見出し画像

「ゲームチェンジャー」となった高光束プロジェクターの開発秘話に迫る!!

エプソンが2022年6月に日本市場で発売した高光束プロジェクター「EB-PU22/PU21」シリーズ。明るさは13,000、16,000、20000ルーメンの3種類あります。中でも20,000ルーメンの機種は、同じ明るさの従来製品に比べて、サイズ約64%、質量約50%以上減(注1)を実現し、イベント会場などへの搬入負担を軽減した本モデルはディーラーから“Game Changer(ゲームチェンジャー)”と言われるなど、好評をいただいています。

どのようにして小型・軽量化できたのでしょうか。

今回、設計と営業を担ったメンバーを代表して5名が開発の裏側を語ります。

(注1) EB-L20000UとEB-PU2220Bとの比較(突起部含む、レンズ含まず)
EB-PU2220B:本体サイズW×D×H(mm)  586×492×218(突起部含む)
EB-PU2220B:本体質量約24.4kg(レンズ含まず)
EB-L20000U:本体サイズW×D×H(mm)  620×790×358.5(突起部含む)
EB-L20000U:本体質量約49.6kg(レンズ含まず)

▼ インタビューに答えていただいた方

ビジュアルプロダクツ事業部 VP企画設計部 課長 南雲俊彦
ビジュアルプロダクツ事業部 VP企画設計部 流川理
ビジュアルプロダクツ事業部 VP企画設計部 角谷雅人
ビジュアルプロダクツ事業部 VP企画設計部 降幡武志
営業本部 VP営業部 川島 春子

※所属部門名は開発当時のものです。

もっと扱いやすい高光束プロジェクターを目指して

まずは、商品化の背景について、開発プロジェクトを主導したVP企画設計部 課長 南雲俊彦は「これまで20,000ルーメン以上の高光束プロジェクターは製品サイズが大きく、重量は50㎏以上(他社製を含めた従来製品の場合)あることから、設置する際には4人以上を必要としていました。お客様の扱いやすさを考えたとき、保管、搬入、設置などに課題意識を持っていたのです」と打ち明けます。
 
VP営業部(当時)の川島春子は「設置にかかる人数や調整などを踏まえると、大きなディーラーさんでないと取り扱いが難しく、20,000ルーメン以上の高光束プロジェクター市場拡大の障壁となっていました」と説明します。
 
だからこそ「これまでにないサイズ、重量の高光束プロジェクターを目指したのです」(南雲)と力強く語りました。

VP企画設計部 課長 南雲俊彦


いかに効率よく冷却するか。避けては通れない「熱対策」

製品の小型・軽量化で課題となったのは、光学エンジンやレーザー光源ユニットなどから発生する熱対策でした。小型になれば筐体(きょうたい)内部の部品が密集し、その分、発熱密度が高くなるからです。効率的に冷却する仕組みが必要でしたが、これまでも冷却システムの改良に取り組んできただけに大きな挑戦となりました。
 
メカ設計のVP企画設計部 流川理は「冷却構造を大胆に見直しました」と前置きした上で、「従来機種(EB-L20000U)では筐体内部で冷却システムが分散しており、その分、スペースを必要とし、重量も増していました。本モデルはラジエーターやファンといった放熱機能を本体左側にまとめることで(図1)、冷却効率を高めて省スペース化を実現しました」。

【図1】 冷却機構イメージ
光学エンジンとレーザー光源ユニットの冷却には液冷システムを採用。それぞれの場所で発生する熱を一カ所に移動させ、まとめて放熱。強力なラジエーターやファンにより冷却効率を高めることができる。また、筐体内のスペースを最大限有効に活用できるため、本体の小型・軽量化にも寄与している。

また、レーザー光源の小型化にも取り組み、従来比約3分の1のサイズを実現できましたが、光源の開発を担った角谷は「大きな課題は熱をどう逃がすかでした」と、光源の小型化と熱対策は二律背反であることを示します。

なぜならば、図2右のようにレーザー光源を構成する発光ダイオード同士の間隔を狭くすると発熱密度が高くなり、熱がこもりやすくなるからです。

【図2】 レーザー光源従来機種とのサイズ比較イメージ

そこで、熱を効率的に逃がすために、空冷システムよりも放熱効果が高い液冷システムを採用。さらには、光源から熱を吸収する部品への冷媒の流し方を調整するなど、効率よく冷やせる工夫をしています。


