのはこの「one more purple funk... -硬命 katana-」というシングル。表題曲は4分半という長さながら、曲のところどころで現れる堂本剛のロングトーンや、おどろおどろしい轟音を鳴らすバンドサウンド、その中で一際の存在感を放つKenKenのスラップ炸裂のベースソロなどが集結した壮大な音像になっていて、10分くらいの長編大作を聴いているような気分になります。1曲目からガツンと食らわされる感じ。

加えてお気に入りになのが「神機械」。ところどころで出てくる《ジンマ ジンマ 神機械で早くおいで》っていう語感遊びが面白いし、とびっきりキャッチー。それから《地球人じゃ 物足りん ここまで おいで…》っていう言葉遣いもなんか惹かれます。剛氏自身も地球人だし地球人しか知らないはずなのに「物足りん」って言える、その常識を越えた表現にトリッキーさを感じるからかもしれません。

そのほかにも、タイトルからしてユーモラスな楽曲が多数。ちなみに私がENDRECHERIを聴くようになったきっかけは、「SUMMER SONIC 2018」で彼らのライブを観たことでした。そこで受けた衝撃は以下の記事に書いてあります。


●KAN&Juice=Juice「ポップミュージック」

2020年2月にリリースされたKANの「ポップミュージック」は、上ハモ強めの厚めのコーラスや、複雑な旋律をなぞるストリングス、ディスコっぽさを思わせる派手なシンセの音など、1980年代の香りがぷんぷんするナンバー。それでいて歌メロがド直球にキャッチーで、自分はまんまと虜になってしまいました。彼の艶っぽい歌声や力みのないファルセットもたまりません。

一方歌詞は《最初に聞いとくけど ポップってどんな意味?》や《最後に聞くけど この曲どんなフィーリング?》などメタ的な視点が入っていて、面白いけどなんだかグッとくるものに。サウンドをキャッチーにした分、リリックは捻ったものになったのかもしれません。


この曲を知ったきっかけは、Juice=Juiceが同曲をカバーしたものを聴いたことでした。

こちらは原曲と比べると“今っぽい(2010年代以降?)”匂いがします。ビートや電子音がオリジナルよりもかなり詰め込まれていて、かつめちゃくちゃクリアで粒立っている印象。それからしっとりめに聴かせるKANと比べると、大人数によるユニゾンがあるからか、かなり華やかな感じがします。歌から放たれる多幸感もすごい。

あとJuice=Juiceって、個々の歌唱力も素晴らしいんですよね。今作では特にサブリーダー・高木紗友希さんのボーカルが光っています。上のMVの4:56〜にて破格のミドルボイスを聴くことができるので、ぜひチェックを。


●Gallant『Ology』

昨年発見してちょこちょこ聴いていたんですが、今年の6月はそれまで以上に聴いていました。ロサンゼルスを拠点に活動するR&Bシンガー・ソングライターGallantの2016年のアルバム。

まずハイトーンすぎる歌声に一撃でやられました。Bon IverのJustin VernonやRhyeのMichael Miloshにも通じるような、透明感のある夢想的な裏声。一方でその高さを保ったまま絶唱もしたりして、度肝を抜かれます。2曲目の「Talking to Myself」を聴いただけでも、その類稀なる歌の才能を十二分に感じることができるはず。

またサウンドも歌に引けを取らないくらい聴き応えがあります。たとえば「Talking to Myself」はビートがかなり変則的で、1拍の間に1つも打たないときもあれば一気に5つくらい打ったりするときもあるし、「Miyazaki」はやや渋みのあるハイハットが絶妙によれてて心地いい。歌声だけではなくてサウンドメイクの緻密さや音色選びにも心を打たれます。彼の作品、もっとディグしていきたいです。


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