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【ExperienceDay 2021 開催レポート】顧客中心主義の時代に求められるEXの再定義

※本セッションのアーカイブ視聴はコチラからどうぞ

私たちを取り巻く環境がめまぐるしく変化する時代のなかで、CX(顧客体験)やEX(従業員体験)のあり方そのものも変化を見せています。企業や組織が従業員あるいは顧客とより良い共創関係を築くためには、何が求められるのでしょうか。

Experience Day 2021」のオープニングとなる本セッションには、主催のプレイド・高柳氏とEmotion Tech・今西が登場。いま起きている変化を紐解きながら、これからの時代にCXとEXをどのように捉えるべきか、そして両者の“つながり”について考えます。

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いま、世の中で起きている変化とは?

高柳:
はじめに、世の中で起きている変化から紐解いていきます。今西さんは最近感じている変化はありますか?

今西:
環境の変化がすごく速くなり、予想だにしないことが起きていると思います。そういう状況に作用を受けて、顧客体験のあり方自体が大きく変化し、その変化に呼応するように従業員体験のあり方も変化しています。

BtoCのアパレルの小売企業を例にとります。今までは店舗の出店に注力し、来店客に対してすばらしいサービスや体験を提供することによってファンをたくさんつくり、企業がどんどん成長するという世界でした。しかし最近は、アプリやECでも当たり前のように服を買えます。

そのような状況で、店舗だけでなくオンライン上でも消費活動が起こり、それに対応する顧客体験のつくり方もおのずと変化しています。

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つまり、店舗での接客や品ぞろえをどうすればいいかといった観点だけではなく、アプリやECを使いやすいUIにすることや、そのサービスにおけるすばらしいUXを設計することも、接客のクオリティと同様、あるいはそれ以上に必要になってきているかもしれません。

顧客体験のあり方や理想像が変わると、従業員の動きや対応の仕方も変わります。店舗であれば、スタッフがいかにすばらしいサービスを提供できるお店をつくるかということが重要なのですが、それだけではなく、サービスのUIやUXを良くするためにエンジニアやデザイナーが自分の力を発揮できる職場づくりにも力をいれる必要がでてくるということです。

このように、顧客体験の理想が変われば従業員体験の理想も変わり、それぞれの磨き込み方を変えていかなければならないという状況をよく目にします。

高柳:
昨今のこうした環境下で実店舗でのビジネスが厳しくなり、オンラインシフトしていかなければならないというご相談が増えています。そういった変化のなかで、リアルの店舗で活躍しているスタッフの経験やノウハウを、変化に合わせてどのように活用していくかというご相談も非常に多くなっています。スタッフが持つアセットをあらためて見つめ直し、変化のなかでどう活用するかを見直す良いきっかけになっている部分があるのかなと感じます。

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今西:
そうですね。オフラインとオンラインの垣根がなくなって、お互いのアセットや知見をどうやりくりしながらいいものにしていくかという考え方は、当たり前のようになりつつあります。

先ほど環境がCXを変え、さらにはEXを変えるという話をしましたが、環境がダイレクトに従業員体験のあり方を変え、それに呼応するかたちで顧客体験のあり方やそこに対するアプローチが変わってくることもあります。

例えば我々がお手伝いさせていただいているBtoBのメーカーのケースでは、古くからの伝統がある会社なので、オフィスワークや対面での営業が当たり前でした。しかしコロナという大きな社会変化によって、今はフルリモートになっています。

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すると、従業員体験の理想像も変わらざるを得なくなっています。今まではオフィスでの働きやすさや職場環境という枠組みのなかでの従業員体験を考えればよかった状況から、それぞれの自宅で仕事をするようになり、そこで力を発揮できる環境をつくるための会社側からのサポートが必要になるという具合です。従業員体験のあり方とともに働き方が変わってくるので、顧客体験のつくり方や理想も変わってくるんですね。

今回のイベントのテーマでもあるCXとEXは、お互いに作用しあっていて、かつそれぞれの動きが環境変化の激しさによって複雑化してきています。ですから、その変化を捉えながら、CXとEXを切り離した点として考えるのではなく、つながった線として捉えて良いものにしていくかを考えなければいけなくなっています。

この複雑な関係性を紐解くうえで、データやテクノロジーが問題解決に寄与していて、その影響力がどんどん大きくなっていると感じています。

大切なのは、CXとEXを線で捉えていかにつなげるか

高柳:
今西さんがおっしゃられた通り、CXとEXは非常に密接で、点ではなく線で捉えて向き合うことが重要です。でも実際は、なかなかそれに挑戦できなかったりうまくいかなかったりするケースもありますよね。それはなぜ起きてしまうのでしょうか?

