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「速い」企業研究から「遅い」学際研究へ:基礎研究の新たな可能性

私は、電子材料と微粒子工学の専門家として、多くの企業と共同研究を行ってきました。しかし、ある時期から、私は、農学系研究に方向転換しました。これは、なぜか?どのようにしてか?その結果はどうか?この記事では、私の研究室の展開について、その背景と経緯、そして意義と課題についてお話しします。


マイクロマネジメント型の指導

近年、日本の企業は、基礎研究を大学に委託する傾向が強まっています。材料プロセスと微粒子工学の専門家である私は、広島大学で9年間、微粒子工学系の研究室で、20社以上の企業と共同研究を実施しました。その中で、LEDや二次電池の原料となる機能性材料の開発に取り組みました。ほとんどの企業が四半期決算制度を使用しているため、それらの共同研究は、企業のスケジュールに合わせた「速い」ものでした。「速い」スケジュールを維持するために、私たち教員はマイクロマネジメント型の指導を行いました。の結果、学生は失敗を経験する機会がほとんどなく、失敗への対処方法を学ぶことができませんでした。このようなエンジニアリング・システムの場合、研究者は、プロジェクトの中心的な役割を担うことができます。均一な生成物を得るためには、温度勾配を十分に制御できる層流型反応器(チャンバー)の設計が重要です。一方、材料製造プロセスの開発と同時に、高精度な計測機器と「セレンディピティ」のおかげで水由来の空気中イオンクラスターを発見し、長期的なベストセラー製品の開発につながりました。

東京農工大学に異動した2007年、私は前職で取り組んでいた企業との共同研究をすべてやめ、新たな方向性として、農学系の研究に取り組むことを決意しました。私の研究室の目標設定の転換点は最初の年に起こりました。これまで研究対象の物質の大きさが大気汚染物質の大きさとほぼ同じ範囲であったため、大気汚染物質と植物の相互作用を研究する「微粒子と植物」(2008年~2013年)という大型プロジェクトを立ち上げることができました。大学院生と一緒に植物を育てるチャンバーを設計・作製し、プロジェクトの中心は研究者ではなく植物であることに気づきました。農学系研究者たちは約2年間毎日実験を行い、植物は10cmから200cmに成長しました。不均一な葉面と24時間空調されたチャンバーは乱流場を生成し、三次元熱流体の数値シミュレーションを行いましたが、物質の流れ予測は困難でした。

世界初、長期間で植物へのエアロゾル曝露が可能とするシステム

農学系プロジェクトを通して、装置の設計や実験においてリスクを学び、植物システムから工学的手掛かりを多く学びました。私たちは、「動的」気中粒子と「静的」葉表面の相互作用をある程度モデル化した後、微量化学成分の現場検出のためのセンシング技術と、遠隔地での使用に適した低コスト型大気粒子捕集器の開発にも取り組みました。農学系研究は「遅い」スピードで進みましたが、「有機的な」学際的プロジェクトは、工学系学生がミクロとマクロのスケールでシステムを学び、物質の「良い」面と「悪い」面を考えるための良い機会となりました。


この記事の元は英文で、2018年に在日インドネシア研究者協会(大阪大学で開催)Japan-Indonesia International Scientific Conference において招待講演の要旨でした。
https://empatlab.wordpress.com/2018/11/23/a-keynote-talk-in-japan-indonesia-conference-osaka/

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