見出し画像

毎日読書メモ(162)もう1回、『車のいろは空のいろ』、そして北田卓史つながりで、『チョコレート戦争』(大石真)

昨日、あまんきみこ『車のいろは空のいろ』の話を書いたが、やはり最近読んでない本の話には隔靴掻痒感が漂い、書いていてもどかしかったので、今日の昼休み、近所の図書館に行ってきた。『車のいろは空のいろ1 白いぼうし』、家で蔵書検索をしたら、貸し出し中になっていなかったのに、棚になかった...仕方なく『車のいろは空のいろ3 星のタクシー』(ポプラ社)借りてきた。近くに、同じ北田卓史挿画の大石真『チョコレート戦争』(理論社)があったので、これも懐かしくなって借りてくる。

『車のいろは空のいろ3 星のタクシー』、収められている物語は「ぼうしねこはほんとねこ」(猫が、お母さんが入院していて箱から出してもらえなかった雛人形の町に、女の子を連れて行ってあげる)、「星のタクシー」(ペンダントを落とした星の子どものペンダント探しを手伝い、空の上の家まで送って行ってあげる)、「しらないどうし」(戦争中に空襲で亡くなった母子が、33年後、生き残って年老いたお父さんとタクシーで同乗する話、読んでて滂沱の涙)、「ほたるのゆめ」(蛍を1匹捕まえてタクシーに乗ったおじさんが、蛍にひきずられて、蛍の夢のなかに取り込まれそうになるのを松井さんが助け出す)、「ねずみのまほう」(ねずみの結婚式のお手伝いをする)、「たぬき先生はじょうずです」(歯が痛くなったたぬきの兄弟を歯医者さんまで送っていく)、「雪がふったら、ねこの市」(雪の日に、雪のカーテンを引いてできた大きな広場に捨て猫たちが集まって、ねこの市に参加する、その送迎を、松井さんの飼い猫だったチャタロウと一緒に行う)の7篇で、書籍自体の刊行が2000年だから、この本に収められた物語を読むのは初めてかもしれない。しかし、どの物語でも初期の作品同様、松井さんは自然に不思議な世界に取り込まれ、最後にはすっと戻ってくる。松井さんの大らかさが物語をやさしく進行させる。現実とファンタジー世界のあわいを描くのが、本当に巧みだな、と思う。

画像1

見返しの、町の地図。糸井川が流れていて、雪が結構降る町だが、糸魚川には糸井川は流れていない…。

かわって、大石真『チョコレート戦争』、懐かしいのに何も覚えてない。読んでいる途中で、偽物のチョコレートのお城からお菓子屋さんの宣伝の風船が出てくるところを思い出したが、こんなに複層的な物語だったか、と驚く。

まずは、冒頭と最後が入れ子構造になっていて、お菓子屋さんの大きなデコレーションケーキが毎月小学校に配達されてくる、というエピソードが紹介され、何故そのような風習が出来たか、というのが中の物語。その中の物語も、(1)算数のテストの返却とそれに由来するけんか(2)お菓子屋さんのウィンドウが目の前で割れて、冤罪を問われる小学生たちとそれを救いに行く若い女教師(3)街中の人が憧れる、高級で美味しい洋菓子店のなりたち(4)冤罪への復讐としてウィンドウにあるチョコレート製のお城を盗み出そうとする少年たちと、その企ての露見、お店の対処(5)小学校の新聞部で、冤罪の話を記事にして、それを市内の小学校全校に回し、掲載してもらい、洋菓子店への不買運動が起こる。記事を他校に運ぶときにヒッチハイクしたトラックが、実は洋菓子店の前で小石を飛ばしてショーウィンドウを割った犯人で、子どもたちの心意気に感じた運転手は洋菓子店にお詫びに行く。

(4)の部分は記憶に残っていたが、物語の肝は(5)じゃん! (2)の時点で子どもたちが冤罪になって、あれ、犯人は誰だよ、ともやっていたのだが、忘れた頃に真犯人が現れてしかも謝りに行く。(3)で超持ち上げられる苦労人の洋菓子経営者は、(2)ではやな奴だったが、(3)で上げられ、(4)で子どもたちの企てを知った上ではりぼてのお城を強奪させる遊び心を見せ、(5)で、お詫びとして小学校に毎月ケーキを送る約束をする。結果的に悪人はいませんでした、めでたしめでたし、でも、その過程をじっくり読ませる、という物語だった。1965年刊行の物語なので、子どもたちの話し言葉に古めかしさはあり、絶品菓子も、ショートケーキ、シュー・ア・ラ・クレーム、エクレールと時代を感じさせたが、爽快な読後感の物語。そしてペンは剣より強し、という主張がはっきり。

懐かしい気持ちと、時代が変わっても変わらない本質がある、という実感を持って読書した。愉しかった。


#読書 #読書感想文 #読書の秋2021 #あまんきみこ #車のいろは空のいろ #星のタクシー #ポプラ社 #北田卓史 #大石真 #チョコレート戦争 #理論社

 

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?