今西:
概念としては「サービス・プロフィット・チェーン」というものがあり、これは1990年代にハーバードのビジネススクールの教授が、いろいろな企業におけるCX・EXと企業収益との関係性を実証したうえで提唱した理論です。

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平たく言うと、従業員体験が上がると従業員の満足度が上がり、それによって従業員の貢献度や生産性も高くなる。さらには、お客様に対して提供するサービスのクオリティが向上する。そうするとサービスクオリティが上がり、それを享受したお客様の満足度もどんどん高まるというものです。

企業やブランドや商品のファンになって顧客のロイヤルティが高まった結果、中長期的に見ると企業の成長や収益にこのお客様が大きく寄与してくださる。企業は得られた収益をもとに従業員体験に投資することによって、このサイクルを回しながら成長していきましょう、それによって企業も従業員も顧客もハッピーになるでしょう、という理論です。

ただ、高柳さんがおっしゃる通り、その考え方が浸透していないと思っています。なぜかというと、CXとEXの関係性がブラックボックスになっていて、EXを高めたら本当にCXに影響するのか、結果的に収益が本当に上がっているのかが見えにくいからです。

収益を上げるためには、顧客体験のこういう要素を上げればいい、従業員体験のこういう要素を上げればいいということがつながった線として見えていないことが、これらを両輪で捉えながら経営をすることの難しさにつながっていますよね。

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だからこそ、データを使ってこのブラックボックスを紐解き、デジタルに見極めることが今後大切になると思います。それができるようになると、CXやEXが概念としてより広がってくるのではないでしょうか。

高柳:
タイミングとして、本格的に向き合わなければならない時代になってきたのかなとも感じますよね。

変化に対応できる企業とそうでない企業の差が開く時代へ

今西:
CXとEXのどちらか片方しか見ていないことによって、結局不完全な打ち手になってしまうことも多いので、両者をいかにつなげられるかは、これから経営において重要なテーマになってくるのではないかと思います。高柳さんはどんな変化を感じていますか?

高柳:
いまは不確実性が高い世の中になってきています。そんな環境下で、主導権が顧客にどんどん移っていて、かつものすごいスピードで進んでいるところが、不可逆な流れかなと思っています。

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つまり、Customer Centricity(顧客中心主義)の流れがあらゆる事業や産業において加速しています。こういった変化のなかで、それに対応できる企業・サービスと、そうでない企業・サービスの差が開く時代になっています。そこに向き合うために「データを使おう」「DX(Digital Transformation)を進めよう」という流れになってきているのかなと思っています。ただ、ここ最近DXという言葉をバズワード的に耳にする機会が増えていて、いわゆる“DXブーム”に違和感もあります。

今西:
同感です。DXの目的が定まっていないのに、とりあえず手段としてデジタル化を進めようとか、ITを使ったらいいんでしょう、みたいな話はよく聞きます。でも、使ってみたものの結局何をしたかったんだっけ…ということが、いろいろな企業で起こりつつある気がします。

高柳:
何のために・誰のためにDXを進めるかが重要で、今日のセッションテーマでもあるCX・EXにもつながる部分だと思っています。

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DXについて調べてみると、エリック・ストルターマン教授が2004年に書いた論文で「Digital Transformation」というワードが使われています。『Information Technology and the good life』というタイトルの論文で、非常に示唆に富んでいるタイトルだなと率直に思ったんです。

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「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」というような意味合いですが、“the good life”というワードが入っているのがポイントだと思います。企業が顧客とつながりやすくなっているなかで、エンドユーザーの生活体験が豊かになることを目指したDXこそが本質なんだろうなと。そういったものを目的としたDXの取り組みであれば、デジタル化の恩恵を受けて、より良い価値を提供しようとするスタッフにもしっかりと届き、良いサイクルが回る世界を実現できるんじゃないかなと思います。

今西:
確かにすばらしい目的の置き方だと思います。たとえ何かツールを使ったとしても、“good life”への変化がないと、それはDXとは言えないということですね。

高柳:
デジタルデータは人々の生活を豊かにするために活用されるべきで、その本質に立ち返ることは重要なポイントです。EXにおいて価値を提供するのは“人”なので、DXも人のパワーを最大限に活かすためのひとつの手段です。やっぱりこういうところをあらためて考えて取り組むべきだなと感じます。

人の価値を高めることが、顧客との良い共創関係を生み出すカギとなる

今西:
続いて、いま起きている変化に伴ってEXがこれからどう変わっていくのかを考えてみたいと思います。高柳さんは何かイメージされていることはありますか?

