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米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』(毎日読書メモ(538))

米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』(創元推理文庫)、発売前から楽しみに待ち、復習しなくちゃ、と『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』(上)(下)『巴里マカロンの謎』と、ゴールデンウィークに一気読み。

『春期限定いちごタルト事件』2004年8月に刊行されたが、わたしが読んだのは2011年3月。当時書いた短いメモ
『夏期限定トロピカルパフェ事件』2006年4月刊行。わたしが読んだのは2011年6月。当時書いた読書メモ
『秋期限定栗きんとん事件』(上)(下)2009年2月刊行。わたしが読んだのは2012年1月。当時書いたメモ
『巴里マカロンの謎』2020年1月刊行。刊行直後に読んだが、当時メモをつけていなかったので、感想は残っていない。ただ、『秋期限定…』を読んで8年あいていたので、小鳩君と小佐内さんの関係性のふわっとした記憶だけで読んで(まぁ主な舞台が春夏秋の木良市とちょっと離れた名古屋で、登場人物はあんまり過去作品とかぶってないんだが)割ともやっとして終わった記憶が。4つ目のマカロンはどれか、とか、それミステリかよ、って。

『巴里マカロンの謎』を読むまで、木良市が名古屋からほど近い場所、というのも知らなかったのだが、今検索していて、このシリーズの舞台は岐阜市だったと初めて知った。知るの遅すぎ? 『氷菓』をはじめとする古典部シリーズは、作者の出身校県立斐太高校と、高山市が舞台であることを早くに知って読んでいたのだが、小市民シリーズも、岐阜県が舞台だったのか...(何も考えていなかった)。
読んでいて、それが県庁所在地都市であるなんて思ってなかった。でも、言われてみれば、そこそこ名門校の県立船戸高校に通っている生徒たちはほぼ全員市内に住んでいるっぽく、そんなに大きな市なのか? それとも特殊な学区制が敷かれているのか?、と不思議ではあった。なのに、列車(電車っぽくない)に乗るのは、市内の移動手段ではなく、名古屋とか、どこか特別なお出かけの時だけで、普段の移動はバスか自転車…。また、『夏期限定…』で小佐内さんが作った推奨スイーツリスト(このリストは、秋や冬を読むときにも時々役に立った。別刷りで挟み込んでおいてほしかった位)のバラエティの豊かさと、それが、市の中央部だけでなく、各地にまんべんなく散らばっていることなども、街の全貌が見えない感じで不思議ではあった。

話が長くなった。『秋期限定…』から15年、スピンオフ的な『巴里マカロン』からでも4年。まぁその間に直木賞とったり、色々忙しかった訳だが、いよいよ! 満を持して! なんで小鳩常悟朗と小佐内ゆきは小市民を目指すことにしたのかという、2人の中学時代の出来事があかされ、その時にわからなかった謎を解きながら、今の謎にも迫っていくという、切なく辛い謎解きの幕が開く。
(この先ネタがちょっと割れるので、これから読むのを楽しみにしている人は読まない方がいいかも)


買ってきた本には、アニメ放送開始を伝えるカードと、書店独自ではさんだらしい、過去作(これは夏期限定)の表紙絵をあしらった、その書店独自の名刺サイズのカードがはさまっていた。

小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされ、それにより大学受験が困難になったことを知る。翌日、警察から聴取を受け、ふたたび昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。迫る車に気づいた小鳩君が小佐内さんを間一髪のところで突き飛ばしたため、小佐内さんは無傷で済んだのだ。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい......。小鳩君最大の事件を描き四季四部作の掉尾を飾る冬の巻、ついに刊行。

