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毎日読書メモ(192)『活版印刷三日月堂 海からの手紙』(ほしおさなえ)

あまんきみこ『車のいろは空のいろ』をきっかけに、ほしおさなえ『活版印刷三日月堂』(ポプラ文庫)にたどり着いたが(感想こちら)(あまんきみこ『車のいろは空のいろ』についてはこちら(1)(2)(3))、第1巻「星たちの栞」には、あまんきみこは登場せず、『車のいろは空のいろ』が出てくるのは2巻目ですよ、とnote読んだ方に教えていただく。満を持しての第2巻、「海からの手紙」は、「ちょうちょうの朗読会」「あわゆきのあと」「海からの手紙」「我らの西部劇」の4つのエピソードで構成される。1巻の最終エピソードに出てきた図書館司書が、朗読講座で出会った仲間たちと一緒にあまんきみこ『車のいろは空のいろ』の朗読会を開催する→一緒に朗読会をした小学校の先生の教え子が、自分が生まれる前に亡くなった姉の存在を知り、三日月堂で姉のファースト名刺を作ってもらう→ファースト名刺を受け取った男の子の叔母が、封印していた版画制作に再び取り組み、豆本を作る→病気で仕事を辞めて川越の親の家に家族で戻ってきた男が豆本を手にしたことをきっかけに、反発していた亡父の遺稿集をまとめる決意をする、というように、前のエピソードが次のエピソードのとっかかりとなる、しりとりのような構造。1巻の最初のエピソードに出てきたハルさんが、ずっと出てくるのかと思ったら、本当にしりとりのように、次の物語にバトンを渡すととりあえず退場、が繰り返される。ずっと出てくるのは三日月堂の弓子さんだけ。全6巻の間に、また前の登場人物が現れて、そのエピソードの主役と絡んだりすることはあるのかなぁ?
という訳であまんきみこ『車のいろは空のいろ』を再度味わう。4人の若い女性が、先生の指導の元、地の文と松井さんや乗客のセリフを分けて担当する。といってもお芝居にするのではなくあくまでも朗読、あまんさんの文のまま、4人で読む、ということで、朗読の奥深さにも感心。『車のいろは空のいろ』所収の「すずかけ通り三丁目」は、講座の先生自身が、祖母に頼まれて朗読していて泣いてしまった、思い出の物語。「朗読って読み手だけのものじゃないのよね。聞き手と一緒にその世界に行く。そういうもの」という先生のセリフが重い。
印刷機と印刷物と、弓子さんの思い、それだけでなく、その周辺にある朗読とか、親子関係とか、版画とか、映画愛とか、さまざまな要素が、登場人物たちの気持ちのすれ違いと関係の修復をやさしく包む。小江戸川越の街並みやたたずまいも、物語にゆったりしたリズムを与える。
各章の扉に、活字や印刷機や印刷物の写真を使っているのが、第1巻同様印象的。「海からの手紙」の表紙になっている飾り罫の美しさとかけがえのなさに息を呑む。
この街で、活版印刷が見える暮らしが出来たらいいのにねぇ、と思ってしまうようなきれいな物語。人々の暮らしは決してそんなに美しく安穏なものではないが、活版印刷がかすがいのようにつなぐ人の縁でよりよく生きられるような、そんな街があるんだと夢想できるのは幸せな読書体験だと思う。

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