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【ExperienceDay 2021 開催レポート】地方都市から生まれる新しい体験 ~心の豊さを大切にする社会を目指して~

※本セッションのアーカイブ視聴はコチラからどうぞ

昨シーズン、念願のJ3リーグへの昇格を果たしたサッカークラブ「FC今治」。その運営を担う今治.夢スポーツでは、「心の豊かさ」をキーワードに、地元・愛媛県今治市を盛り上げるさまざまな事業を手がけています。

本セッションでは、今治.夢スポーツでマーケティングを担当する中島啓太氏(以下、敬称略)と、FC今治のソーシャルインパクトパートナーを務めるデロイト トーマツ グループの森松誠二氏(デロイト トーマツ コンサルティング所属、以下敬称略)が対談。地元の人たちの心を動かす体験が街をどのように変えていくのか、実際の取り組みを例にご紹介いただきました。2023年の完成を目指す「里山スタジアム」の構想にも注目です。

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森松:
デロイト トーマツ コンサルティングの森松と申します。顧客体験をテーマに仕事をしていて、特に最近は、顧客体験をスポーツに応用するという観点から観戦体験をテーマに仕事をしています。

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中島:
FC今治でマーケティングの責任者をしています中島と申します。今日は、私たちのこれまでの経験をふまえながら、地方から人々の体験がどう変わっていくのか、それを通じて街がどのように変わりつつあるのかお話ししたいと思っています。

FC今治の本拠地である「ありがとうサービス.夢スタジアム」通称:夢スタは、Jリーグクラブのなかでも珍しいスタジアムなんです。何が珍しいかというと、民間の資金を使って民間の施設として建設して、民間の会社が運営しているからです。一般的には、Jリーグクラブが公共の施設を試合の日に借りることが多いんです。

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そして、お客様の観戦体験という観点では、メインは確かにサッカーの試合ですが、それがすべてではありません。試合の前後を含めて「1日スタジアムで過ごして楽しかった」「この地域にいて良かった」と、すべての人が心躍るワクワク、心温まる絆や心震える感動を感じられる場所づくりを目指しています。

森松:
私が2019年のホームゲームの観戦体験向上プロジェクトを担当させていただいた時、実際に来場したお客様にアンケートをとって、1日のイベントのなかで何を楽しんだか聞いたところ、試合そのものはもちろん、試合以外のスタジアムグルメやイベント、試合後の動画配信を楽しんでくれていて、期待もあることがよくわかりました。FC今治のやりたいことがしっかりお客様にも伝わっているのが印象深かったですね。

地元の飲食店と取り組んだ「スタグルテイクアウト」が大成功

森松:
これまでお客様の観戦体験を向上させるためにどういった取り組みをされてきたか、いくつか例をご紹介いただけますか?

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中島:
例えば「スタグルテイクアウト」は、コロナ禍ではじめたプロジェクトです。“スタグル”というのはスタジアムグルメの略ですが、いつもFC今治を盛り上げてくださっている地元の飲食店の皆さんと協力して、スタジアムグルメや選手のプロデュースフードを試合がない日でもテイクアウトで食べられるようにしました。試合を観たくてもスタジアムに行けない、地元の飲食店も客足が減るという状況が続くなか、自分たちにもできることはないかと考え、取り組んだことのひとつです。

当初、注文特典としてFC今治の選手グッズを付けたのですが、スタート初日に在庫がなくなった店舗もありました。地元の飲食店の皆さんと一緒に難局を乗り越えていこうとはじめた取り組みが、お客様の良い体験につながって、「時期が落ち着いたらスタジアムに行こう」と思えるきっかけをつくれたのではないかと思います。

もうひとつの例は、中央下の写真に、電話をかけている男性2人が写っています。実はFC今治の選手なんですが、シーズンパスを持っているお客様に「スタジアムにお友達を連れてきてください」と電話をかけているんです。選手自ら、ファンの皆さんと一緒にスタジアムや地域全体を盛り上げていきたいと伝えたんですね。

いきなり選手から電話がかかってきてびっくりされた方もいらっしゃったと思いますが、多くのファンの皆さんに喜んでいただけました。約300件電話して、つながったのが250件、当日スタジアムにお友達を連れてきてくださったのが208名、しかも今までスタジアムに来たことがないお客様を連れてきてくださったんです。

