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総ルビ『根津権現裏』(旧字)藤沢清造(著)

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『根津権現裏』の、ほぼ全ての漢字に「ふりがな」を添えました。noteのルビ機能を試しています。底本の「旧字体」をあえて残しました。
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目次 総ルビ『根津権現裏』藤沢清造(著)

電子書籍化しました。縦書きで読めます無料ダウンロードできるサンプル有り。 総ルビ・ふりが…

|凡《はん》|例《れい》 根津権現裏 藤沢清造(著)

根津權現裏 藤澤淸造(著) 一、本書は一九二二年(大正十一年)、日本図書出版より刊行され…

第一章 宿疾

 午前中のことは一切知らないが、私が起きてからも其の日は、まるで底翳(※眼病)の目でも見…

第二章 祈念

 それから私は、白山へ出て、其處から電車に乘ったのだ。すると今度は、石崎の在不在が氣にな…

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第三章 石崎

 石崎のところへきてみると、案じるよりは生みやすいと云う譬どおり、丁度彼は、今外から歸っ…

第四章 莫迦

「そうよ。利口じゃないさ。」  石崎は忌忌しそうではあったが、一應は私の云った言葉を肯定…

第五章 喧嘩

「それは違うよ。第一母の愛と、僕の愛とは違うよ。僕は人から侮辱されることは、死ぬよりも嫌いなんだからな。」  私の言葉が切れると、石崎はこう云って、私のそれもこれも、みな足蹴にでもするような調子でもって反對してきた。 「それやそうさ。違うと云えば違うさ。だがしかし、君は全然憎くてそうした譯じゃないんだろうじゃないか。それを君は……」と私が云っていると、石崎は、能くも私の云うことを聞かずに、 「いや僕は、憎くて憎くて溜らなくなったから、蹴飛ばしてやったんだ。外に理由がある

第六章 食慾

 外へ出てみると、雨はもうあがっていた。私は其處の横丁を拔けて、大通りへ出てみると、一つ…

第七章 電車

 其の電車には、五六人しか乘客がいなかった。皆雨に降られたらしい連中ばかりだった。それら…

第八章 海苔卷

 白山巢鴨行きの電車は、かなり込んでいた。私が其處の腰掛けに腰をおろすのには、二人の乘客…

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第九章 訃報

 私がようやく宿へ辿りついて、破れ蛇の目を窄めると、其處の戶足の惡い硝子戶を、半ばやけに…

第十章 岡田

 其の頃岡田は、追分にいたのだ。追分は、高等學校の寄宿舎近くの、松風館と云う下宿屋にいた…

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第十一章 臆病

 そうだ。岡田がふさを知ってから、二月餘りになる。彼は其の期間において、初めて女と云うも…

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第十二章 炎熱

 其の晩は暑い晩だった。と云っては少し氣が早すぎる。其の日は「炎熱熾くが如し。」と云う字義通りに暑い日だった。そして、私の起きたのは、其の日もやはり正午近くだった。起きると私はもう、飯を食いに出掛ける元氣もないほど暑さにあてられていた。だから、私は終日臥たり起きたりして、只管に夜のくるのを待ちこがれていた。それに其の日は、吉川から借りてきた読賣新聞の第一面に出ていた、義手足の廣告から、私は自分の宿疾のことを考えさせられて、寂しい思いに攻められていたのだ。  其の中に、四邊の