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直木賞受賞おめでとうございます! 小川哲『君のクイズ』(毎日読書メモ(459))

昨年末、小川哲『地図と拳』(集英社)が直木賞にノミネートされたあたりから、小川哲さんの名前を聞く機会が一気に増えた。多くの書評家が、昨年の収穫として、小川さんの著作をあげるようになり、まずは『君のクイズ』(朝日新聞出版)を読んでみた。一気読み。

クイズを究める人たちの物語。であると同時にミステリー。
テレビの『Q-1グランプリ』第1回大会の決勝戦で、僕、三島玲央れおは、7問先勝の早押しクイズで先行していたのが、本庄きずなに6-6まで追いつかれる。運命の問題、アナウンサーが息を吐き問題を読もうとした瞬間に絆はボタンを押す。それまでに2回お手つきがあり、この問題を落とせば負けとなる問題で、問題を1音も聞く前にボタンを押した絆は「ママ、クリーニング小野寺よ」と答える。そしてそれは正解で、絆がチャンピオンとなる。何故、絆は問題がわかったのか?
読まれなかった問題は「『ビューティフル、ビューティフル、ビューティフルライフ』の歌でお馴染み、天気予報『ぷちウェザー』の提供やユニークなローカルCMで知られる、山形県を中心に四県に店舗を構えるクリーニングチェーンは何でしょう?」である。三島が最後まで問題を聞いても答えられなかった問題だ。それを本庄は何故一音も聞かずに答えられたのか? このグランプリはヤラセなのか? テレビ局の総合演出、坂田泰彦が本庄に問題を教えたのか? 生放送の決勝戦で、視聴者に疑惑を持たれるようなそんな回答の仕方をした本庄の意図は?

三島は、本庄の関係者に話を聞いたり、過去に本庄が出た番組の録画を見たりして、謎を解き明かそうとする。並行して、クイズに勝つために三島がしてきた努力の数々、そして、問題が読みだされたときに、最低限のキーワードで回答を導き出すための、脳内の記憶回路の働きについても丁寧に説明される。記憶を五感と結び付け、ふとしたきっかけから何かを思い出そうとする、というのは、自分自身も試験勉強の時などに無意識に行ってきたので、三島が、伊集院光のラジオ番組の名前を覚えたきっかけとか、父親の本棚の文学全集の中から『アンナ・カレーニナ』の名前を知ったこととか、記憶の手がかりを、MCの発話の中で一気に引き出す手順がすごく面白い。クイズ王になるために、沢山の引き出しを脳内に持って、必要な時に適切な引き出しを開けることとか、早押しで押し負けないこととか、三島のしてきた努力。一方でクイズ研などに所属したことはないが、記憶力の怪人として(テレビ番組の企画で、歴代ノーベル賞受賞者を一晩で暗記する、という課題を与えられて、ノーベル賞全賞の第1回からの受賞者を一晩でフルネーム暗記した、という伝説を持つ)冷静に答えを出す本庄。本庄の過去を調べる過程と、『Q-1グランプリ』での出題とその回答状況が順に紹介され、三島は謎の核心に近づいていく。

ひとつひとつの作問が美しい。同じ単語を「・・・が」と読みだすか、「・・・と」を読みだすかで答えが違ってくる問題。クイズプレーヤーの友人に話も聞いているし、参考文献としてQuiz Knockの映像や著作があげられており、クイズそのものにういて、よく研究されているのがよくわかる。
でもこれは別にクイズ王になるための入門本ではない。文学として、クイズが自分の人生を肯定してくれるまでの過程を、三島の物語としても、本庄の物語としても、描き出している。しかも、ラスボス的キーワードが舞城王太郎の『熊の場所』(講談社文庫)とは。
三島と本庄は、違う道を歩む。どちらにとってもクイズが人生で、クイズが自分を救ってくれるものだけれど、交差しない道。

直木賞受賞おめでとうございます。次は『地図と拳』読みます。楽しみです。

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