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アネモイの歌

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アネモイ四柱をテーマにした詩。
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記事一覧

【詩】アネモイのトッカータ

【詩】アネモイのトッカータ

子供たちよ、方位気まぐれなつむじ風
人に花の喜びを 季節巡りの悲しみを 破壊剥奪の絶望を
戯れ笑い踊り回りながら
平原海原山駆け町へと降り下り
耳元掠めて言葉を攫う
硝子の衣で舞う子らよ

地に縫われた彼らの
慎ましやかな小さな暮らしを引っ掻き回し
新しい物語をその喉に歌わせてやりなさい
平穏と不変を謳いながら
波乱と変貌を望む彼らに
花々と氷の詩を紡ぐ合いの手を
風に躍る炎と雪華 涙と血潮
幾千

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【詩】帰りゆけ西風

【詩】帰りゆけ西風

うす硝子の窓をたたいて何度訪れても
下ろした閂でとざしたものを
夜風に乗せて甘やかに花の香を伝え来て
懲りもせぬ西風憐れみは
この身にはもはや注ぎきれぬのに

帰りゆけ西風
その花弁は持ち帰り
遠き人の眠れる瞼へと

帰りゆけ西風
この部屋にまだ春は要らない
遠き人への一言の別れの言葉を共にして

【詩】泣かないでエウロス

泣かないでエウロス泣かないで
涙の水が降ったなら
困ると人の言うのを聞いて
君はいつも涙を溜めた
優しき水瓶エウロスよ

泣かないでエウロス泣かないで
心の傷で泣かないで
君の寂しき泣き声に揺れ動き
雨より風は荒れ狂い
空は悲しみ燈を落とす

刺さった棘を抜くよりも
ここにとどまりあの日のように
木々と蝶蜂の歌をうたい
孤独ではない安らぎに
微睡み痛み癒やせばいい

泣かないでエウロス泣かないで

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【詩】ヒューペルボリアの王の後

北風の向こう超越の国
七つ星の下、
真白き尾根の向こうに住まう
夢よ、風笛の歌う哀しき残骸よ
かつて別れし君の後を
伝える詩は誰の口にも無く
北風に向かい私は旅に出た

北風住まいし超越の国
誰も見知らぬ幻影の国
沈まぬ七つ星廻るこの国に
私の置いてきたものを探しに
夢よ、心優しさと愛の思い出よ
それらを虚像と嘯く人々を遺して
この廃墟へと私は帰り来た

夢よ、朽ち果てながらなお美しき花園よ
永遠

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【詩】ノトスのスケルツォ

【詩】ノトスのスケルツォ

私は手のひらの中で問いかける
あなたの風向きは?
このわた毛をどこへ運び
このしゃぼん玉をどこへ旅させましょう?
自由の風向きを何の一つのはかりもせずに
綺麗な黒い瞳で見上げ
手のひらの中で問いかける
あなたの風向きは?
気まぐれに向かう散策の足は?
追い風になって山道も共に行きましょう
後ろから追いかけ来る雨より早く軽やかに

星々と朝やけの間に
きらめく夜つゆ朝つゆに生まれて
屈託もなく風の子

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