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高柳:
あらゆるもののコモディティ化が進むなかで、価値の差分のようなものが人によってしか生み出されない時代になっていくと思っています。価値を生み出すためには人の力が必要で、その人の力を最大限引き出すためにはEXが重要であるという流れなのかなと。

先ほど少しDXについて触れましたが、CXとEXとDXの3つは非常に密接な関係にあって、どれかひとつが欠けるだけでもダメだと思っています。DXを進めるにしても目的が重要で、その目的が顧客のためである必要がありますし、それを実現させる手段のひとつがDXであるべきです。DXの恩恵を受けて従業員の方がパフォーマンスを最大限に発揮できるからこそ、良いCXを届けられる…こういう関係になっていると思います。

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ひとつ見ていただきたい資料があります。PwCさんが出しているレポートを一部引用したもので、「Human vs Automated Interaction」と書いてあります。簡単に言うと、「人が介在するコミュニケーションとオートマティカルなコミュニケーションのどちらを求めているか?」についての国別調査結果です。国ごとにバラつきはあるものの、全体で見ても75%ぐらいが人が介在するコミュニケーションを求めているという結果になっています。

昨今AIブームやDXブームがあるなかで、デジタルデータを活用しようという流れになりがちですが、やっぱり人を超えるコミュニケーションを実現するのは難しいんだなとあらためて思いまして、こういった時代だからこそ人が生み出す価値の高まりが加速しているなと。そのうえ変化も速い時代なので、アジリティ高く人の価値をより高め、最大限活用しつつ、顧客の変化に対応していくことが最高のCXにつながるのではないかと思っています。

このあたりのアジリティの話は、Developer Experience(開発者体験)というテーマで、エンジニア視点から見た顧客体験について考えるセッションもあるので、理解を深めていただけると思います。

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EXに関するこれまでの議論は、従業員体験がすばらしい、給与や福利厚生が良いといったところにフォーカスされがちだったと思います。しかしこれからは、人が持つ最大の能力であるクリエイティビティや想像力を生かして、ひとりの人として顧客と向き合い、顧客と価値を共創できたり顧客をファン化したりするアクションをスピーディーに遂行できて、顧客からもどんどんフィードバックが集まってくるという、顧客との良い共創関係のサイクルが生まれることこそ、EXの高まりではないかと思っています。それが、これまでとこれからで違うところではないでしょうか。

今西:
私は前職でサービス業の現場の仕事をしていたので、とても共感します。本当は人がやるべきではない仕事や、テクノロジーで効率化できる作業を、何も考えずに人がひたすらこなしていることって、特にサービス業などではよく目にします。人が介在するからこその付加価値の提供は、やっぱり人間である以上欲しますよね。そこに力を使える世の中になったらすごく素敵ですし、それこそテクノロジーの成せることなのかもしれません。

これからのEX①:時間軸の拡張~EXからLX(Life Experience)へ~

高柳:
今西さんは、これまでのEXやこれからのEXについてはどうお考えですか?

今西:
これからのEXは、いま規定されている EXの概念がかなり拡張されていくのではないかと思っています。その方向性はいくつかあって、時間軸であったりその対象であったり、活動の質の部分でも拡がりが出てくると予想しています。

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「時間軸」の観点では、最近EXという概念から「Life Experience(LX)」という概念にシフトしていく必要性についての議論をよくします。どういうことかというと、EX(Employee Experience)は、職場内での体験づくりのようなところにどうしても目が行きがちですよね。給与や福利厚生がどうだ、職場内でのコミュニケーションがどうだという話になるんですが、前段にあった通り環境変化が激しくなるなかで、働き方自体も大きく変化しています。

「人生」と「働くこと」の距離がより近くなりつつあるので、企業の視点からすれば、EXを本気で変えたいならば職場だけを見ていればいい時代ではなくなっていると思います。つまり、その職場内での体験だけでなく、職場以外の人生における体験に目を向けないと、抜本的な改善はできないと思います。仕事を始める直前で家族と大げんかしたら、いくら職場環境が良くてもパフォーマンス上がりきらないみたいな事ってあるじゃないですか。ですから、EXの概念は、LXやHappinessといった人生全体を捉えるような概念に拡張していくんじゃないかなと思っています。

このあとハピネスプラネットの矢野さんのセッションがありますが、幸福とEXはつながった概念になっていくのかもしれません。

これからのEX②:対象の拡張~EXからCX(Constituent Experience)へ~

今西:
次に、「対象」の拡張という観点で、いままで「Employee Experience」と言われていたことが「Constituent Experience」に変わっていくんじゃないかと。「Constituent」はいわゆる構成員という意味で、海外ではこういう動きが出てきています。

