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毎日読書メモ(164)『車のいろは空のいろ 白いぼうし』(あまんきみこ)

あまんきみこ『車のいろは空のいろ 星のタクシー』(ポプラ社)を図書館に返しに行ったら、棚に『車のいろは空のいろ 白いぼうし』があったので、借りてきた。今週3回目のあまんきみこ推し。1回目 2回目

『車のいろは空のいろ 白いぼうし』には、「小さなお客さん」(こぎつねの兄弟が松井さんのタイヤ交換を手伝って、お礼にタクシーに乗せてもらう)、「うんのいい話」(釣りに行って大漁だったお客さんを乗せたら、車が魚たちの世界に取り込まれ、釣った魚もみんな窓から出て行ってしまう)、「白いぼうし」(教科書にも出ていた話。帽子のなかに閉じ込められていたモンシロチョウが、松井さんが帽子を持ち上げてしまったので逃げおおせ、松井さんが帽子の中に夏みかんを入れておく)、「すずかけ通り三丁目」(空襲から逃げようとしている途中で双子の息子たちを亡くした女性が、22年たってすずかけ通りの家に子どもに会いに来る)、「山ねこ、おことわり」(山ねこの医師が、実家の母の見舞いに行く、松井さんは山ねこに怯えたが、山ねこから「山ねこ、おことわり」のステッカーを貰ったけれど、結局ステッカーは貼らず)、「シャボン玉の森」(道をふさいでシャボン玉をしていた女の子を道端まで抱きかかえていく途中で女の子がシャボン駅を落としてなくなってしまい、大泣き、「なんてこった」と松井さんが言うと、身体がどんどん縮んでいく)、「くましんし」(車内に財布を落としたお客さんの家に届けに来て、ふるさとにいられなくなった熊たちの悲哀を語られる。熊たちの故郷の「こたたん山」という名前の響きが美しい)、「ほん日は雪天なり」(松井さんはキツネたちの化け方コンテストに取り込まれ、自分はキツネじゃない、と必死に主張するが、化け方が上手だとして1等賞になる。その後、お尻のあたりがむずむずして、人間世界で尻尾が飛び出そうになる。松井さんは本当はキツネなのか??)

一瞬魔が差すと、突然世界は松井さんの知らなかった方向へ転換する。でも松井さんが全然動揺していないところが男前。いや、わわわ、と口に出てしまったりするけれど、超自然現象をそのまま受け止めようと決意して、乗客も松井さんも幸せな気持ちになる。「すずかけ通り三丁目」によると、この町で空襲があったのは22年前(昭和20年7月、とも明記されている)。なので物語世界は昭和42年頃。

よく覚えている物語と、ぼんやりした物語がある。でも、どの物語にも普遍性があり、発表されて何十年もたっていても新鮮だ。いつの間にか、松井さんの、下手すると2倍位生きてしまった気がするが、松井さんのタクシー人生はわたしの何倍も波瀾万丈、一瞬の出会いと別れの中に様々な世界が見える。情景の優しい描き方、動物と人間との遭遇譚には民俗学的なバックグラウンドがあるところなど、作者の童話に対する強い愛情が感じられる。


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