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武蔵野シェアハウス発、辺境の山旅

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1990年代末、若き日のアルピニスト野口健たちと共に暮らした東京・武蔵野の木造一軒家。 無名の冒険家たちが集まるその空間は、異様なほどのエネルギーであふれていた。 「ヒマラヤに行…
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#登山

連載第4話 タルチョたなびく武蔵野の一軒家

連載第4話 タルチョたなびく武蔵野の一軒家

入試で初めて訪れた武蔵野市は、地元の静岡よりも樹木が多く、東京とは思えないような緑に囲まれていた。

駅から大学までの道には「スタジオジブリ」があった。
それは木々に囲まれ、小さな森のようだった。

そして亜細亜大学は、より大きな樹木に囲まれ、受験会場の教室の窓からも木々の梢が何本も見えた。
高校の教室で感じていた無機質感はなかった。
付け焼刃での受験だったが、ここから何かが始まる良い予感しかしな

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連載第3話 テレビの中の無名時代の野口健

連載第3話 テレビの中の無名時代の野口健

北アルプスで穂高から剣岳まで広大な景色の中を歩いたが、数日後には、高校生という日常が待っていた。
鼠色の薄汚れたコンクリートの校舎。
小さな箱が何百と並ぶ靴箱。
成績の上位ランキングが張られた廊下。
そのずっと先まで続く同じ形の教室。
授業の始まりを告げるチャイム。
カタカタと響くチョークの音。

どうして自分は、こんなところにいるのか? 
生きている実感がまったくなかった。

剣岳山頂の顔に当た

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連載第2話 『旅をする木』とはじめての旅

連載第2話 『旅をする木』とはじめての旅

写真家・星野道夫さんの『旅をする木』を、とりわけその中の「16歳のとき」の章を繰り返し読むうちに、私は長野県の北アルプスにも目が行くようになった。
山岳雑誌に出てくるその山域は、アラスカを連想させる広大な山々が広がっていた。
星野さんのように16歳でアメリカに行くことは難しいが、ここには一人でもいけるだろう。

1997年の夏—―。
16歳の私は、北アルプスの北穂高岳から剣岳まで縦走した。
知識も

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連載第1話 16歳のとき

連載第1話 16歳のとき

1979年生まれ。
サッカー好きであれば、その年で思いつくのは「黄金世代」というキーワードだろう。
2002年に行われたワールドカップ日韓大会では、この「黄金世代」が主力メンバーとなり初の決勝トーナメントに進出。
その「黄金世代」は「サッカー王国」=「静岡県」の出身者が多かった。
私もその「王国」育ちの「黄金世代」。中学は強豪校のサッカー部に所属していた。
「全国制覇」を目標にしていたその中学は、

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