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【海外編】世界最安(?)語学留学体験記 - インド

時系列では、以下の記事の次となる。

こうして帰国後に大学を辞め、英語を本格的に習得するという目標を達成する為に留学を決意するのだが、金がない。フィリピン留学よりも安く済むところはないのだろうか... そう調べているうちに思いも寄らぬ国名が挙がった。

インドである。

そうきたか。確かにインドは英語を公用語の一つとしている。でもインド留学なんて聞いたことがない。そもそも外国人が留学なんてできる場所なのか?

しかしそんなもの、行ってみなければわからない。カンボジアだってそうだったように、何でもやってみなければわからないのだ。インドでおそらく一番安い語学学校ということだったので、生活費を節約できる代わりに少し苦しいでも我慢できるはずだと、とんとん拍子で手配を進めてしまう。

こうして人生初となる留学の手配はすべて整った。インド留学と言えばアメリカ留学とかオーストラリア留学には劣るものの、世界最安英語留学と言えば何だかすごく聞こえるんじゃないか。こうしてプライドも何もかもを全て捨てた、人生リセット留学生活が始まるのであった。

ー留学費用ー

まず学費および生活費について、当時のメールが残っていたので引用する。ちなみに仲介業者は必要なく、メールで連絡を取り合うだけでよい。これほどの手間を人に任せているようでは、インドでは生きていけない。

Details of the course are as follows:
- 2 Hours Grammar
- 2 Hours Vocabulary
- 2 Hours Reading, Writing and ConversationClass will be held 5 days a week with test and presentation on Saturdays.
Group class Rs 9000+ 10.36 % TAX/month.
Accommodation will cost Rs 6000- 10,000 depending on what you like. ( Subject to availability on your arrival).

現在、一ヶ月あたりの学費は9000ルピーから12000ルピーほどへ値上げされているようだが、それでも安い。自分はホームステイのような形で家の一室を借り、光熱費とWi-Fi込みで月7000ルピー程払っていた記憶がある。生活費(食費、交通費、娯楽等)を合わせても、月4〜5万で生活できてしまう。

ー学校生活ー

何でも行き当たりばったり。入校期間は特になく、知らず識らずのうちに生徒が増えてゆく。学生は8割が中東・アフリカ系(イエメン、オマーン、スーダン等)、2割が東アジア系(モンゴル、タイ、日本等)と記憶している。この比率は常にほぼ変わらないだろう。生徒の英語力によって分けられる。受講クラスはいつでも変更可能。ルール違反、遅刻やサボりへの罰則はない。
クラスの雰囲気は、生徒や教師の文化的相違点が顕著に現れるため、観察していて非常に興味深い。教師たちは非常に面倒見がよく、どんな生徒でも家族のように世話してくれる。わからないこと、悩み事があれば誰もが親身になって聞いてくれる。

しかしちょっと緩すぎる場面もちらほら見受けられる。まず生徒も教師も遅刻する。授業中けたたましく鳴る携帯はほぼ教師のもので、そのまま通話が始まるため授業は中断される。仕舞いには集中力が切れ母国語で話し出すアラブ人、それに気づいて阻止しようとするインド人教師との攻防が繰り広げられる。

東アジア勢は黙々と勉強に励む。授業も宿題もあまりサボらない。そのためreadingやwritingの上達が早いが、こうも大人しすぎるとspeakingがなかなか上達しない。一方で、インド人を凌ぐほど饒舌なアラブ勢はspeakingの上達はめまぐるしいが、自主的な勉強の姿勢に欠けるためreadingもwritingも上達が遅い。アラブ人の友人曰く、砂漠の気温が下がる夜に遊ぶ習慣が生まれつき身に付いてしまっているため、放課後に勉強に励むのが困難らしい。この通り饒舌である。

インド人教師は英語教師といえどインド人に変わりはなく、インド英語の訛りや独特の物事の表現方法を容赦なく使う。ここで勉強するならば、この訛りを常に意識しながら、正しい発音・表現へと修正する能力がなければ、正しい英語が身に付かない。