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“Employee”と言うと、企業と従業員という雇用関係がある前提での話になります。一方、そうでないものの例として自治体とそこに住んでいる人たちとの関係性にフォーカスしたものもあります。

雇用関係はなくとも組織や自治体を構成している一人ひとりの大切なメンバーであり、関わる人たちがいかに良い体験をできるかによって、活気や収益にも影響してきます。企業と従業員とは違う関係性のなかで、いかにその構成員の体験を良いものにして、いかにその組織やコミュニティが発揮できる力を最大化できるかということは、これから重要なテーマになると思っています。

このあたりは、Day2に登場するFC今治さんの取り組みが参考になると思います。地域を巻き込みながらどのように体験をつくるか、すごく工夫されているので、EXの対象の拡張という観点で勉強になるはずです。

高柳:
我々もCXを語る際、CXのCに「Citizen Experience」という意味を含めることがあるんですが、それと非常に近い話ですね。行政から見た市民というのはお客様ではないものの、同じフィールドにいる、街をより良くしていく共創メンバーのようなものです。そういった方々も含めてよりよい関係を築いていくことは、この先ますます重要になってくると思います。

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今西:
まさに「Citizen Experience」も大切な概念だと思います。おっしゃる通り、市民ってお客様でもなければ従業員でもなく、関係性が難しいんですよね。いま規定されている概念では語りきれない部分のギャップを埋めていくような拡張は今後どんどん進んでいくんじゃないかなと思っています。

高柳:
働き方のスタイルもどんどん変化してきているので、これまであった概念とは違った形態が増えてくる可能性はありますね。そういった変化に柔軟に対応できるアジリティの高さや、変化に付いていける強さが重要になるかもしれません。

これからのEX③:活動の拡張~EXからEX(Employee Transformation)へ~

今西:
最後に、EXに対する「活動の質」についてお話をしていきます。EXはざっくり言うと従業員の働きやすさを考える活動ですが、その質が「Employee Experience」ではなく「Employee Transformation」に拡張されてくるだろうと思っています。つまり同じXなんですが、ExperienceのXではなくTransformationのX、先ほど出てきたDXのXですね。

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これは実は、ある組織のトップの方からの受け売りなんです。顧客体験や従業員体験を高めるための活動についてディスカッションしていた時に、「CXやEXを体験という意味合いで重要視して、それらを高める活動をしているけれど、全社的なインパクトを出しづらい。それだけをやっていても、何らかの課題に対して場当たり的な改善を繰り返す活動に終始してしまう」とおっしゃっていたんですね。その方が、CXやEXのXをTransformationのXだと考えているというお話をされていたんです。

CXやEXに取り組むうえで一番大切なのは、顧客体験や従業員体験の向上が重要だという考えを、どのように社内に浸透させるかであると。そういった雰囲気づくりや風土づくりが何よりも重要で、組織にいる人たちの考え方が変わっていない状態では、結局小手先のCXやEXがうまくワークしないんですね。

だからまずはトップがコミットして、全社を巻き込みながらその活動に対する意識変革を起こしていく。そういう意味でTransformationしなければならないと。その Transformation がしっかりできたうえで、それぞれの持ち場において体験の改善が行なわれてはじめて成果が出る、というお話をされていたんです。

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我々も日々いろいろな企業のCX・EXの改善に向き合うなかで、ここは一番最初の高い山なんですよね。ですから、どのように社内を巻き込んでいくかというところは、CXやEXを語るうえでは避けて通れません。

今回のイベントでも、組織づくりにフォーカスしたセッションがいくつかあります。それぞれ違う切り口からお話をされているので、生の声を日々の活動に生かしていただけたらと思っています。

高柳:
企業も組織も、つまるところ人の集合体です。すべての人に関わることだからこそ、考え方をしっかり浸透させていくことが非常に重要ですね。

あらためて考えたいCXとEXの“つながり”

今西:
CXもEXも、そのあり方がどんどん変化しています。大切なのは、それらが密接に関わりつつ、相互に作用していることを認識することだと思います。それぞれを点で捉えていると部分最適になって本当にやるべきことを見失ってしまうので、いかに線で捉えて全体最適を目指すかを考えることが大切です。今回のイベントでも、その“つながり”に着目していただきたいですね。

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高柳:
CXとEXのどちらかひとつが欠けるだけでも、豊かな生活を生み出すうえでのハードルが上がって、実現が難しくなります。変化が激しく、スピード感が求められる時代だからこそ、CXとEX、さらにはDXも含めた3つの連環をこれまで以上に意識し、全体感を捉えながら取り組んでいくべきだと思います。

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