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マーケティングではどうしても数字を追いがちですが、最後の決定打は「人の心を動かすこと」だと思っています。一人が動くことで周りの人の心が感化されてお客様が動く、そういうちょっとした心の連鎖によって大きなものが動きはじめる、それを感じた取り組みのひとつだったと思います。

念願のJリーグデビュー戦は無念の無観客試合。コロナ禍で再認識したスポーツの価値

森松:
昨シーズンはFC今治がJ3に昇格した初年度で、やっと船出をするタイミングでしたよね。それがこういった状況になったことで、やりたかったことができず、出航を止められた感じがあったと思います。そのなかで1年間やってきて得られたものをご紹介いただけますか?

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中島:
大きく2つあります。
ひとつは、私たちスタッフが当たり前と思っていた基準が変わり、変化に対して柔軟に適応しなければならないと気づいたことです。昨シーズン、FC今治にとって記念すべきJ3リーグのデビュー戦は無観客試合でした。みんなが楽しみにしていたはじめてのJリーグの試合に観客が誰もいないという、自分たちにとっては本当に悔しく、サポーターにも申し訳ない状況でした。それ以降も観戦に関するルールが状況によって刻一刻と変わっていくなかで、お客様に感動を届けるためには自分たちが変わらなければならない、今起きている変化にフレキシブルに対応して、お客様に最大限の感動を届けるスタイルに変えなければならないと、社内で議論を重ねました。

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もうひとつは、社会に明るい話題が少ないなかで、 FC今治が少しでも地元に明るいニュースをもたらす希望の星になれたと実感ができたことです。ある時、地元の医師会の会長の方が弊社の社長に連絡をくださり、「社会に明るい話題がなく皆が苦労しているけれど、FC今治の活躍にみんなが期待している。FC今治が勝ったというニュースは、地元の人にとって誇らしく、元気が出る。だから一緒に頑張っていこう」と言ってくださったんです。

スポーツは、生きていくのに欠かせない衣食住とは異なります。でもその本質は人に希望を届けることなんだと実感することができました。勝ち負けに一喜一憂するだけではなく、人生の体験をより良くしていくためのみんなの希望を背負っている。それがスポーツの価値であり使命でもあるのかなと、あらためて思いましたね。

森松:
コロナの状況がまだ続くなかで、サポーターの方々の体験に関して、どのようなチャレンジをされていますか?

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中島:
一つひとつの試合でいろいろなことにチャレンジしようとしていますが、長い目で見た時には、スタジアムの外での観戦体験も大事なポイントになると思っています。スタジアムに来ることがサッカーを応援すること、チームを応援することが街を盛り上げることだと、多くの人が考えていると思いますが、これからきっとそれは変わっていくだろうと思っています。

スタジアムという一点の場所、試合の日という一点の日だけではなく、地域全体、人生全体、その全体に対してアプローチしていかなければならないと考えています。

FC今治=サッカーだけじゃない。人々の心の豊かさを追求する3つの事業を展開

森松:
FC今治は、サッカーを軸にしながら、それ以外の分野でもいろいろな体験を提供されながら人々の心の豊かさを追及されていますよね。

中島:
FC今治は今治.夢スポーツという法人が運営しています。
会社には「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という企業理念があります。それを実現するために、スポーツ・健康・教育の3つの柱で事業を展開しています。

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例えば、我々は「しまなみアースランド」という自然公園の指定管理を受けていて、そこで子どもやファミリーを対象に環境教育プログラムを実施しています。「地球の道」というプログラムでは、地球の46億年の歴史を460mの道に置き換えて、インストラクターのガイドを聞きながら実際に歩いて、地球の歴史や環境問題を学ぶことができます。
「しまなみ野外学校」も教育活動の一環で、自然資産を活かして本当の豊かさを考えるきっかけに出会う野外教育プログラムです。自然のなかで、はじめて出会った子どもたち同士が自分たちで考えてゴールにたどり着く、その一連の体験をプログラム化しています。

人間は自然という大きな存在のなかで生きている、その中で他者と共に支え合って生きていく、それが心の豊かさなんだということを、教えるのではなくアクティビティを通じて本人たちが考えるきっかけづくりをしています。