液冷システムとは、熱を受け取る部分と熱を逃がす部分の間を液体(冷媒)が循環しながら冷却する方式です。冷媒は空気に比べて比熱が高いため、空気よりも効率的に熱を奪うことが可能です。

本機種向けに開発した液冷システムは「ラジエーターの配列を工夫したり、冷媒を循環させる新しいポンプを採用したりするなど、さまざまな工夫を施しています」(流川)

左から、VP企画設計部 角谷雅人、流川理、降幡武志

電源は変圧器を中心に熱が発生します。VP企画設計部 降幡武志は、発熱を抑えるために、「エプソンとして初めてブリッジレス電源を採用しました。さらに、電源ユニットの冷却構造をメカ設計と初期段階から作り込み、効率的・最小サイズ化・容易な交換構造を実現できました」と語りました。


いつでも問題を「解決できる状態」をチームで作り上げる

「複数の組織から集まってきたこともあり、最初は自由な雰囲気ではなかったが、 最後は言いたいことは言えるような状態になった」と南雲。

今回、設計部門や生産技術部門から専門スキルを有したメンバーを一つの組織に集めるプロジェクト体制を採用しました。本機種の開発に専念できるようにするためです」と南雲が体制の意図を語ります。

続けて「各メンバーが担当領域に責任を持ちながらも幅広く業務に携わりました。開発段階で直面する問題は、その原因がさまざまな要素に関係することがあります。メンバーが一丸となって原因解析に取り組んだことにより、真因に辿り着くまでの深さが違いましたし、問題解決までの時間も早かったです」と振り返ります。頷きながら聞いていた降幡は「これまでの開発体制と比べて、約半分の時間で問題解決できました」と付け加えました。
 
なぜ、担当領域を超えて問題解決に取り組めたのか。

その理由について流川は「『良い製品をつくりたい』という共通の目的意識が大きかったですね。仲間の仕事でも思考を働かせて『こうじゃないですか』と良い意味でおせっかいする。自分の考えを直接相手に伝えるのは早かったです」と、目的達成に向けて各人がどのように貢献するか理解し、積極的に行動したことを明かしました。「メンバー間の連携を密にしてチームワークを発揮したことで、高い目標を達成できました」(南雲)。


製品の魅力を余すことなく伝えたかった

VP営業部 川島春子さん(現在はWP営業部)

製品の魅力を余すことなく伝えたかった!」と、口にしていた川島は「従来の機種と比べてどのくらい違うのか、機体を分解しながら設計や品質保証の方が説明してくれたのですね。それを見て、『こんなに改善しているんだ!』と勝手に感動してしまいまして(笑)。良い製品ができたとディーラーさんやお客様に伝えたくて、技術背景に基づいた訴求資料や動画を作成するなど、訴求に努めました」と語ります。

本モデルを発売後、20,000~30,000ルーメンの領域において当社シェアが向上。さらには高光束市場の拡大につながりました。

普段から川島の熱量を感じていた南雲は、「驚くぐらいどんどんと知識を吸収し、情熱を持ち、営業、戦略、設計、販売会社の皆さんと一緒に販売促進していただきました。それから、技術者はマイナスというか課題を探す癖があります。それに対して、川島はプラスを見つけるのがうまい。営業から『すごいね!』と言っていただけたおかげで設計メンバーの自信につながりました」と目を細めます。
 
にこやかな表情で聞いていた流川は「目標に納まるよう設計するので、できて当たり前なんです。だから、川島さんの驚く姿を見て、正直、違和感だった(笑)。狙って設計しているので、そりゃあ、そうでしょう」と誇らしげに語り、「だって感動したのだから」と、はにかむ川島。思わず全員が笑顔になりました。


より小さいものが、世界を豊かに彩る

降幡は開発を振り返り、「小型・軽量化のコンセプトを貫き、お客様の心に刺さる製品を世に送り出せて良かった」と声を弾ませます。

流川は「高光束プロジェクターは他社も筐体が大きいのが普通でした。今回、サイズを小さくしたことで高い反響があったというのは身に染みて分かりました。エプソンのパーパスにある「省・小・精」を追い求めるという方向性は正しいと思います」と考えを巡らせます。

角谷も同意した上で「今後も、より明るく、より小さく、よりお求めやすい製品を目指したい」と今後の抱負を語りました。

この記事が参加している募集

多様性を考える

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!