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毎日読書メモ(181)『活版印刷三日月堂』(ほしおさなえ)、思い出したのは『ぜんまい屋の葉書』(金田理恵)

あまんきみこ『車のいろは空のいろ』について、くどくど書いていたが(1)(2)(3)多くの人があまんきみこを読むきっかけになったという、ほしおさなえ『活版印刷三日月堂 星たちの栞』(ポプラ文庫)を読んでみた。

おお、この第一巻には、あまんきみこは出てこないではないか!

とりあえず、この物語の美しい仕掛けに酔う。舞台は埼玉県川越市。古い街並みを保存した一番街、そのすぐ裏手の鴉山稲荷神社のはす向かいにある、三日月堂という活版印刷所。店主が亡くなって閉鎖されていた三日月堂に、孫娘が引っ越してきて、印刷機に命がよみがえる。活版印刷の美しい仕上がりが、依頼主の心を救い、同時に、印刷所を復活させた弓子さんも救われる。

パソコンで版組みされたのとは違った風合いの活版印刷、各章の扉に、活版印刷機や、活字の美しい写真が入っている。残念ながら、実際の活版印刷の仕上がりを本の中で見ることは出来ないので、思い出して、金田理恵『ぜんまい屋の葉書』(筑摩書房)を引っ張り出してきた。金田理恵が、手刷りの活版印刷機で刷った葉書が収められた美しい本。この本を見ながら、物語の中で、弓子さんが印刷した、三日月堂の依頼主の名前入りレターセットとか、喫茶店のショップカードやコースターとか、女子校の文化祭で配った栞とか、結婚式の招待状とかを思う。

物語を回す仕組み(この本の場合は活版印刷機)を軸として、それぞれに悩みを抱えた登場人物たちが、弓子さんに印刷を依頼したものをきっかけに救われていく物語まわしは、ある意味王道で、悩んでいる人を次々と出せば永遠に連作は続くね、と思うが、作者の優しいまなざしに、読んでいるわたしたち自身が救われる。答えは、たぶん、それぞれの登場人物たちの中に既にあった。それを、活版印刷機がそっと後ろから肩を押す。そして、弓子さん自身の屈託も、お客さまとの会話の中で少しずつ開放されていく。

登場人物たちはそれぞれに傷ついて、この舞台に現われているので、悪人がいない、というのとはちょっと違うが、誰もが弓子さんを通じて活版印刷に触れることで救われる。それは弓子さんにとっての救いにもなる。

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』も読みたくなった。印刷所で活字を拾っていたジョバンニのことを思い出し、「カンパネルラ、僕たちいっしょに行こうねえ」のセリフに泣く。ほんとうのさいわい。

ということで、『車のいろは空のいろ』にたどり着くまで、引き続き続編を読みます。


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