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名画の「構図」を学ぶワークブック

イタリア・ルネサンスを中心に西洋美術史に出てくる名画を主な題材として、知識ゼロからはじめる「構図」分析のお話をしたいと思います。

多種多様な学科に所属しているごく一般的な大学生に向けて西洋美術史系の授業をしております非常勤(アルバイト)講師です。

ギリシャ・ローマ神話やキリスト教にまったく詳しくなくても楽しめる、かつ、ためになる授業を展開しようと日々心掛けています。その中からいくつかお話をご紹介できればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。


1.見る

まずはポケ~っと作品を眺めたいと思います。

30秒ほど、眺めてみて下さいね。

f1, M del Prato, 1 - コピー

RAFFAELLO Sanzio, Madonna of Belvedere (Madonna del Prato), 1506
Oil on wood, 113 x 88 cm, Kunsthistorisches Museum, Vienna


2.考える

絵を見ながら、以下の三つの点について考えたいと思います。

(1)真ん中の女性のポーズを実際にしてみて下さい(鏡に映ったように真似てみて下さい)。どんな感想を持ちますか?。
(2)子供二人が細い棒を持っていると思います。画面上、その棒と平行になっている部分は、どこでしょうか?。
(3)真ん中の女性の右足は、画面右方向にぐっと突き出ています。
彼女のその右足の膝下の線と、画面上、平行になっている部分はどこでしょうか?。


3.「構図」の工夫を知る

(1)真ん中の女性のポーズを実際にしてみて下さい(鏡に映ったように真似てみて下さい)。どんな感想を持ちますか?。


 きっと、彼女がかなり不自然なポーズをしているということが判ると思います。
「けっこうひねる」
「(この女性の)右足はぜったい長すぎる」
「このポーズで静止できない」
「(自分の)右足をどうしたらいいか分からない」
・・・やってみるとわかること、たくさんあります。

ただ見ていた時には特に疑問も持たず、自然に思えていたポーズですが、これは実は、何らかの意図があってわざわざ「作り込んである」のだということが体感できることと思います。 

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真ん中の女性は大きなピラミッド型を作っています。その左下では、二人の子どもがピラミッド型を小さく繰り返しています。
これらピラミッド型が、構図全体に安定感抜群の効果を与えています。

画像4

(★、筆者による線の加筆あり)        (オリジナル) 

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(2)子供二人が細い棒を持っていると思います。画面上、その棒と平行になっている部分は、どこでしょうか?。


 実は、平行になっている部分は一つではありません。

 向かって左の片膝立ちの子、中央で立っている子、それぞれに、棒に平行な斜線で構成されている部分があります(左の子は上半身と頭の軸、中央の子は左足と頭部の傾き。下図参照)。
 彼らのポーズは動きの中の一瞬を捉えたような自然な印象を与えるかもしれませんが、当然ながらこれらはよく考え抜かれて構成されています。中央の女性の左上腕と左手甲のところにも、同じ平行線が隠されています。 

画像7

(★、筆者による線の加筆あり)       (オリジナル)

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(質問3)真ん中の女性の右足は、画面右方向にぐっと突き出ています。
彼女のその右足の膝下の線と、画面上、平行になっている部分はどこでしょうか?。


彼女の右足の膝下の線は、画面の対角線の上にあります。
その力強く目立つ斜線は、画面左上にある雲の狭間を示す白い斜めの小さな線と結びつくことで、右下から左上までの対角線全体を一気に繋ぐラインを作り出しています。かつそれは、近景から遠景までを巧みに繋いでもいます。
 この対角線に平行な斜め線は、数多く現れます。

画像5

(★、筆者による線と楕円の加筆あり) (★、左に同じ)


複雑なポーズをバランスよくまとめあげるには、このように小さな平行線の積み重ねで、幾何学的リズムを生み出すのが効果的です。

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4.まとめ

画家は、さまざまな構図上の工夫を駆使しながら、画面を知的に「構成」しています。その構成の妙を読み取り、楽しめるようになりたいと思います。

真ん中の女性は聖母マリア、立っている子は幼児キリスト、片膝立ちで座っている子は洗礼者聖ヨハネです。普通っぽい「作品解説」(?)は次の記事(補遺)にあります。


最後まで読んで頂き、どうもありがとうございました。


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