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「バリチャレンジユニバーシティ」は、次世代のリーダーを輩出していくワークショッププログラムです。毎年100人近くの若者たちが今治に集まって、地域課題解決のアイデアを泊まり込みで議論し、最後に発表を行います。

我々はこうしたサッカー以外の活動も積極的にやっていて、それは利益やシナジーが生まれるからという理由ではなく、企業理念を体現するために必要な事業だと思って取り組んでいます。

森松:
こういう体験プログラムは社員の方も参加されているんですよね。そこから得られる気持ちの変化や心の豊かさ、従業員体験に関して取り組んでいることはありますか?

中島:
僕自身は、みんながいろいろなことにチャレンジできる環境づくりが大切だと考えています

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事業の延長線上だけで考えるのではなく、地域を盛り上げるために自分たちにできることがあるならば、企業理念に則って考えてやってみたらいい、もし失敗したらやめてもいいし、方向を変えればいい。会社としては、企業理念に則って、一人ひとりが主体的に働ける職場環境づくりをしていこうと常に心がけています。

森松:
私は中島さん以外にもいろいろなFC今治のスタッフの方とお会いしますが、企業理念をそのまま復唱するのではなく、自分の言葉に置き換えて、一人ひとりが意志を持って行動しているように感じます。それはやっぱり教えてできるものではないですよね。

中島:
私も大それたことを言う立場ではありませんが、やっぱり気づくことが大事だと思います。誰かがつくった道を歩くだけではなく、みんなが目指すところに向かって自分で道を開拓していく、そしてその様子を見て仲間がサポートする構造が必要ではないでしょうか。

スポーツのあらゆる可能性を体現するプロジェクト「里山スタジアム」が始動

森松:
さまざまな事業に取り組んでいくなかで、最近新たなプロジェクトが始動しているんですよね。

中島:
実はいま、「里山スタジアムプロジェクト」を進めています。FC今治の専用スタジアムである「夢スタ」は、残念ながら、自分たちが最終的に目指すJ1のスタジアム要件を満たしていません。そこで、2023年のシーズン開幕に向けて、新たなスタジアムとなる「里山スタジアム」をつくろうと計画しています。

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“人々が365日集う場所”がコンセプトで、スタジアムと言いながらスタジアムではない、人々の心のよりどころをつくりたいと思っています。サッカーをやるための場所というよりは、街全体を盛り上げていくうえでのシンボルをつくるんだという想いでみんなで取り組んでいます。

日本に古くからある里山のように、みんなが手入れをしたり、ふらっと足を運ぶと気持ちが安らいだり。そこに行けば誰かと会えて、誰かと会うことで自分の人生が豊かになる。そして、この街に住んでいて良かったなと思える…そういう場所を目指しています。

心豊かな社会づくりのための街のシンボルを、我々は里山というかたちでつくろうとしています。このチャレンジを掲げた時、本当にたくさんの人が「応援するよ」と仰ってくださいました。何でも便利で快適な世の中になっていくなかで、人の心を大事にしていくべきだと、多くの人が感じはじめているのかもしれませんね。

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森松:
コロナの影響によっていろいろな価値観が変わり、これまでのことが通じなくなってきたなかで、スポーツにはあらゆる可能性があって、人々の心を動かし豊かにしてくれます。それを体現するのが、この「里山プロジェクト」なのかなと感じます。2年後に完成するのが楽しみでですね。

地方都市から人の心を動かす体験を発信。FC今治の終わりなきチャレンジ

中島:
地方都市は、これからどんどん大事な存在、人々の生きがいを感じられるような存在になっていくと思いますし、スポーツや教育、芸術や音楽は、社会の豊かさをつくりあげていくと思います。

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僕たちのチャレンジはまだまだ道半ばですが、大きな夢を持って、地域の人に愛されるような存在になりたい。結果として、「この街に生きていて良かった」、「あの人たちと一緒に応援できてよかった」と、自分の人生が豊かになったと少しでも感じてもらえるような存在に進化していきたいですね。

森松:
今回のセッションを観ていただいた方々には、里山スタジアムができてからはもちろん、完成までの過程にも注目してもらいたいですね。
今日はお付き合いいただき、ありがとうございました。


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