創元推理文庫の中扉に出ている梗概より。

ここまではこの本を買おうかなと思った人が目にする情報だからネタバレとはいえないが、この先もう少し書く。

小鳩君と小佐内さんがそれぞれの悪しき志向(推理して、その推理を人に披露せずにいられない小鳩君、復讐をせずにいられない小佐内さん)を封印して小市民を目指そう、と決意した、中学時代の出来事、それも轢き逃げ事件だった。小鳩君の同級生が轢き逃げに遭い、その時に小佐内さんも現場にいて、轢き逃げには遭わないまでも、歩いていた土手の道から転げ落ちていた。
事件を呼ぶ女、小佐内ゆき。同じ土手の道で2回も轢き逃げ未遂になり、『春期限定…』では施錠してあったチャリを、鍵を壊され盗まれそれが犯罪に使われ、『夏期限定…』では拉致軟禁事件の被害者となる。そして、被害の大小を問わず(って、どれも大きすぎだろ!)、どう復讐するか思いをめぐらし、封印したはずなのに結局果たしてしまう。まとめて読んだら、小佐内ゆきの恐ろしさがじわじわきたよ、ちょっとさかしらなだけの小鳩君なんてメじゃない。いや、彼のさかしらさも「ちょっと」とは言えないが、小鳩君のモノローグとか、自分に関与しない他人への興味の薄さ(クラスメートの名字すらろくすっぽ覚えていない)とか、幼児的な世界認識が彼のさかしらさを良くも悪くも薄めているが、小佐内ゆき、小学生みたいな身体つきで、可憐に見えるのに、漏れ出るダークさが何かを呼んでしまう(チャリ盗難みたいな偶発的な事件ですら、彼女が呼んだとしか見えなくなる)。

病院のベッドでうつらうつらしながら、小鳩君は3年前の轢き逃げ事件を思い出し、改めて推理しなおす。川沿いの、何キロにもわたって交差点や脇道のない、自動車にとっては密室となっている道路で、被害者をはじめ複数の人が見かけている車が、なんですぐに発見されなかったのか。小鳩君と小佐内さんが動き回って、関係者の感情を攪乱し、しかし消えた加害車は見つけられず、結果的に、事件のことすら知らなかった第三者が重要なヒントを発見したことで、犯人は逮捕されるが、人間関係は元には戻らない。小佐内さんは復讐心を封印し、小鳩君は推理してはその経緯をぺらぺらと人に伝える性癖を封印する。

結局我慢しても性癖は漏れ出て、高校生の2人は、普通の高校生なら体験しないような過激な体験を繰り返し(封印していなかったらもっと過激だったのか? 逆に我慢してなかった方が平和だったのでは?)、その挙句、小鳩君は轢き逃げの被害に遭って、大学受験を断念しなくてはならない大怪我をする。小佐内さんが、小鳩君が寝ている間に病室に残して行った「ありがとう ごめんなさい ゆるさないから」というメッセージカード、肝がすーっと冷えるおそろしさ。小佐内ゆきを敵に回して、無事でいられるはずがない。そして次の日にはお見舞いのボンボンショコラ、これを持ってきた日にも小鳩君は眠り込んでいて小佐内さんに会えない。
究極の安楽椅子探偵はベッドの中で過去を思い出し分析する。復讐鬼は、時折病室にメッセージを届けに来るが、何故顔を合わすことが出来ないのだろう。そんなことしてないで、小佐内さんは受験に向けて勉強をした方がいいのに。

3年前の事件は、謎が解けないまま犯人が逮捕され、被害者は誰とも口をきかなくなる。小鳩君は自己嫌悪に陥り、事件の詳細を追いかけないまま、今度は自分が被害者になる。朦朧とした入院生活の中、推理だけに集中して、でもぬぐえない違和感が少しずつ大きくなり、それをなおざりには出来ない、小鳩君の脳みその別の部分が、小佐内さんと呼応し、大晦日の夜、すべてが一点に集中する。
すべての謎が一気に解決に向かい、小鳩君と小佐内さんは、真の意味で卒業のイニシエーションを通過する。
小佐内さんは、「ゆるさない」人への復讐を果たせたと自分を納得させられたのか? それとも春に小鳩君と春期限定いちごタルトを食べ、夏には夏期限定トロピカルパフェを食べることで、真の意味で癒された、と納得できるのか?
二人に、幸せな春が訪れることを、心から祈る。

どうでもいいおまけ。本文中に「メイルシュトロム」というファミレスが登場する。こここれって、先日読んだ『可燃物』の中で事件の舞台となったファミレスの名前じゃないか! 『可燃物』(わたしの感想)は群馬が舞台だったのだが、木良市にもメイルシュトロムがあるとは! 全国チェーンなのか?


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