ー日常生活ー

バンガロールの気候は良いが、インフラはまだまだ発展途上。生活費を奮発しようが、日本レベルの生活水準を求めるのは不可能に近い。その理由は”停電”と”断水”。停電中はファンが止まり汗が吹き出た。発電機を備えた家もあるようだが、我が家は無縁だった。明かりもWi-Fiもない。何もできないのは大きなデメリットに聞こえるが、日が沈んでいれば宿題をサボる言い訳にもなる。水が止まれば、汗だくだろうがシャワーを浴びれず、トイレを流す事もできない。腹はしょっちゅう下していたので、どうにもならないときは柄杓の水と左手による”野糞”以外に選択肢はない。ちなみにトイレットペーパーなんぞ空港を出てから目にしたことがなかった。日本から持参していたとしても、流せば詰まるし、土に埋めても分解されない。左手で尻を拭う行為は汚らしく聞こえるが、紙切れで拭いて済ませるよりずっと衛生的だし、何よりも環境に良いのだ。人工物を一切残さない野糞は快適である。何も、一歩道に出ればそこらで野良犬や野良牛が同じように糞を垂れている。牛や犬が良くて人間はダメなのか。これが僕なりのインド哲学である。

途上国だろうが、ちょっとくらい痛んだ食べ物でも熱を通せば良しと思い込んでいたが、屋台のチャーハンや焼きそばとなるとフライパンを全く洗わずに調理するので、もはや菌のレベルの話ではなかった。ひどい時には3、4日ほど激しい腹痛に襲われ寝込んでいたこともある。こうも痛い目に遭うと、即席麺でさえ絶品に感じられるようになる。健康には悪いが、衛生面では問題ないだろう。そう考えながら毎日のように食べていたMaggiと呼ばれる即席麺は、翌年2015年に鉛が検出され、販売禁止となった。つまるところ、人の手によって丹誠込めて作られたカレーやビリヤニ等のインド伝統料理=煮る・炊く料理を食すことこそが、如何なるリスクをも最小限に抑えられる手段であった。郷に入れば郷に従う、これも僕なりのインド哲学である。

動植物の生命力の強さは人間の比ではない。早朝は鳥、深夜は野良犬の鳴き声で眠れない。野良牛は神聖な佇まいで道を塞ぎ渋滞を引き起こす。砂埃が積もろうが伸びる草木。家の建て付けが悪いので、虫は容赦なく部屋へ侵入してくる。食べかけの食料は気づけば蟻のごちそうとなる。南京虫が脚を咬み、忍者の如くゴキブリも現れる。蚊は線香の煙では効き目がほとんどなく、殺虫剤を直接吹きかけなければくたばらない。どいいつもこいつも、潰しても切りがない。こうなると、自分も吸い込むであろう毒を撒き散らすより、黙って蚊帳を張って放っておくのが賢明である。いや、何も彼らをここまで敵視する必要はないのではないだろうか。彼らは人間に歯向かうつもりはなく、ただ自分の生命を営むまでである。それを雑音や我々に対する敵意と捉えるのは極めて人間らしい、自己中心的な観念他ならず、これを引き起こすものは己の邪念ではなかろうか。恥を知った。これも僕なりのインド哲学である。

ーまとめー

留学すれば自然と英語力が身に付くと思い込んでいる人間の英語は上達しない。そういう人間にとって、娯楽等の誘惑が少ないという点で勉強に専念できる環境としては優れているかも知れない。しかし生活面での苦労で挫折する人間も少なくない。カルチャーショックでストレスを抱え、逃げるように消えてゆく人間もいる。格安とはいえ、ハードルは決して低くない
また、この語学学校ではネイティブレベルの英語を話す人間がいないため、自分の英語力が一定のレベルに達した時点で向上しなくなる。教師と生徒の距離感を考慮すると初級〜中級者には向いているが、上級者向けの学習環境は整っていない。

個人的にこの語学学校は、本格的に語学留学をしたい人間には向いておらず、これまでの生ぬるい人生をやり直したい人間が、英語を勉強する一方で弱い肝っ魂を一から鍛え直せる場所として適していると考える。苦労して自分なりのインド哲学を悟った暁には、日常の風景に散らばっている些細な物事の有難味に気づけるようになり、心が豊かな生き方を見つけられるに違いない。

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