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米澤穂信『黒牢城』読んだ!(毎日読書メモ(286))

ようやく、米澤穂信『黒牢城』(角川書店)を読んだ。「ミステリが読みたい! 2022年版」国内篇 第1位、週刊文春ミステリーベスト10国内部門 第1位、『このミステリーがすごい! 2022年版』国内編 第1位、『2022本格ミステリ・ベスト10』国内ランキング 第1位、第12回山田風太郎賞受賞、からの第166回直木賞受賞。あと3日で本屋大賞も発表になるが、どうなる『黒牢城』!

主人公は荒木村重。摂津、池田城主に仕えていたのが下克上で当主となり、伊丹の有岡城に移る。織田信長に仕えあまたの戦いを戦い抜いてきたのが、突如寝返り、毛利につく。翻意を促しに来た小寺(黒田)官兵衛を有岡城の土牢に幽閉し、籠城を続けるが、息子が守っていた尼崎城へと脱出したのをきっかけに有岡城の守りは織田の攻撃と内紛で瓦解し、女子供を含めた多くの籠城者が処刑されたが、村重自身は茶人として生きながらえ、織田信長より長生きする。
村重の謀反はそれ自体が大きなミステリーであるが、何故謀反に至ったかはこの作品の中でも語られない。大阪の本願寺勢力と毛利輝元の援助を頼りに、町全体が城郭で囲まれた有岡で長期籠城に挑む村重の姿は、すべて計算のうち、という冷静さと共に描かれる。協力関係にあった他の城の織田方への寝返り、城内の家臣たちの動揺、様々な不安ファクターをすべて悟ったように分析する村重が、それでも片付かない気持ちを整理しようとするとき、訪れるのが地下の土牢にいる官兵衛だった。
光すらささぬ牢の中、牢番以外の誰とも顔を合わさず、何の情報にも触れていない官兵衛が、何故、安楽椅子探偵として、牢から一歩も出ることもなく、村重の抱える謎を解くきっかけを与えられるのか?
官兵衛に謎を解いて貰ったことを本人に気づかせまいと、曖昧な文脈の途中で話を終わらせ、天守に戻って、解決編を自分で書き上げていた村重だが、季節が巡るごとに、官兵衛の依存が露骨になっていくところが、時間の経過を感じさせる。
あっと驚かされる犯人、更には官兵衛が仕組んだ罠。物語の展開そのものは歴史時代小説なのに、ひしひしと身に迫るミステリー。

安土桃山時代を描いたドラマ、映画は数多くあり、信長や秀吉を演じた役者は沢山いるので、逆に特定の俳優の顔が強く思い浮かぶ、ということはないのだが、黒田官兵衛や荒木村重は、2014年の大河ドラマ「軍師官兵衛」の印象が強く、読み始めた時は官兵衛と村重役の俳優の顔がかなりちらついた。しかし、読み進めているうちに、イメージはすーっと後退。物語の構築力の強さゆえか。活字の中の村重が語り、活字の中の官兵衛がそれに応答する。深い闇。狭い牢で後々までたたる障害を被った官兵衛の苦しみ。
大河ドラマはそんなに熱心に見続けていた訳ではなかったので、有岡城籠城の部分の印象はあまり強くなく、どちらかというと、敗戦後、身をやつし、道糞(どうふん)を名乗っていた村重の姿が印象的だったのだが、小説ではそこまでは語られない。

武士にとっての生命観、一向宗徒が求める極楽浄土のありか、茶人として村重が愛した、茶壷「寅申」をはじめとする茶道具(松永久秀と平蜘蛛の釜についても一瞬言及され、今村翔吾『じんかん』を思い出す:ここ)、さまざまな小道具と、有岡城の光景を思い浮かべ、籠城の四季を読者も静かに眺める。流れる多くの血。
戦国時代の血なまぐささと、そこでしか生きられない人々の姿を見て、生命ってなんだろう、とか、人間にとって一番恐ろしいことは死なのか、とか、死生観について考えさせる小説だな、と思った。
思い返すと、不思議な位しーん、とした小説だった。

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